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先の我が公妃 My Last Duchess
フェラーラ市にて Ferrara 壁に描かれたあれが先の我が公妃です、 That's my last Duchess painted on the wall, 生きていた時そのままのように見える代物です。 Looking as if she were alive. I call 言わば一種の驚異の逸品。フラ・パンドルフの両手が That piece a wonder, now: Frà Pandolf's hands 1日がかりで駆けずり回って、結果、彼女がそこに立つ次第で。 Worked busily a day, and there she stands. どうぞお掛けになって御覧じろ。如何にも Will't please you sit and look at her? I said 「フラ・パンドルフ」の作。とは申せ、断じて読めますまい。 'Frà Pandolf' by design, for never read 貴方のような一見さんには、そこに描かれた表情は、 Strangers like you that pictured countenance, 生真面目な眼差しの、その深さと情熱は。 The depth and passion of its earnest glance, でも皆さん此方に振り返り(私しか居りませんから、 But to myself they turned (since none puts by 私が開きましたその垂幕触るのは) The curtain I have drawn for you, but I) 憚りなくば聞きたそうな様子ではありました、 And seemed as they would ask me, if they durst, こんな眼差しがどこから来ているのかと。だから初めてではありません、 How such a glance came there; so, not the first 貴方が振り返ってそれを訊くのは。卿よ、それはですね Are you to turn and ask thus. Sir, 'twas not その場に夫が居合わせたというだけではないようですね、 Her husband's presence only, called that spot 公妃の頬に赤みがさしたのは。おそらくは Of joy into the Duchess' cheek: perhaps フラ・パンドルフは言う機会があった「奥様の手首には Frà Pandolf chanced to say 'Her mantle laps 外套が少々長過ぎるようでして」とか「絵にも Over my lady's wrist too much,' or, 'Paint 到底描けそうにありませんご様子、朧げに Must never hope to reproduce the faint ぽっとなる、それを喉元に留めてらっしゃるのは」とか何とか Half-flush that dies along her throat:' such stuff お世辞と彼女も思っていたにしても、結果は明らか Was courtesy, she thought, and cause enough あの喜色を呼び覚ましたと。あれの For calling up that spot of joy. She had 心は─何といったものか─いささか安上がりの、 A heart – how shall I say – too soon made glad, どうにもチョロ過ぎて…何事も彼女は好んだ、 Too easily impressed; she liked whate'er 自分が見つめたものを。その視線はどこにでも飛んだのだ。 She looked on, and her looks went everywhere. 卿よ、万事がそうでした!その胸を飾った我が気に入り、 Sir, 'twas all one! My favour at her breast, 西に沈んでいく夕陽の色、 The dropping of the daylight in the West, サクランボの枝を、いけ図々しい何処かの馬鹿が The bough of cherries some officious fool 果樹園から折ってきてしまったものや、白いラバを Broke in the orchard for her, the white mule 彼女が高台に乗り回した時とか──全て、どれにも She rode with round the terrace – all and each 下されたのが彼女からの感謝の言葉のようなもの、 Would draw from her alike the approving speech, 少なくとも紅潮するとか。男どもに感謝するくらい構わないけれど、やられた方は Or blush, at least. She thanked men – good! but thanked どうかなりそう、いやどうしたか知らないが、その扱いと来ては Somehow – I know not how – as if she ranked 900年に及ぶ我が名という私からの贈り物すら My gift of a nine-hundred-years-old name 他の誰かの物と一緒にされては。しかし誰が屈みこんでまで詰るものか、 With anybody's gift. Who'd stoop to blame この種のつまらない話で?例え貴方が得意とする This sort of trifling? Even had you skill お喋りの(私にはない)技があるとして、自分の意思をそれは In speech – (which I have not) – to make your will はっきりと相手に伝えられ、言うことに「もうあれやら Quite clear to such an one, and say, 'Just this これやらで貴女にはがっかりだ。此方でやらかし、 Or that in you disgusts me; here you miss, 彼方でやり過ぎるし」と言いつけ─それをまた彼女が Or there exceed the mark' – and if she let 言うことを聞いたとして、あからさまにではなくても Herself be lessoned so, nor plainly set 彼女の機知は貴方に向いて、いや本当に、謝罪など為したかも、その場で Her wits to yours, forsooth, and made excuse, ─それもそれで何か屈辱的ではあるまいか。そんな – E'en that would be some stooping; and I choose 屈辱、断じて選ばぬ!いや卿よ、彼女は微笑んでいた、疑いようもないくらいに Never to stoop. Oh sir, she smiled, no doubt, いつでも私が側を過ぎる度に。とはいえ誰しも側を過ぎるに Whene'er I passed her; but who passed without その同じ笑顔がなかったか?こうなっては最早、命令あるのみ。 Much the same smile? This grew; I gave commands; かくて笑顔の全ては悉く止められたのだ。彼女がそこに立っているのは Then all smiles stopped together. There she stands 生きているかのよう。…そろそろ立って頂けますかな?お会いしませんと、 As if alive. Will't please you rise? We'll meet 下においでの方々とも、ね?繰り返しますと、 The company below, then. I repeat, 貴方の主たる伯爵の、気前のよい方という評判は The Count your master's known munificence 保証として十分です、よもやなさいますまいな Is ample warrant that no just pretence 私への持参金が拒まれるような真似など。 Of mine for dowry will be disallowed; 美しいお嬢さん自体もですがね、明言もしましたな Though his fair daughter's self, as I avowed 始めるに当たり、私の目当てでして。さて、参りますか At starting, is my object. Nay, we'll go 下まで御一緒しましょう、卿よ。ところでご覧あれ、海神にまします。 Together down, sir. Notice Neptune, though, 海馬を手懐けているところで、中々の珍品でありましょう。 Taming a sea-horse, thought a rarity, インスブルックのクラウスが、青銅で鋳込んでくれたものでして… Which Claus of Innsbruck cast in bronze for me! by Robert Browning
先の我が公妃 My Last Duchess ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2205.9
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ポイント数 : 0
作成日時 2020-04-08
コメント日時 2020-04-08
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
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構成 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
Ferrara の Duchess と言えば「フェッラーラ公妃ルクレツィア・ボルジア」が先ず思い浮かびます。というか、そのために場所を指定したのでしょう。 1日で描いたなら油彩は有り得ず、漆喰に水彩で描くフレスコ画です。漆喰が乾くと強固な皮膜を形成するため、千年経っても色褪せないその代わり、その日のうちに仕上げる必要があります。壁画なので動かせず、日頃は幕を掛けてあり。後妻を迎える伯爵家からの使者に絵を観せるべく、当主が幕を下ろした訳ですね。 「笑顔の全てをとどめた」という言い方を「永遠の微笑み」と受け取るなら、発想はダ・ヴィンチの「モナ=リザ」。画僧パンドルフは実在しません。 このように明瞭なモチーフを持つ本作に、ともすれば Ferrara を個人名と勘違いしたような皮相的解釈が横行するのは、嘆かわしい限りです。 「モナ=リザ」を善悪反転したような前妃を忘れるどころか、壁に塗り込んである寝室に、後妻を迎えようという神経は、架空の人物とはいえ見たくもない代物ではありますが。
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