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球体の想いで
深夜一時、痛む肋を押さえながら夜間診療の 文字を潜り抜け、診察待ちをしている母子から 離れて座る硬いシート 救急診療科の周囲は不自然に清潔で明るく 少し離れた片隅は薄暗く境い目は見えない 口から吐いて出る息は熱く、その度に僕の中の 熱は失われて身体は縮んでいくようだ 十歳の頃もこうして病院の硬いシートに座って 足をぶらぶらさせて、うす暗い病室にいた 多分、母を待っていた 何故か灯りを点けもせず 夕闇が部屋にそろり、そろりと 這いいるのを気配に僕は手足を 少しずつ少しずつ丸めて夕闇の中で 球体になって幾年月か幾年月か きっとまだあの病室の硬いシートの上で 僕は球体のままなのだ 息を吸ったときの肋を鷲掴みにされる痛みだけが 今は球体でない手足を動かして 這い寄る暗がりを払い、また片隅に追いやる 傷痕は残っている 深くもなく痛みもなく ただ瘙痒感に苛まれる あの少年と僕は連続しているのか それともあれは暗がりに刻まれた 残滓か、手招きか 硬いシートの感触だけが いつも重なりあっていく ただ肋が痛いのと同じくらい 僕はあの球体の感触を知っている それはこの頭の中の脳髄と同じ孤独 誰とも分け合えない感触だ 診察室の戸をくぐる ドウサレましたカ 肋が痛むのです ホカニは、ほかニハあリマセんか 肋だけです 瘡蓋に覆われた傷口の瘙痒感など ひとにみせるものではない そうして僕はまたレントゲン室の戸をくぐる 放射線が細胞の隅々までつまびらかに 僕を解明していく 息を止める一瞬、僕しかいない部屋を また球体が横切っていく あのまま消えてしまいたかった願望と 生き汚く存在する猿の変種たる人類の 癌細胞のような生存本能 病棟へと続くであろう階段は 非常灯の緑に染まり手招いていた あのときの病室への扉をくぐるとしたら そこに終わりがあるのか どちらにしろ先行きは暗闇のなか 病院の外で響いたブレーキ音に足が 動き始める 待合室の硬いシートに座り 手探りの明日を待つだけだ さよなら、球体の僕
球体の想いで ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 848.8
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 3
作成日時 2018-04-15
コメント日時 2018-05-05
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 0 |
総合ポイント | 3 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんばんはよろしくおねがいします。 「球体」と「肋」おそらくこの二つがキーワードでしょうか 私はそこに目がとまりましたので 肋の痛さは体験しているのでわかります 呼吸することも寝返りうつことも眠る事すらままならない痛みは一度体験すると その記憶から離れることはできません 痛みに体を丸められたのでしょうか 夜の闇にいて、僕はその亡霊のようにも映りました。
0李沙英さま コメントありがとうございます。痛みに身体を丸めることと球体の繋がりは正直、気づいていませんでした。根幹には肋の痛みから幼い頃の痛み?の記憶に繋がっていくように描きました。ただその痛み、という主題への掘り起こしが、不足していたようにも思います。
0喘息の苦しみでしょうか。 子供時代の苦悩と、その場でこらえている少年の苦悩がリンクし、内面の孤独という点においても、共感とは違う形で、いわば戦友のような・・・同志的な親近感で、少年の内面にまで、想いを馳せているのかもしれません。 最後の一行、旅立ちをイメージさせるものでもあるので・・・前半で出て来た少年に再び視点を戻して、少年が自身の孤独や苦しみに「さようなら」と呼びかけるような展開(そこに再び、自身を重ねる)もあり得たかもしれないと思いました。
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