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一線
書け石ひとつあれば 家を建てるのなんて簡単だった アスファルトに力いっぱい引いた白線は あっという間に壁となってそびえ立った 高い高い青天井の下 自ら切り取ったプライベートスペース 訪う者は とんとんとん、 宙を拳で叩くのがルール 車やバイクや自転車たちは 軽々しく踏みにじっていくけれど ヒトの子たちにとって 線の向こうは絶対不可侵だった とんとんとん、何度ノックしても どうぞと返事がなければ 立ち入ることのできないいびつな四角形の 真ん中で膝を抱えた あの子は誰だ 夕方五時きっかりに 町内のスピーカーが童謡を歌い始めると 書け石の魔法はあっけなく解けて 壁という壁はただの白線に戻るのに あの子のまわりだけは別だった 出口を作り忘れたいびつな四角形の 片隅で拳を振り上げて とんとんとん、何度ノックしても 外にはもう誰もいない とんとんとん、 あの子は私か それとも君だったか そろそろ気づいてもいいころだ そこにあるのは壁ではない 雨が降ればたやすく流れ消える 蝋石の粉にすぎないのだと もしも今 自ら閉じ込められたその部屋から 解き放たれるつもりがあるのなら その一線を越えてゆけ ただ一歩 足を前に踏み出すだけのことだ ※【書け石】[名] 舗道などに書くことのできる石。軽石の類。〈子〉(Weblio北海道方言辞書より) ※初出 「詩と思想」2015年5月号
一線 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1281.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-10-25
コメント日時 2018-10-26
項目 | 全期間(2024/12/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
めまぐるしく変化する現代において立ち止まって考える能力のある人間だけが見ることのできる景色があるのですね。理論的な矛盾を徹底的に排除した冷徹なまでの理性がなせるわざですね。
0最後まで読むとおおってなる。1、2連目のたるい童謡的展開をどう乗り越えさせるかだ。最初がね、ああそういう感じね、良識派おばさん()が書きそうなやつね、って思わせてしまうから。
0>オオサカダニケさん コメントありがとうございます! この作品は「壁を超えて」というテーマを与えられて、書き下ろしたものでした。それに合わせようとして、理が勝ちすぎたかも……。ともあれ、景色まできちんと読み取っていただき、感謝いたします。 >渡辺八畳@祝儀敷さん コメントありがとうございます! 一か所でもおおっと思っていただけたなら、重畳です。
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