別枠表示
歯ブラシはたそがれ
しゃこしゃこと 往復する歯ブラシは 揺りかごめいてたそがれる 咳払いのような 息継ぎのような はっとした呼吸の後で目を閉じて 夢を見る 「コンパクトな論文を インスタントな快楽を ニーズに叶う商品を」 そうあの日 失われた平静が 書庫の奥へと向かわせた日から 僕は天文学者のやり方で 聖者の言葉を星座のようにつなぎ合わせて 生き抜く道を欲しがった そのための暗闇さえ用意した まぶたの裏よりずっと濃い 地底のように息詰まる 星座のための暗闇だ 歯ブラシはたそがれる 僕は君のことを考える 君はもう忘れたかもしれないけれど あの目は未だに覚えているよ 嘘をつくときの目だ 「好きなように生きればいい」 僕の本心を見抜いていたのかもしれない あれからね、僕は確かに 学校と街と、世界の全部とすれ違っていった…… 人生への鉛のような愛着よ その正体を誰が見破り どんな名前をつけたのか 今はそれだけを知りたいと思う ああ、でも、そうだな もしもそれが分かったら そのときには論文で 長い、長い、論文で 君に仕返しをしてあげようと思っているよ 実は僕は まだ完全に諦めたわけではないんだからね
歯ブラシはたそがれ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1297.2
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 14
作成日時 2019-10-31
コメント日時 2019-11-03
項目 | 全期間(2024/12/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 14 | 14 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 3 | 3 |
総合 | 14 | 14 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
歯ブラシ、何故か違和感なく読めました。とても心地よく。 プラネタリウムのような星空を見るには、かなりの暗闇必要ですよね。そんな暗闇から見える微かな光を辿って、生き抜く道を欲しがる、という表現、とてもリアルに感じました。 歯ブラシのような爽やかなCMのような「コンパクトな論文」という言葉に対して、彼女には長い論文で仕返ししようとしている、ただならぬ愛を感じました。
0つつみさん 丁寧に読んで頂き大変嬉しく思います。それ自体大いに励みになりますし、読み手の方からどのように見えているのかを知ることも非常に勉強になります。 詩の「やりのこし」ではありませんが、実は私は歯ブラシをとても面白いものだと思っており、本来この詩にもそれをもっと反映したいと思っていました。言ってしまうのですが、歯ブラシの面白さはその多様性にあります。たとえば歯にモノが挟まったときの不快感はかなり生得的というか、野生的な感じがしますが、ご飯のあとに歯を磨かないのがなんとなく居心地が悪いという感覚は、いくぶん文化的な文脈をにおわせます。さらに、これから人と会うので歯を磨いておこうという判断なら、一層シティライフな趣になります。こんなふうに歯ブラシは詩のいろんな場面にあてはめることができるし、逆にひとつの歯ブラシにいろんな読みをちらつかせることができる、とても便利で奥行きと広がりをもったシンボルになっています。身近なアイテムでこれくらいいろんな概念と結びついた記号は実はそれほど多くないかもしれません。 もっとも、今回の詩では結局、歯ブラシとはほとんど完全に小道具と化していて、「それ歯ブラシでやる必要あるゥ?」みたいな感じになってしまったのが無念でした。一番最後に歯磨きを終える描写などを追加して小道具として酷使することも考えましたが、やはり蛇足感があってやめました。次はもっとその辺に配慮した詩にできればいいなあと思っています。 と、詩のやりのこしが長くなってしまい恐縮ですが、ともかく、コメントありがとうございました。
0