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それはせかいのような、はかいのような。
シルクの上に。 シルクのベッドの上に、気ままに体を投げ出して。 飛び出た頭と腕が重力に導かれて、くびが。ひじの裏側が。 しろく弧をえがいている。 それはせかいのような、はかいのような。 「死の境界線は蠅のようで近づけば解るけど不快だから追い払ってしまう。あんなに輝いていた夏でさえ終わったしまえば溶けたアイスのよう。 ああ秋!と言っても許されるくらいには涼しくなっただろうか。いつどのようなときも太陽は暑いか眩しいかで冷徹なほどだ。相変わらず私は蛆虫のように(よりロマンチックに、さなぎのように)太陽から顔をそらし背骨を軋ませて丸くなっている。柔らかな腹の肉がぶよついて、しろく、たまっている。まもられている。いつか背骨が皮膚を突き破って羽になればいい。そうすれば私は太陽から逃れるために飛ぼう!」 言うまでもなく 太陽から逃げるために飛ぶことは、月を追うことにはならないのだ。 あかいあかい、あらいざらい。 なだめるようなこえで。 優しさがほんのちょっぴり、過剰で。 なにもかにも、手にとるには大きすぎる銃弾。決断。 彼女の柔らかな手のひらは爪痕ばかりだ。 希望とか夢とかそういうもの、ぜんぶ。 消えちゃったみたいで。 「死の境界線は蠅のようで眠ってしまえば気づかなかったりする。或いは夏の残骸に集っているのか。 もうわたしは目を閉じるぞ!誰から呼ばれたって気づくもんか! この鬱くしげな思い付きを瓶に詰めて幸福と呼ぼう! 誰も手出しができないようにビー玉を詰めて。ラムネ色の、湿気た世界だ」 湿ったシルクの、錆びた部屋で 彼女は全てを投げ出してしまえたらと思っている。 とりあえず眠って、束の間、死んで。 また起きたら不本意に生きていくことになる。 彼女の瞼、首筋、肘の裏にミルクを垂らして ゆるゆると下降する様をみたとて かなしいね それは床まで落ちることはない。 失った夢の天井にミルキーウェイはかからない。 ずっとひとりぼっち。 君もね、僕もね。 夢を失った人間には銃弾が渡される。 指鉄砲で選択を迫られる。 たいていの人間はおさない顔をした自らの夢を撃ち殺す 殺しながら思う「こんなんじゃかなうはずもなかったのだ」と。 ああ死の境界線はいつだって蠅のようですぐそこにあるはずなのに 追い払ったって消えるわけではないのに 口の中に腹の中に眼球の奥に蛆が這ってなきゃ死んでないって思いがちだ。 シルクの上に。 シルクのベッドの上に、気ままに体を投げ出して。 飛び出た頭と腕が重力に導かれて、くびが。ひじの裏側が。 しろく弧をえがいている。 それはいかりのように、いのりのように。
それはせかいのような、はかいのような。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2569.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 32
作成日時 2019-11-03
コメント日時 2019-11-29
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 11 | 2 |
前衛性 | 5 | 5 |
可読性 | 3 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 7 | 0 |
音韻 | 2 | 1 |
構成 | 4 | 0 |
総合ポイント | 32 | 8 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.4 | 0.5 |
前衛性 | 0.6 | 0 |
可読性 | 0.4 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.9 | 0 |
音韻 | 0.3 | 0 |
構成 | 0.5 | 0 |
総合 | 4 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ラムネ色の、湿気た世界だ 僕がイメージしていた世界を見事に表現されていて驚きました。 退廃的な中にも何かを感じる詩でした。
0>太陽から逃げるために飛ぶことは、月を追うことにはならないのだ パンチラインだ。蝿のような死の境界線、という表現も、よく分かる。はじめは鬱陶しかったものが、ゆくゆくどうでもよくなる。 しかし、 俺の命を燃やすものは俺自身ではないのか、俺で俺を燃やすなら、いかりもいのりも空想としてまとうが、そうではなく、第三の、その蝿は実在し、羽根音まで聞こえるから厄介だ。 >ラムネ色の、湿気た世界だ、 上の人も書いてる、この表現は最高です。 相も変わらずしんどいから、無い羽を休めたいところです。
0■peace.pot.microdot様 感想ありがとうございます。 「ラムネ色の、湿気た世界だ」は私も気に入っているのでうれしい言葉です。 終わってしまう世界なんて自分の心しかないんだよなあという気持ちを込めて書きました。 ■/舜舜様 感想ありがとうございます。 事実、自分の命を燃やすのは自分だとおもうんです。 ただし命は燃えているのに、もはや自分で命を燃やしている実感を失うと、 死の境界線が蠅になってしまうのだと。 どこで道を間違えたのか、まあ必死にやればもしかしたら挽回できるのかもしれないのだけど… ほんとうにしんどいですが、詩を書き始めて色々と前に進めている気はしています。
0「死の境界線は蠅のようで」のバリエーションから繰り出されるリズム感が最高で一気に読ませるし、リズムが飽和してしまわないで、ちょうどいい具合に緩急があって、実はリズムと速度をコントロールするための非常に細かい調整がされていて、しかもタイトルはどこかで見たことのあるような、ないような、そういうポップさってどうしたって引き寄せられてしまうわけで、「意味」なんてものは置き去りにするくらいがちょうどいい。 >ああ秋!と言っても許されるくらいには涼しくなっただろうか ここが一番好き
0■survofさま 感想ありがとうございます。 >リズムと速度をコントロールするための非常に細かい調整 >そういうポップさってどうしたって引き寄せられてしまう ありがとうございます! どちらも、自分が詩を書く上で、一番たいせつにしている部分です。 「意味」なんてものは置き去りにするくらいがちょうどいい。 これも、(怒られそうですが)私の詩を書くときのモットーにかなり近いです。 意味より音重視になりがちですね。
0詩という韻律は保たれているとかんじました。
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