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A baby dreams of a dream
火花が目の前で弾けて、自分を虐げると僕はその場所にいた。 失われる体。色づく細胞。移り気な粒子。目は開かれ、耳は澄まされる。僕という人間の核はこの膨張する空間で全て暴かれる。艶めかしい女の右足が投げ出されては軽くリキュールを倒す。脳内に映し出されるのはネオンサインに映る情婦。彼女は俯きがちに視線を落としてダイヤの形をした涙を流した。 置き忘れたのは未来への旅行鞄で、この場所に次から次へと持て成される晩餐の前では喪失感さえないがしろにされる。翁から若人へ、若人から翁へ変わりゆく執事。彼は柔和な笑みを浮かべて、扉を開けると核弾頭の作るキノコ雲を僕に見せた。 フラッシュバックする幼年期の記憶。おびただしい数の傷と傷跡。母は扉を開けて出て行ったが、二度と戻ることはなかった。父。家族よりも仕事を好んだ父は今もって不可思議な存在のままだ。彼が泣いたとしても僕は同情はしないし同情も出来ないだろう。そっと肩に手を添えて優しい笑顔を向けてやるだけだ。兄はそびえ立つ鉄塔の頂きで気が狂ってしまったらしい。今では「エリーゼのために」をたどたどしく弾くだけ。愛した家族。愛された家族。すべての原点はそこに。家族に疎まれ、家族を疎み、僕のイメージは派生し、拡大していった。僕は落下することの決められたイカロスのように飛び続けた。それが現実を直視しないただ一つの方法だったからだろう。 ミュージシャン ムービースター 画家 革命家 英雄 ポップアーティスト 独裁者 アサシン 何なら浮浪者にだって。 僕は何にでもなれた。 フラッシュバックの間、僕はずっと恍惚域にいた。だけど掌から落ちたスプーン。掌から滑り落ちたたった一つのスプーンから一瞬の内に、僕は現実へと引き戻される。僕のいた空間は跡形もなく消えて、それがカウンセリングルームだったのか、それともただの妄想だったのかさえ僕に知らせない。ドーパミンの途絶えたあと、暗い自室に閉じこもり、艶めかしい女の右足と脳内に浮かんだ情婦、そして執事が性幻想の一つであったのを知る。いや、それ以上の何かであったことも。僕は終わらない夢を見ていたのに気づいた。小さく開いた窓から冷たい風が吹き込んでくる。着込んだセーターが僕の体を温めて。 僕は幸せだ。遠くからピアノの音色が聴こえる。 僕は正気の境い目を超えた、幻想めく世界へと旅立ち、いつか観た詩人の詩を思い出す。 詩人の終わりが暗幕と訪れる 体中が舞い上がり 僕たちは夢を見る 少年のように
A baby dreams of a dream ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 996.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-12-21
コメント日時 2018-12-29
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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エンタメ | 0 | 0 |
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総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
空想の力、現実でなくとも、同じくらいの体験をしているのだという夢のような。扉を通りぬける風を 感じられたのは、この詩の世界観のリアリティとファンタジーの表れか。もう終わってしまった世界に 住んでいるかのような我々の現実に、その核兵器という悪夢をもって、その色を濃くする。それでも、 舞い上がる少年。夢を見ていれば幸せなのか、現実の空虚さに比べれば。だからこそ詩を書くことが、 ビジョン、(白昼)夢を見ることを伴うから、我々の身体性ゆえの責任を、重く抱え、忘れさせるような。赤ちゃんのように甘い夢。でも、現実が厳しくなくなるまでは、まだ何十年もかかりそうでは ありますね。田舎では今も親は畑仕事にいそしんでいます。僕らは、老齢になったら、なにをしている のかな、と思います。僕は、楽観的に、悪いことは何も起こらない、智恵を育ててさえいれば、と、 人任せのように思っています。
0沙一さん、コメントありがとうございます! 速度感ですか。ありがとうございます! この情報量で速度感はなかなか出せないので、意識しましたしその仕上がりに個人的にもとても満足しています。ありがとうございました。
0ダイヤの形をした涙を流した。ダイヤモンドなのかトランプのダイヤなのか判別できないです。内容として私が言う事が他に有るか、、、、。そうですねー。題名から凝ってるなーと思います「赤ちゃんが夢を夢見る」で合ってるのでしょうか?ベイベーって他にも意味が有るからなー。書いてある内容は速読できるけれど、、、、、です。後、あれでした。
0つきみさん、コメントありがとうございます。随分曖昧でアバウトな感想が来ましたね。後、あれでした。では僕は返答しようがないし、返答しようとも思えませんよ。加えてつきみさんに「あれ」の真意、意味を聞きたいとも残念ながら思いません。ダイヤモンドなのかトランプのダイヤなのか分からないとのことですが、それは貴方にとってはとても重要なことだったんでしょう。僕にとってはトランプのダイヤの涙を流す、とは考えづらいし、使おうとも思いませんが。コメント入れ、論評活動に力を入れているのは評価しています。では。 ※あとbabyは赤子、赤ちゃんで正解です。
0、、、、、、、の部分は単調でした。ですが、単調なのどうでも良いですね。何故か書いていきます。赤ちゃんで合っていたんですね。あれ公開します。赤ちゃんだったのなら素晴らしいです。赤ちゃんじゃ無かったら、残念でした。赤ちゃんが夢を夢見るですから。飛躍し過ぎですが私は好きですね。面白いですし、赤ちゃんが、もしかしたらこんな夢見てるとか、読み手の想像を促す、促せる、自発的行動力を産み出す作品ですね。
0つきみさんへ。単調。どこをどう解釈して単調と捉えられたのか分かりませんし、最早知りたいとも思いませんが、そう捉えられたんだなということ。 また「赤ちゃんが夢を夢見る」なら良かったとのこと。それは良かったです。自発的行動力を産み出す。詩とはそのような要素があってさらなる深みが増すものでもありますから、その点も良かったです。
0黒髪さん、コメントありがとうございます! この詩はとても内面的なものです。内面的なもの、詩、創作物は深く表象の世界とリンクしているというのが僕の考えでして、同時にみなの内面から厳しさ、残酷さ、狡さ、あるゆる悪徳めいたものが払拭され、無くなった時に表象の外部の世界、目に見える世界からもそれらが無くなると僕は考えています。まずは内面、心が存在し、外部がその人の目の前で展開される、そういう考えです。かなり理想主義的で、抽象的ですらある考え方ですが。この詩は内部浄化、内面浄化の意味合いも込められた作品ですので、目に見える世界も同じく浄化されるように、という願いも込められているかもしれません。黒髪さんは「何も悪いことは起こらない、智慧さえ育てれば」と楽観的に考えているとのこと。とても素晴らしいと思います。では「ひとりで見る夢はただの夢、.みんなで見る夢は現実になる」。ジョン・レノンの僕の好きな言葉を引用して返信を締めさせていただきます。
0沙一さんのコメントの通り、たしかに格好いい作品ですね。書けるようでなかなか書けないものだと思います。
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