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夏弔風月
遠く遠く澄んだ空は烏の艶めき 音もなくひろがる ほっそりと浮かぶ乾いた月 漏れだすような胡粉の明かりが 泡だつ雲の灰いろを、すこしだけ染める 星がひとつぶころがっている ちいさく赤く燃えている 大気がゆるやかにうねり 肌にしみいる 木の葉がアスファルトをひっかき 踏みしめられて、くずれ うな垂れたひまわりがゆられ その金色は萎れ 自転車少年のうぶ毛が逆だち シャツがはためき 街灯に照らされて、陰影は淡い 夜闇をくすぐる羽音が 褪せ初めた青草やえのころ草の、陰から生じ 満ちて、重なり、おおきなふるえとなり 青草やえのころ草の、そよぎに消え 刹那のうちに何も残さず 繰り返し、連なり 終わりも始まりもなく 留まる熱を、送る葬列 すべてが枯れ続けているだけ 引き出しの中の貝殻は おもちゃや鉛筆に追いやられて 砂に埋もれるようにうつろいに埋もれてゆく ビー玉や、ラムネの瓶や、記念写真や みんな記録にくくられる 悼むのは小石を蹴るように 弔うのは服をたたむように 窓の外では常緑樹や家々が 永遠みたいなふうでいる ささやかに変色しながら ベランダにさらされたビーチサンダルに、一匹の蝿が止まり 黙祷するようにうつむいている そのままじっと動かない
夏弔風月 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 951.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-09-11
コメント日時 2018-09-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
作者の夏の名残への慈しみを感じました。冒頭の夜空の妖艶さ。<すべてが枯れ続けている>すこし不気味な葬列の中にあって光る<自転車少年>のみずみずしさ。一匹の蝿によってビーチサンダルにまで生命の気配を宿らせたラストが好きです。
0〈漏れだすような胡粉の明かりが/泡だつ雲の灰いろを~〉つや消しの細い三日月と、黒々と艶めくカラス・・・日本画の作品を描写するのかと思っていたら、夏から秋へと移り変わる季節の叙景詩でした。なるほど・・・ 〈引き出しの中の貝殻は おもちゃや鉛筆に追いやられて〉夏休みが終わることへの、子供の心が抱く感慨を、いま、鮮やかに呼び出している。そこに朽ちていく夏草や音として存在感を増していく虫の鳴き声が醸し出す感慨(今現在の、夏の終わりへの思い)を重ねていく。 語り手の現在の思いには、それまでの経験や体験の蓄積が加算されていく。その重奏を感じさせる叙景作品。
0タキザワマジコさん コメントありがとうございます。 この詩の自転車少年に限らず少年はみんなみずみずしくて様々な表現に潤いを与えているように思います。 それなので枯れていく風景を表現しようとしたこの詩にふさわしいのか判別に迷いましたが、変に思われなかったのなら良かったです。 ビーチサンダルに生命を感じたことを言葉で伝えられて嬉しく思っています。
0まりもさん コメントありがとうございます。 日本画を描写しているように思われたということですが、最初に誤解を与えてしまったのは、批判的な意味合いでおっしゃったのではないにしろ少し悔しいです。もう少し明晰に伝えられたらと思います。 朽ちていく夏の名残と響く虫の声の対比が自分にはとても悲しく感じられ、それが夏を悼むようだと思いこの詩を書きました。色々なものから感じられる夏の終わり、秋の始まりを、重奏という表現したいただきなんだか嬉しい気持ちです。
0それと、貝殻の描写を鮮やかと言っていただけて嬉しいです
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