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フィラデルフィアの夜に Ⅸ
フィラデルフィアの夜に、針金が穴を作ります。 一匹の蛾が、街灯に誘われひらひら飛んでくるも、力なく落ちます。 疲れ弱りきっていたために。 落ちたのは地面。 街灯の光が当たっているも、暗い。 いや、黒い。 何かが、何かがやってきている。 蛾が止まっているその地面に。 細いもの。長いもの。それらが、増殖するかのように、集まってくる。 蛾は、その上を動かない。 ただ疲れ切って止まっている。 蛾は、動かない。 もしここに見る人間がいれば、気づく。 黒い針金。それが蛾のいる一点に集まってきていると。 誰が? いない。 どうやって? わからない。 蛾は、微動だにしなかった。 蛾は、落ちていきます。 風にゆられ落ちる、葉のように。 蛾のいた地面。そこに集まっていた針金。 真っ黒な針金が黒い円形を形作った時、微塵の隙間もなく、地面の一点が漆黒に染まった時。 蛾が、その漆黒の中へ落ちていきました。 穴を作るかのように集まった針金、それは本当の穴へ変化した。 蛾は落ちる。 一匹、何の力も出さず、もてあそばれ、宙を返り。 漆黒へ沈む。 沈む。 闇へ。 何か、見える。 蛾は、複眼のうちのいくつかで、それを見た。 わずかな力を羽に伝え、本能のままに、そこへ。 何かが来る。何かが来る。何かが、こっちへやってくる。 光り輝く、炎の鳥。 闇の中から、羽ばたいて。 蛾は一心に向かう。 湧き上がる風をつかみ、体を浮かせ、飛翔する。 炎へ、光へ、地上へ。 不意に空いた穴を見ている者がいれば、それは不可思議な光景だったでしょう。 煌々と穴は光り輝きだし、何かが地上へ向かってきてました。 光が目がくらむほどになり、地上へ出るまさにその時。 出てきたのは、針金だけでした。 ぷすん、と炎が消えた残骸が、飛び出ただけ。 光もなく、何もなく、終わったのです。 何も意味はなく、終わったのです。 蛾は、力強く近くの街灯へ向かって行っています。 何も考えることなく、力の限り、光へ向かっていきます。 フィラデルフィアの夜に、不意に穴が開きます。 針金が集まり、穴を作り上げます。 その度に、何かが出ようとして、出ては来ません。 ただ残骸が飛び出てくるだけ。 蛾は。 無数の蛾は、光に輝きに導かれ、集まり舞い踊り、見守る。
フィラデルフィアの夜に Ⅸ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1097.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 19
作成日時 2019-06-09
コメント日時 2019-06-09
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 2 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 4 | 2 |
技巧 | 5 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 19 | 11 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.5 | 2.5 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 2.5 | 2.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 9.5 | 9.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文