誰にもすがりつけなくて
心ぼそい夜が来て
あの節くれた指が太くて
広く大きな手に触れたくて
高村光太郎の詩を開いて
誰もいないはずのホームにて
ゆっくり誰かが歩いて来て
ふっと消えた気配だけして
祭りごとでもあるまいに
コンクリート造りの古屋に
週一回だけ帰宅するたびに
ケガレタからだ清めるために
斎戒沐浴シャワーのあとに
ビールを開けても窓の外に
酔った男と女たちが夜を響かすよに
笑いさんざめきながら帰る声に
もう再びあうことはないかのように
四歳の息子の手をひいて
家並みの陰に乗じて人目に隠れて
こっそり公園に忍びこみて
いぬころのように転がって
遊ぶそのかたわらの路上にて
知らぬ母親が自転車のうしろに娘を乗せて
何かに追われるようにせまり来て
吸いこまれるがごとくに白い電柱に激突して
親子が硬い路面に叩きつけられて
座席ごと倒れて泣いて母を呼ぶ娘がいて
前カゴの荷物も散らばり落ちて
それでも倒れ伏したままの母親を見かねて
走り寄って助け起こす手つきに迷いはなくて
息子を抱き上げるようにして
母親の両脇深くに手を差し入れて
「あらあああ、あいたたたぁ、いたかった」って
声かけながら三十そこそこの母親を抱き起こして
汚れを払い重い電動自転車もひき起こして
荷物も集めて娘のすり傷の具合いもみて
それでもなんの声も出せない女の様子を見て
女の憤激と自責と虚無と恥辱を察して
振り返って
目にした息子は父親をいぶかしむ顔をしていて
知らぬ人妻を不意にかきいだいてしまって
指を手をはわせた感触とあわせて
忘れがたい記憶になって
作品データ
コメント数 : 2
P V 数 : 1312.4
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作成日時 2020-04-26
コメント日時 2020-04-27
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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2024/11/21 20時31分01秒現在
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畳み掛けていくフレーズ感が心地よい反面・・・語尾を揃える、その効果が、うまく発揮できていない気がします。 全体に言葉が多い気もしますが、絞りこんでいくか、語尾の変化も含めて、読みの目が止まるアクセントを設けるか・・・そんな工夫があるといいかもしれないと思いました。 手のイメージ(触感と、そこに生まれる安らぎや安堵への情景)が全体を緩やかに連結しているところにひかれました。
0まりも さん お言葉いただけまして ありがとうございます。 めずらしく酔いの手なぐさみで メモ帳にいきおいで書きつけたものを 吐きだしてみたくなる夜の独り言でした。 詩題はただ、この混乱の世相を生き残っていたら 思い起こすためだけの日付です。 他者の「て」に不用意に触ることが なにより死の危険を招いてしまう今この時 人間の隠されていた暗愚な側面を毎日毎日見せつけられ マスクにさえぎられたひとびとの内心に鬱積するもを 吐き散らしたくなるのは、なにも詩人に限ることもなく とめどなく悪臭を散らす放屁のごとき言葉たちに 「脚韻」という外出自粛のしばりをかけるしかありませんでした。 しかし 「語尾を揃える、その効果が、うまく発揮できていない気がします」 という疑念はその通りでして この緊急事態宣言にもとづく外出自粛がもたらす「効果」よりも それがひきおこす「経済的損失」にばかり心が塗り固められ 安全と生命と財産の全てを人質に取られる不条理さや この外出禁止措置の、PCR検査の、意味と無意味のゆらぎのような 「脚韻」でしかありません (フフフ…これは後付けの屁理屈だってわかっちゃいますね) 絞り込めも、アクセントも器用につけるどころでなく ただ不安を垂れ流すように延々とボヤキつづける老人みたいに 言葉はまとまらず止まりません。 無意識に救いの「て=手」を求め続け 背負わせれる金銭負担という「に=荷」の多さに 最終行が終わりではなく この連呼があと何ヶ月続いてしまうのでしょうか……
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