とおい神話 - B-REVIEW
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とおい神話    

真ん中でぱきっと割られたジャムとマーガリンが平行線を描くのと似ていた。 細い人差し指と親指で摘んでイチゴジャムだけを出し、限りなく薄いロシアンティーを作り、もう片方のマーガリンはべちょっとパンに押し出して、フォークで適当に塗りつけている、あなた。 きっと、蝶の片翅を平然ともぐような子だったでしょう。教えてくれないけれど。鱗粉が手についたような気がして、思わず全てのゆびを目の前のティッシュで拭った。 * 読んでいたであろう本で顔を隠しながら、ソファーに横になってねむっているあなた。そっと近づいていってタイトルを見れば、『痴人の愛』。自分の中の何かが、今朝からおかしい。あのスティックシュガーの味しかしない奇妙な紅茶を作る姿にも別に普段は苛立ったりしないのに。なんども読んだのだろう、この角がボロボロの『痴人の愛』。ジョージと......。 あなたが本当に囲いたかったのは、もしかしたら――。 完全なる傷口をつくりあげるための喧嘩とそれを治癒する甘美な看病は何年続いたのだったか。しかし早晩、捨てられるのだろう。(日毎に長引く喧嘩。傷口は、そのままで。)いや、捨てていく、この部屋を出る。それでいい。薄情だとあなたは言うだろうが、鏡に向かって発せば、それはあなたへと還るものだ。 そう、あなたはそんなことにも気づかなかった。こちらをかえりみなかった。始めたのはあなたの方なのに。(本当は、壁際に追い詰めて、手をそっと握り、もう要らないのか聞きたい。そして答えてほしい。)そう、それでも、ひとりにされてもあなたは平気だ。探しになど来ない。あなたは振り返らないオルフェウス。こんなものは、神話にはほど遠い。


とおい神話 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 8
P V 数 : 1059.3
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2018-12-01
コメント日時 2018-12-06
項目全期間(2025/04/11現在)投稿後10日間
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前衛性00
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閲覧指数:1059.3
2025/04/11 03時19分11秒現在
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    作品に書かれた推薦文

とおい神話 コメントセクション

コメント数(8)
岩垣弥生
(2018-12-01)

心のすれ違い以上の断絶を「あなた」との間に感じました。すべての物、すべての人に愛があるわけではない。愛なきものとの関係は神話の真逆のベクトルしかもたない。そんなせつなさを感じました。 思い出という形で語られているのが詩情になっていて良かったです。

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鬱海
(2018-12-02)

沙一さま 思い出を神話にしたかったというのももちろんあると思います。と同時に自分たちの現在の物語を神話にして永遠がほしいという欲望もあるのだと思います。しかしこの書きぶりだと沙一さんの書いてくださった読みが絶対的に先に来ると思うので、そこは反省ですね。コメントありがとうございます。 岩垣弥生さま 「心のすれ違い以上の断絶を「あなた」との間に感じました。」と書いてくださっていて、それがこの文でもっとも表現したかったことなので、汲んで頂けて嬉しかったです。コメントありがとうございました。

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環希 帆乃未
(2018-12-02)

神話詩は、失われたジャンルの一つです。失われても神話は残っています。詩という言葉が除去されましたが。私は神話詩を応援します。神話詩はとても稀有で貴重です。

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鬱海
(2018-12-02)

つきみさま 好意的なコメントありがとうございます。

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三浦果実
(2018-12-05)

ゼンメツさんの作品についても、正直に言うとその作品が何故良いと読めてしまうのかの理由を明らかに説明することが出来ない。本作も同様。鬱海さんの前作の方が読みにくさがあったにせよ、フックとなるディテールの置き方などがあって良さがわかりやすかった。強いてその不可解な良さの理由を挙げれば、空虚な情緒がそこにあるということ。空虚な情緒という言い表わしを代えると、そこにあるのは人形劇だ。人間の交わりが書かれてあるのに、生々しいものが除去されている読後感。村上春樹作品は人間が、自我が書かれていないと評される。鬱海さんの作品、ゼンメツさんの作品から受けるものには人間さえもない。付け加えると、人間や自我などが無いということが心地よい。なぜに文学だから人間を書かなくてはならないのか。人間をリアルに書けば書くほどに人形になることは寧ろ正常に思う。谷崎潤一郎も本当はそれなんじゃないかと思う。

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鬱海
(2018-12-06)

みうらさま 少なくとも私の作品には「人間がいない」というご指摘があてはまると思います。二年半前、初めて書いた小説についたレスに「あなたは書くということや人間について何もわかっていない」というものがありました。正鵠を射たレスでした。私は作品において、人間を感情という表象でしか表現できていないと思います。そしてそれは私の人間に対する態度にもそのまま繋がっていると思います。根が深い問題です。 人間とは何なのか、人間を書くとはどういうことなのか。たしかに人間をリアルに書けば書くほど人形劇になります。そしてまた文学が人間について必ずしも書く必要はないと思います。(現に人間を描かないという新たな文学表現も力を持ってきていると思います。)ですが私が書きたいのは人間についてのことなのです。みうらさんの作品のコメント欄で書いてくださったように私は愛が書きたいのです。なので今回頂いたご指摘、好意的に受け取らせていただく反面、自分のなかでとても重要なものでした。 また、みうらさんの詩やコメントにはいつも「人間がいる」と思います。そういうところを好ましく思い作品を読ませていただいております。長いレスですみません。

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stereotype2085
(2018-12-06)

朝方、でしょうか。何気ない日常の一コマからあなたと私の関係についての分析がなされていく。そういう不思議な瞬間、あると思います。ちょっと手から落ちてしまったスプーンから想像とイメージが拡大し、膨張するという瞬間が。この詩は一見して読みづらい、掴みづらいという印象があったものの、何度か読み、全体をある程度把握すると面白味が伝わってくる。喧嘩と看病をしたあなたとの関係、そしてその亀裂。時間としては短い中に物語が凝縮されている。そして最後の締め「神話には程遠い」も二人の関係がいかに限界に近づいてきていたかを示唆していてフレーズとしても心地よかったと思います。

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鬱海
(2018-12-06)

stereotype2085さま コメントありがとうございます。 「ちょっと手から落ちてしまったスプーンから想像とイメージが拡大し、膨張するという瞬間が。」頂いたこのコメント一文が、私の詩をすでに上回っているような気がして悔しいです(笑)読みづらさ、掴みにくさの中、何度か読み返してくださったとのこと、また最後のフレーズもお褒めいただき嬉しいです。丁寧なコメントありがとうございました。

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