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炎夏のハモニカ
炎夏に炙られた東京に 細くかそけく澄みきった ハモニカのネが風を切ってきた どこだろう? 民草は立ち枯れたように 太い交差点にたじろいでいるとき ハモニカのネが涼しく流れてきた だれだろう? 触れれば 冬の女の尻のような コレヒドール島の石 触れれば 汗蒸れた子の頭のような 硫黄島の石 鉄の暴風にうたれ いまセミシグレが降る 戦地の石も ハモニカのネを黙聴している 汗のひとしずくも流さずに
炎夏のハモニカ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2143.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 11
作成日時 2019-08-07
コメント日時 2019-09-07
項目 | 全期間(2024/12/26現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 5 | 0 |
前衛性 | 2 | 0 |
可読性 | 1 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 0 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 11 | 1 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0.4 | 0 |
可読性 | 0.2 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.4 | 0 |
音韻 | 0.2 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2.2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
九段下の交差点で実際耳にしたハーモニカの音。 若くも老いてもいない風変わりな男が 滑らかに吹き鳴らすが、怪訝さを隠したまま通行人はやり過ごしている。 すこし声でもかけようかと迷うも、暑さとわずらわしさで 都市生活者の習いのように干渉せずに歩き過ぎてしまう。 そこには何もストーリーは生じなかった。 日陰を求めるように靖国神社の参道に入れば そこには「戦跡の石」の無造作な野外展示がある。 由来や経緯を示す細かな掲示文はなく さして南方の激戦の戦史にも壮烈なストーリーにも興味はなかったが 汗みどろの体を冷やすためにその前に立ち尽くした。 何気なくブーゲンビル島、ウェーキ島、グァム島、 レイテ島、コレヒドール島、硫黄島と 形態もさまざまな、溶岩そのもののような奇態な石たちを そっと撫でさすっていけば 熱をもっていたり異様に冷たかったり 同じように汗みどろで重い銃を杖にして密林をさまよい そのまま二度と祖国の地を踏めなかった 何万の日本人のストーリーが入り込んできた。噫! 恍惚と石を撫でさすっている横をカップルが通ってはたと我に帰る。 醒めてみれば、それらはやはりただの石だった。 野辺の古い墓地に並ぶ由来のわからない小さな墓石ように とるにたらない石たちだった。 それには何の銘も刻まれず 何のストーリーも読み取れず 涙も汗も流してはいなかった。 この詩はそんな無言の石たちと同じなのです。 ありがとうございました
0優れた作品だと感じた。まず、ハモニカの「ネ」と、音をカタカナにすることによって、まるでネが「ミ」や「ファ」のような一つの音階として捉えることが出来、音と書くだけでは必ず表現出来ない優しい響きを想起させることに成功しているほか、ハモニカが出す音も一つの音の表現のひとつにすぎないのだと、そんなことも考えさせられた。 また、ただ人民が枯れたと表現するのではなくわざわざ「民草」としたことで、枯れた民の草がごろごろ転がる焦土のようなそんな光景を見ることができる。 様々な場所の「石」を表現することに最初戸惑いというか、なぜこのような表現をするのかの疑問を抱えながら読んでいたが、最後に「戦地の石」を持ってくることによる、ある種複線の回収というか、すべての整合性が取れたというか、そのような心地に至った。かつ、その帰着点はただ「戦争反対」と唱えるなどでは表せない読後感、非常に後味の良い印象を受けた。その感慨は、ハモニカを「黙聴」するという絶妙な言葉選びもその一役を担っていると感じた。数千数万数ある言葉の中から、最適な、作者の思いを最も込められる語句が選ばれている感覚がし、高い実力を感じる作品だった。
0コレヒドール、硫黄島で、どうしても太平洋戦争を想起します。炎天下の夏。南方戦線。何かイメージを下支えするものを感じました。
0こんばんは。「ハモニカのネ」、一音一音がよく響いて、良いですね。最終行も、引き締まっています。そのため、額から汗を流して歩いていた様子が目に浮かぶようです。一点敢えて付け加えるなら、”美しい詩作品“に傾きかねない危険性を孕んではいないか、ということです。
0仲程 さん ふじりゅう さん エイクピア さん 藤 一紀 さん どうもありがとうございます。 掘りおこしてはみた着想のサトイモに 不器用なナタを押し当て皮むきするも 無様に小さな野菜クズに変りはてるが 詩らしきクズをヨイヤとこそぎ集めて 懐石膳にちんまり盛りつけ松葉も添え いつか建てたや見目美しの詩碑を墓に そういう感じです。
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