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胎動
ぼくは優秀な遺伝子だ、 隣の家の、 女が言った。 産まれたばかりの ちのみごだ。 瞳の奥に潜むのは、 数百人もの 溺死体であって、 「かなしいんだねえ」 乳頭に飽きてしまった頃、 男の手を引いて、 ベッドを探しに 出かけるだろう。 (赤い屋根 際限もなく赤の並んだ 代り映えもない、 父と母が座布団に座っている、 町を残して) わたしは優秀な遺伝子だ、 ふっくらとしたお腹をさする、 女が言った。 百点の人生を望んだ割には そうそう上手くも行かなくて、 六十点くらいであろう、 どこか愛嬌のある 男の手を引いて、 「百点の人生を生きてね」 と、お腹をさする。 子宮の壁で死滅した 数百もの溺死体を思って、 女は言った。 私はまだ、あの頃と同じ家に 暮らしている。 隣の家には、 もう誰もいない ……。 成熟した期待を一身に受けて、 胎動の終わる頃には 私の知らないどこかでまた屋根が ひとつ、 増えるのだろう。 そうやって吸い込んだ息と一緒に、 私はゆっくり 死体の列に、並んでいく。
胎動 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1435.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 19
作成日時 2019-03-31
コメント日時 2019-04-01
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 6 | 6 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 7 | 7 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 6 | 6 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 19 | 19 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2.3 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 6.3 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
生まれるものと生むもの。優秀な遺伝子と言う一致した認識。産まれたばかりの乳飲み子だとありますからこれから生まれるものではあり得ませんが、これから生まれるものと言う緊張感、前章性があるように思いました。「数百もの溺死体」と言う認識からは、隣に誰もいないという認識も虚構性があるのかもしれません。
0凄く癖になる詩だと思いました。全ては繋がり、隣り合わせであると。 それぞれの死と言う言葉が、重みをより持たせ、考えさせられます。 こう言った表現もあるのだなと、勉強になりました。
0エイクピア様 前章性がある、というのは嬉しく思います。コメントをありがとうございます。
0壱秋様 癖になる、嬉しく思います。一読して躓いて、再読させてしまうような詩を目指していますので。 コメントをありがとうございます。
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