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四月の切り取り線、あるいはのりしろ
三カ月おきの治療の日。開門直後の大学病院の入口はCOVID-19のせいで厳戒態勢だったけれど、中に入ってしまえば患者のほうが少なくてのんびりした空気。入院での手術も行なっているようだ。この時期にはいつも研修の人がいるから、今日は主治医の後ろの丸椅子の上に若い男の子が座っていた。 エコー検査はうやむやにしたまま二回目の延期。手術跡の確認をすることもなく。六本採った血液の検査結果もまったく問題がないらしい。まあ、大丈夫ってことなんだろう。 「もうすぐ二年……、まだ二年か。もうちょっとかかるねー」 当初は十年って言われていたから、そこからするとずいぶん短くなりそう。今の治療、早く終わるといいな。採血なんかの注射器に比べて数倍針が太くて怖いんだ。 そういえば、今日の注射を担当してくれた看護師さんは四月の配置換えで来たばかりなのか、やたら緊張していてこちらまで緊張した。 「痛いですよね、ごめんなさいね」 「はい、怖いから見ないようにしているんです。するほうも怖いですよね〜」 「そうなんです、針が肉とか、いろいろかき分けていく感じが」 ゆかいな会話。なにか喋っていないと落ち着かないみたい。これは今しか見られない彼女の姿だ。いいものを見たと思う。名前も知らない人だけれど。 採血や造影剤の注射のたびに担当者から血管が細いと言われる。私にどうにかできるわけじゃないのにと思いながらも「よく言われます〜」と答える。そうかこの人も不安なんだな、人間なんだなと気づけたから、こうして病気になったのもよかったのかもしれないと考えているし、最初のしんどい治療と比べればすべてのことが楽に思えるから。 転んだってただでは起きない。なんて、ずいぶんと余裕が出てきたもんだ。書いて描いて剥ぎ取って、軽くなる身体。軽率? それでもいいよ。
四月の切り取り線、あるいはのりしろ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1432.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 4
作成日時 2020-04-29
コメント日時 2020-05-03
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 4 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 4 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
かなりアップートゥーデートな内容も出て来ますが、新型コロナとは直接は関係のない話題ですね。手術までしているとなれば、その深刻さが窺い知れるわけですが、血管の細さをどうとるべきかと思いました。大動脈との比較で、毛細血管の事を言って居るわけでもなかろうから、何か比喩的な意味であろうかと思いました。採決の時における緊張感は普遍的なものがあると思います。それが配置換えされたばかりの看護婦さんが担当するとなればなおさら。血液検査の結果も問題ない様なそこらあたりは読んで居ても安堵の思いを共有できたような気がしました。
1エイクピアさんコメントありがとうございます。最近ゴルに参加できてなくてごめんなさい。 エイクピアさんのコメントを読んでいて、あ、これ失敗したなーと思いました。笑。 真ん中に出てくる看護師さん。彼女は採血をしてくれたのではなくて、太い注射針をお腹にぶっ刺して錠剤を埋め込む(?)治療をしてくれています。大学病院ですから、採血は採血室で専門の職員がやってくれます。説明不足だった〜失敗。 最初の治療から数えると二年半ほどいろんな治療を受けてきて、さらに職場の健康診断の様子などを併せて鑑みるに。おそらく採血は、比較的楽な注射です。血を抜くだけですから。注射をする人がより緊張していると感じるのは、造影剤とかなんらかの薬剤を注入するための注射の時。命の危険が伴うので。 ここに出てきた看護師さんは、別の科から移ってきてほとんど初めて薬剤を埋め込む注射を行なったらしい。だから、緊張していたのだと思います。 今の病気が見つかるまで、私はほとんど病院にかかることはありませんでした。「医者や看護師は的確な判断のもと冷静に正確な治療のできる超人的な能力の持ち主」と思い込んでいたくらいに医療現場を知らなかった。でも実際は、迷ったり不安になったりしながら働いている。みんな普通の人間なんですよね。それがわかってよかったなあと思っています。 そうそう、大学病院のCOVID-19対策。エイクピアさんはどうかわからないけれど、行かない方はご存じないと思いますのでついでに書いておきます。 都内にある、感染症指定医療機関にはなっていない大学病院の4/28の様子です。 正面玄関に二箇所ある自動ドアの左側を入口専用、右側を出口専用にして人の流れをコントロール。入口では看護師らしき人が待機していて入館者のマスク着用を確認。手の消毒の指示があり、肌にかざすだけで測れるタイプの体温計で体温測定。37.5℃以上の人は入れない。 大学病院なので予約診療のみなのだけれど、予約を極力減らしているのかロビーにいる患者はまばら。当然ながらカフェスペースやレストランも閉鎖。入院着の人を見かけたので入院での手術はできているらしい。 私の立ち寄った採血室と総合受付にはコンビニのようにビニールのカーテンがかかっていてカーテン越しのやりとり。各科の待合室も人がまばら。私のかかっている科はCOVID-19と直接的な関わりはないので、特別な緊張感はなし。むしろ、普段より診察件数が少ないうえに研修生の受け入れ時期で和やかな雰囲気さえ感じる。 一患者視点ではこんな感じでした。感染症指定医療機関だったらもっとピリピリしていたのかなあと思われます。 エイクピアさんはじめ、みなさまくれぐれもご自愛くださいね。
0そう軽くなきゃいけないと思うんだよね 2020ともなると 軽く軽くなって大気圏を突破して月でリフティングしなきゃいけないと思うんだ ほんわかしてるけどちょい不穏なエッセイ よきまるでは!! おだいじに!
1Um Fantasmaさんコメントありがとうございます。 大気圏を突破して月でリフティング! めっちゃいいですね。私は運動はからっきしなので、もし月に行けたら謎のダンスを披露したいと思います。ひらひら。 おだいじに!って声かけがとてもうれしかったです。私は健康ではないけれども元気です。
0ABさんだ! ご無沙汰しております。 はい、次につなげると紙の下になって見えなくなるような、時間が経てばあったかどうかさえわからなくなるだろうものの切り抜きとして書きました。実は、このまま何事もなく元気に歳を取りたいという願かけだったりします。笑。 私は治療の関係で、手術前が一番つらかったです。今は、主治医からもう心配ないとお墨付きがもらえるのを待っているだけなので楽です。 私はABさんの書かれるもののほうがよっぽど優しいと思います。ちゃんと他者に開かれているもの。
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