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田舎の夢
疾病の如く 田舎の夢は 私のうつつを蝕むのだが やれ 労働に やれ 生活感に うずもれるよりはいくらかいい 青草どもは夜気に濡れて 冷たく澄んだ朝の野は 無量の露を灯している 柱の木目を 虫螻の細い列がくすぐり 天井の隙間から白んだこがねいろが覗く 庭のスチールバケツがやけに明瞭で その歪や 錆びたあか茶ばかりが明瞭で 集合し 発散する 青ぼけた原風景の 端々は焼けてみかんの匂いが立つ ありし日の如き 十万画素の郷愁は 青い幽霊だろうか 悪霊だろうか とまれ、踵にまとわり離れない それは昔を持たない子どもにすら 飛蚊症のように焼き付いていて たとえば鉄柵の野草に たとえば冬の浴槽に たとえば夕陽を集めるグラスの淵に 投影される 舌の上をオレンジソーダが転がって つかのま 現在をさらって 電子音で聴く 楽土の囀り 神楽の屑 炎天の残り火 褪せて褪せて消えずに 磨耗してビー玉に混じる 空想のセピアなるは 存在者の業病 私のわたしを夢にできずに それはきっと 全人の郷里 それはきっと 未踏の郷里 見知らぬ望郷 先天性のホームシック それは 眠らぬ夕景 藁葺きの屋根は熱に浮かされ それは 止まる夏 川面を泳ぐ影に 虚像を重ねて 潮風と 1999年風邪が てのひらをくねって 指の隙間から膨らんでいく それはいつも夜に それは静かな夜に 東上線に揺られる夜に コンビニを通り過ぎる夜に 自転車が冷たい夜に 簡単に崩れて 地べたに広がる それを踏まないように まるで酔いどれみたいに 下り坂をうろつく 風が聞こえる 野が聞こえる 稲穂が聞こえる 靴音が聞こえる 雑多なくせに 大きな一つで いつもいつも笑っている 耳をつついて 浮かんでいってしまう だからわたしは田舎の夢を見る
田舎の夢 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1115.0
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 7
作成日時 2020-04-24
コメント日時 2020-04-24
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 4 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 7 | 4 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0.5 | 0.5 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.5 | 0.5 |
音韻 | 0.5 | 0.5 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3.5 | 3.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
超かっこいい詩ですね。稀な詩だと思いました。 緊密な言葉どうしのつながり、びっくりしました。本気度が違うと言えば良いのか、この作品は抜きん出ています。 まず措辞が凄い。引用するのは控えますが。多すぎて。 作品の解釈ですが、正直難しいです。でもそれをしないと読者失格ですから、解釈してみます。 「田舎」とは、田園のことではなく、端的に言えば「郷里」ですね。 そしてそれは「私」の個人的な「郷里」のことではないと思われます。 >見知らぬ望郷 先天性のホームシック の箇所からそう思うわけです。 「全人の郷里」「未踏の郷里」という語が、普遍的な「郷里」をこの詩が問題にしていると考えさせます。 そういう郷里を溢れんばかりの深みのある言葉で表現したのがこの詩だと思いました。 「1999年風邪」……、これは(20)世紀末、或る時代の最後の眩しくも暗い光芒を言っているのでしょうか。これがもしかしたら「望郷」の対象ではないかと思いました。 そうだとしたらこの詩はかなり壮大なものですね。最初は身辺の「柱」とか「天井」とか「スチールバケツ」が出てきて狭い小さな世界を思わせるのですが、その後から日常的ではないものが出てきます。 >ありし日の如き 十万画素の郷愁は >青い幽霊だろうか 悪霊だろうか とういうところなどは、そうですね。 私も「見知らぬ望郷 先天性のホームシック」を抱いていて、この詩を読むことによってそのことに気づかされ、胸を掻きむしられるような感じがしました。 というのが簡潔ではありますが私の勝手な解釈です。
0コメントありがとうございます。 まず措辞について褒めていただき素直に嬉しく感じます。詩を書くときはたくさん推敲する場合と、誤字も含めて作品だと開き直る時があるのですが、今回はたくさん推敲するタイプの作品だったので特に嬉しく感じます。 解釈してくださった内容も、概ね意図通りでありながら、南雲さんならではの読み取り方もしていただいていて、自分で自分の詩への理解がより一層深まったような気がします。 僕は東京の生まれでして、比較的都会の方で暮らしていたため、田舎というべき場所を持っていません。しかしながらどうしようもなく頭の中で懐かしい場所「ふるさと」幻想が肥大化していってしまう時があります。 この詩のメインテーマにはその本来あるべきでは無い懐かしさがあります。
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