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【選評】もどいてひもといて意図
私が三月の投稿作でいちばん好きだったのは、survofさんの「自分勝手なロマンチスト」です。 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1456 以下、選評もどき。 冒頭から、話者が本棚に挟まっているというシュールな情景で始まる。そんなことをするのは小学生まででしょと思ったので、話者は小学生くらいの男の子と予想したのだけれど、英語の勉強を見てくれる社会人の女性(家庭教師?)に想いを寄せているようだから中学生、いや高校生か? 本棚の中で背伸びをするように、年上の彼女に振り向いてもらいたい一心で背伸びをする、ずいぶんと子供っぽい男の子のようだ。 ヘルマン・ヘッセを軸にして、8連目まではずっと甘ったるい恋愛が描かれていて、もうそろそろおなかいっぱいと思ったところへ急に、果物を中心に描かれる最終連が投げ込まれる。視点が恋愛から果物へと逸れる。甘ったるさからの解放。 この最終連の〈もらった果物は結局全部は食べきれなくて半分は腐らせてしまった。だって、あまりに量が多かったもんだから。〉は全体にかかっているように思われる。彼女への甘ったるい恋愛感情も、空想に浸ってばかりの子供っぽい自分自身も、背伸びしたけれど持て余して半分は腐らせてしまった。それが自覚できているから、この話者は、最初に感じたよりもはるかに大人だ。 同作は、描かれているものと作者との距離が開いている感じが私好みでした。それから、同作は明らかに〈恋愛詩〉という括りに入るけれど、話者が本棚に挟まったり彼女の匂いのするものを嗅いだりと奇抜な行動を取るので、〈よくある恋愛詩〉だよね、と簡単には言い難い。普遍性のある恋愛を取り上げているからこそ、かえって話者の奇行が際立ち、読者は「これは自分の恋愛とは別物だ」と思うはず。よって、同作は〈よくある恋愛詩〉に回収されることのない、作者独自の恋愛詩となっていると思います。 ただ、他の方のコメントを読むと、ヘッセの部分に共感する方が多いようで、この部分が際立ちすぎると〈よくある恋愛詩〉に回収されることもあるのかな、と思いました。あんなに執拗に本棚の記述があるのに、ヘッセパワーってすごいな。 この作品のコメント欄を大いに荒らしてごめんなさい。でも、survofさんといろいろとお話しできたのはとてもうれしかったです。 私には作者の意図を読み取るなんて高度な批評はできないし、こういう理由で好きなんだという感想程度しか言えないけれど、好きな作品を書く作者に話しかけられる場としてのビーレビってすごくいいなと思います。 ちなみに、私はsurvofさんとの対話から詩が一つ書けたので、本当に幸せ者です。 他に読んでよかったと思った作品。 アーカイブ掲載順。 kaz.さん「entre chien et loup」 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1403 即興ゴルコンダ(仮)にいた頃の感じ!と思ったら過去作なんですね。全体的に、放送が終わってしまった深夜のテレビの砂嵐を眺めているようで、何かが映りそうだけれど映らない、でもじっと見てると何かに見えてくる、みたいな感じでたのしみました。読むたびに見えるものが違うがしれない。 右肩ヒサシさん「みんな」 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1502 意味が脱臼していく感じというのでしょうか、絶妙なズレ加減が好きです。 タムラアスカさん「sodAXXXX」 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1546 twitterでよくお名前を見かけるのでずっと気になっていたのですが、ついに読めた! やっぱり思った通り、めっちゃうまい人だ!と思いました。 斉藤木馬さん「空蝉の」 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1435 身近で本当に聞いたことがなければここまで書けないんじゃないかなと思うくらいのリアルさ。すごいと思いました。 原口昇平さん「殺戮の時代」 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1494 〈私、の複数/形をあらわす言葉は私たちではないから。〉 特に目立たせるでもなく差し込まれたこの一文が、なぜかとてもとても気になりました。 私の複数形。私と誰かを含む言葉が私たち、であるなら、私の複数形は私しか含まない。いつも私、私と自分のことばかり考えているせいでしょうか。なんだか妙なところで躓いてしまったみたいです。 カオティクルConverge!!貴音さん「➑くんESCAPE DAYS」 http://breview.main.jp/keijiban/?id=1503 もう一作のほうは私のiPhoneでは文字化けしてしまって読めない部分があったのでこちらを。頭から常に言葉が溢れ出しているんだろうなと思うくらいのエネルギーを感じます。うらやましい。 以上、こうだの選評もどきでした。 長々と失礼いたしました。
【選評】もどいてひもといて意図 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 959.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
作成日時 2018-04-15
コメント日時 2018-04-17
こちらこそ率直にいろいろな意見を聞かせてくださり、とても嬉しく思いました。特に私にはなかった視点で作品を読んでくださっていたのがとても勉強になりました。ありがとうございました!
0survofさんへ こちらこそありがとうございました! めっちゃからんでごめんなさい。普段は大人しくしてるんですけど、たま〜にやらかすんですよね。根気強く付き合ってくださり感謝しております!
0こうださん、言及されたその一文がまさに拙作のすべての核心でした。ありがとうございました。
0原口昇平さんへ うわーうわーうーわー! コメント読んで鳥肌が立ちました。 もう一回読み返してみたいと思います。 ありがとうございます!
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