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戦場のカメラマン
戦場カメラマンの私は、突撃して頭を撃ち抜かれる兵隊の影を撮った。 それは、バレエのハイライトを連続で見ているようだった。 この世の醜い現実を世間に届けようなんて使命感は私にはない。 個展を開催し、イベントで幾ら話したとしても 戦場に出向かわなければ、無いのと一緒だからだ。 私は自分の撮りたい命の緊張がそこにあるから行ってるだけだ。 別に立派ではない。 そんな私の写真を見て、あれこれ考えてくれる人達の方が立派だと私は言いたい。 戦場のお前達よ、尊い人生が馬鹿げた宗教や政治で壊されて こんな舞台に引きずり降ろされる気分はどうだい? 持たされた機関銃を国のお偉いさんに撃ちたいとは思わないのか? 敵なのか味方なのか分からない声が やり場のない怒りと悲しみが 殺意となって人を射殺する。 母なのか妻なのか彼女なのか、とにかく名前を叫んで泣いている 全てを諦めた彼に対して、向こうの軍服と機関銃を背負っているなら撃たなければならない。 倒壊した建造物に潰されないで、まだ花は咲いていた。 命が交差に駆け巡る大地で、踏まれずにまだ咲いていた花を写真に収めた。 誰もが見上げない空は、争いが起こる前と変わらない。 幾ら手を伸ばしても届かない、青い空。 何処にも所属していない、部外者の私だけが今この場で見上げている。 知らん顔で空を高く飛ぶハゲワシを一羽、写真に収めた。 ついて来るんだと言われて、穴だらけの土を固めた家に入ると 老婆が子供を抱きしめながら、部屋の隅っこでこちらを見詰めていた。 私がカメラを向けて撮影した直後にその兵隊は射殺した。 死んだ後も写真に収めた。 無言で訴え掛けて来る瞳は、鉛の塊に潰されていた。 それで良いのかもしれない。 だって、ここで抑え込んでいた優しさがまた芽生えたら生きていけない。 無抵抗と言う名の抵抗に、勝たなければいけないんだ。 常に興奮をさせて周りを見えなくしていないといけないんだ。 あの野郎は最悪だ、俺が生き抜いた後の人生に後悔で住み着きやがったんだ! 案内をしてくれていた兵隊は、私に怒りながらそう言った。 鼓舞する為、肯定する為に私を使った。 兵隊から奪った機関銃を無差別に発砲する少年がいた。 これだけ大勢の人が行き交うのに少年に味方は居ない。 何処までも孤独な先兵となり果てた。 倒壊しながらも知り尽くした町で、彼は見様見真似で兵隊を撃つ。 狂えない感情を引き連れて、高い所から撃ちまくる。 ロケット弾が飛んで来て、私は地面に伏せた。 少年のいた建物は大きな爆発と共に倒壊した。 そして、日は暮れだして今日も何とか私は生き延びて来れた。 突貫で作られた基地では、ケガをしている兵隊が綺麗な白い包帯を血で汚していた。 手足を縛られて傷め付けられた、市民と敵兵はこれからどうなるのだろう。 余所者の私が考えても仕方のない事だ。 上目遣いでこちらを睨む、その姿を写真に収めた。 数カ月に及ぶ戦争は私の付いた軍側が勝利を収めたが、私と母国には影響は及ばない。 母国では芸能ニュースや天気予報と同じ割合で報道された。 負傷者数、死者数は数字でのみ報道されて、その重さがどれ程のものかを感じさせなかった。 電話が鳴り、今回の戦場は如何でしたか?と個展を予定している会場の館長が私に尋ねる。 今回も悲惨でした…この悲しい現実を、この国に、世界に届けなければと思いました。 自分達が過ごしている日常のありがたさを、この戦争を通して考えて欲しいと思いますね。 はぁ~そうですねぇ、戦争は良くないですもんねぇ。と実感のない返事が帰って来た。 別にそれでも構わない。私も言わされているだけだから。 私はのんびりと酒を飲みながら、ホテルから街を見下ろす。 銃声や叫び声の聞こえない、殺意もなく緩やかな命の交差が行われていた。 時々、この流れを見ていると生命を感じない事があるが、それも自然と抜け落ちていく。 皆、今だけを見詰めないで生きている余裕のある人達ばかりだなと私は笑った。 お前達に影響もない、関心のない世界では、多くの人が今だけを見詰めて死んでいったっていうのに。
戦場のカメラマン ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1337.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 11
作成日時 2020-04-25
コメント日時 2020-04-25
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 4 | 4 |
総合ポイント | 11 | 11 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.5 | 0.5 |
前衛性 | 0.5 | 0.5 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 1.5 | 1.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2 | 2 |
総合 | 5.5 | 5.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
この作品に二度目を通して私の頭には村上龍氏の『トパーズ』という作品の文が呼び起こされました。『トパーズ』は読まれた方もいるかもしれません。『トパーズ』は小説ということになっていますが、私には「詩」のようだと思われたものです。この『戦場のカメラマン』の作者さんは作品に「現代詩」タグを付けています。「現代」のところは私はいつも神経質になる部分で、ここでもまだ私には何も言えないので触れないことにしますが、ただこの『戦場のカメラマン』が「詩」としては受け容れられると私は思いました。つまり「小説」的な作品ではあるが「詩」として受け容れることができるということです。 また、『トパーズ』もそうでしたが、同じように『戦場のカメラマン』も表に主義主張を打ち出していません。確かにたとえば『戦場のカメラマン』の最終行には、 >お前達に影響もない、関心のない世界では、多くの人が今だけを見詰めて死んでいったっていうのに。 というようにあって、これはメッセージのように思われるかもしれませんが、どこか物事を描写しただけであるような感じがあります。少なからずところどころ主人公のカメラマンが自分の考えや思いを述べる部分がありますが、そういう箇所も同じです。 『戦場のカメラマン』は全体的にカメラマンである「私」の精神の中にあるものや入ってきたものを描写することに徹しながら一個のストーリーを成しているものであるように私には思われます。 書かれている内容はあまり新しいことではないと思いますが、それをここにまた書き起こしたということが新しいことだと私は思います。描写力は優れていて、作品と成すにはかなり労力を要するものであると思います。描写力の確かさは出版にも耐えられるくらいのものだと思いました。
0お読みいただきありがとうございます。 私は普段、空想的な事ばかり書いていたので 今更になって個人的に理想である このカメラマンを詩で書けるか悩んでいましたがホッとしました。 村上龍さんは 限りなく~とコインロッカーしかちゃんと読んだことが無かったので 近いうちに読んでみたいと思います。
0初読の感想です。最近は詩と物語をどうやって両立させるのが良いのだろう、ということでよく悩んでいるため、勉強になりました。特に場面転換については、どこを手抜いてどこを密にやればよいか、ぼくのばあいはすぐにワケが分からなくなるために、テンポなど含めてとても勉強になりました。 すでに南雲さんが良いコメントをされているようなので、あえていちゃもんをつけるとすると、気になった点が二か所あります。 一つ目は、二行目の「それは、」です。ここだけちょっと英語的というか、これは、たぶん語り手と兵隊との精神的な距離感を強調しているのかもしれませんが、若干ぎこちない気がします。この一文はそのままに、「それは、」を抜いたほうが、語り口として自然な気がします。 二つ目は >はぁ~そうですねぇ、戦争は良くないですもんねぇ の「~」です。この物語の登場人物はカメラマンと戦場と世界と人のざっくり言えば4人いて、カメラマンさんは自分以外の誰とも分かり合えていない(はっきりとは描かれていないが、世界に対しては気後れしているに違いない)。ある種その象徴となるシーンだと思うのですが、既にここまでにカメラマンとそれ以外の間にある決定的な温度差は十分描かれている印象です。ので、ここで「~」はやや過剰というか、字面がやっぱり間が抜けすぎている気がします。これまでに、ここまで明確に対立が描かれていたのなら「はぁ、」とあえて少し淡白なくらいでもよかったような気がします。
0お読み頂きありがとうございます。 意図した訳ではないですが、英語訳みたいな説明っぽさが その場に居るのに他人事感を出せてると思います。 多分、戦場で暢気に例えてらんないと思うんですよ。 そこがこのカメラマンの別に使命感なんて持ってないに繋がると思います。 ここの館長は 今だけを見詰めないで生きている余裕のある人達の典型、代表です。 戦場カメラマンが写真撮ってきた、此処で個展をやる。 とりあえずあいさつせんとな。 (他の事を考えながら)はぁ~そうですねぇ、戦争は良くないですもんねぇ。 っていってるんです。 私は「はぁ、そうですねぇ」だとちょっと感心があるように思えます。 言葉をちゃんと飲み込んでます。 私の個人的な人間関係で 形だけあなたの近況に感心あります 聞きたいですアピールしといて へぇーそうなんだーって伸ばす奴がいるんですよ。 聞かせてやりたいです。 ほんと棒が見習うくらいの棒読みですから。 そいつみたいな糞っぽさが欲しかったんでそうしました。
0追記です。一度コメントごとブラウザを閉じてしまったので書き漏らしたのですが、館長に関しては、はじめ、「これがもしも映像作品で声があったら…」ということについて言及していました。さながら通販番組のはやしたて役みたいな声の調子で演技されたら、安全圏のはずなのに、どうしてか見知らぬ緊張感のある静かなホテルと対称的で、これは決定的なシーンということになるのだろうな、と思っています。
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