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フィラデルフィアの夜に Ⅷ
フィラデルフィアの夜に、蛇が紡ぎ生み出していきました。 薄暗い半ば壊れた倉庫の中、捻じり編まれたワイヤーロープが輪を作って垂れ下がり、その前にうつむいた青年が立っていました。 その足元には滴がポタリポタリ落ち続けています。 震える顔をようやく前に向け、左手でワイヤーロープに縋り付く。 その時。 ワイヤーが解けていきます。 続けてそれは左手に絡みつき、同じように左手が解けていく。 いや、左手がワイヤーと化していく。 そして大きな、何かに変わっていったのです。 しなやかな、大きな、蛇に。 大きな口を開けて。 大きな口が、青年の頭から覆います。 青年の視界は真っ暗になりました。 光。 今日は満月なのか、雲が無くなったのか。 目の前には大きな蛇。 しなやかな鈍い鉛色の。ワイヤーで作り上げられた、蛇。 ただ傍らには青年が履いていた靴が片方だけ残されてます。 また月に照らされた部屋の様子は、青年がいたであろう壊れかけの倉庫のよう。 でもいるのは、蛇だけ。 不思議なのは自分の視点、視界。 そんな倉庫の様子、斜め上から見ている。 閉じることも逸らすこともできない、視界の中、蛇が動く。 グネグネ、活発に。 何か見つけ、口を開く。 鉄板。鉄屑。残骸。 そんなものを飲み込み続けてる。 すると、何かが出てきた。 次々と。次々と。次々と。 倉庫を満たすかのように。 もう、蛇のいる所だけが、唯一のスペースとなった頃、蛇がこっちを見据えます。 獲物を狙うように、体を九十九折にして。 口を開き、視界にまた再び覆いかぶさりました。 また、光。 満月が壊れかけの天井より覗いています。 そして照らすのは、苦痛。苦悩。 そんな題が相応しい、針金と廃材による作品群でした。 大きな手に杭が刺さったもの。 薄い苦しそうな顔に何本もの鉄棒が地面から浮かすように刺さったもの。 口だけの顔の人々が、何十人も捻じり合わさったもの。 虚ろな、がらんどうの目の顔。 人の、青年の感情をそのまま表したかのような、地獄。 無数、無限の地獄。 夜。 電灯の明かりの下、針金を編んでいきます。 あるのは感情。イメージ。苦痛。苦悩。 いるのはあの青年。 青年が何かを作り続けています。 自身のどうしようもないものを、痛みを、苦しみを、記憶を、表すために。 あの蛇のように。 あれは夢なのか現実なのかわからないけれど。 青年は作り続けます。 地獄を。 あの蛇のように。 自分が蛇のようになるために。 蛇が作り上げた、数多の作品に、見守られつつ。
フィラデルフィアの夜に Ⅷ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 956.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-12-09
コメント日時 2018-12-18
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
フィラデルフィアシリーズの特徴「シュールで悪夢的な幻想」がここでも描かれている気がします。蛇が具体的には何を表す比喩なのか、僕には見当がつきませんでしたが、悪魔的で悪夢的な何か。生産欲に憑りつかれたモンスターの象徴のようにも思えました。青年は最後地獄を作り続けるとあるが、それが蛇のようになるためとは。何か文明、人類の繰り返される過ちを見せられた想いがします。安定した筆力と素材の徹底性。素晴らしいと思います。だがしかしフィラデルフィアシリーズにテコ入れとして、何か目新しさも期待感込みで欲しいとも思いました。
0stereotype2085さん、こんにちは。 返事が遅れてしまい、申し訳ありません。 最高の幸福の瞬間にも極度の逆境の瞬間にも、われわれは芸術家を必要とする。 ゲーテ 簡単に言うと、この作品はこういうことかと。 もう少し説明すると、自分の地獄のような苦悩を表現することが救いになったということですね。 そのきっかけが針金の蛇で、その蛇のように表現をしたい、という認識ではあります。 発想の元になったのは二つ。 蛇の体の中に他のどこにもない炎があって、それを取りに行くために蛇の口の中に入った、ポリネシアあたりの神話。 それと純粋に自分のためにつくり、他の芸術に影響を受けてない、アウトサイダーアート。(セルフトートとも言います) アウトサイダーアートの中には、自分の主観である種の地獄なんじゃないのかと思ってしまう作品があります。 ですが、その作者にとっては楽しい、必要な創作な場合が多いです。 今回の作品も同じく、地獄を作るとは必要な創作であり、蛇とは創作のきっかけであり、一種の想像力の象徴なのかと。 また悪魔的で悪夢的なほど危険なものじゃないと青年は救われなかったと思えます。 劇薬も薬なわけで。 テコ入れですか。 目新しい方向もそろそろあってもいいかもしれませんね。 書けるかわかりませんが、少し考えてみます。
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