孤独とは楽しみであり、楽しみは詩となり詩はひとときの楽しみと無聊になるだろう。楽しみ、が何ひとつないのならば私はもう唯一の詩に触れることもやめよう。それは生命を手放すに等しい。順に皿を砕いていく。ガチャンガシャン、と孤独死した老人の家を壊している。いや、孤独死した老人ではない田辺伊三郎という名前で、彼は海軍の中尉であり、軍艦乗りでもあった。製糸工場の場長を務めたひとでもある。書道が得意で強面だが、ひとなつこい一面もあった。晩年は煙草と晩酌、犬だけが彼の友であり支えだった。いや、それも単なる憶測でしかない。皿を割る、大小さまざまな皿を割る。どの皿も色も形も使用年数まで違う。それでも破れたらただのゴミなのか。繋ぎ合わせれば、新たな幻想が宿るだろうか。孤独とは寄せ集めの人生だ。破れかぶれでも悪くはない。後、どれだけの皿を割れば良いのだろう。明け透けな裸電球が、お前は破壊を楽しんでいるのだろうという。手にしたハンマーがお喋りなやつを潰して、私は返す刀でさらに皿を割ることに熱中するのだった。もはや名前など知らないものたちが、省みられることなく砕けていく。私は頭から蒸気を噴き出しながら口から煙りを吐いた。やがて夜更けを迎えるころ壁は失われ、眩い陽が眼を射る。あと一皿であった。重機の唸りが高まり私の頭上に影がさした。振り下ろせ、誰かの声に合わせて最後の皿が砕かれた。地球の重力に逆らえない運命のように、どこかで熟れた果実が落ちて砕けた。乗せるべき皿がなくなったのだから、それもむべからぬことであった。
作品データ
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作成日時 2024-07-21
コメント日時 2024-07-21
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/21 21時29分06秒現在
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多層に折り重なるイメージに皿、が仮託されているのだろうか、 人物描写と、砕かれ、破れる、皿、時が来ればいずれ壊れてしまうのだろうか。割れて繋ぎ合わされた欠片は、形を保てるだろうか。そういった印象を受けました、
0むべからぬことであった。なんて久々に読んだ。まあ楽しみと無聊~なんて書き込んでおられるので古い方だなあと、古い言い回しだからって、わたしもどちらかどちらかといえば古い方なので、これは何とも言えません、笑です。 詩と孤独に関連して皿を割り続けるという行為が突然鳴り響く。皿とはモノでその本質とは何かを置くための実存(現実)に扱うモノですね。壊してしまっては元も子もない。その本質を壊してしまうという行為は、つまり本質から抜け出して皿をみつめて行こう。という実存(現実)の思考性に対する変化とも受け取れて読めてきますね。 いままで積み重ねてきた思いを打ち壊してしまえ。その挨拶への前置きとして読めてきます。
0ずっと書いてると凝り固まったり手癖がでますよね。それも偶にはいいんですがもっと色々なことが自分はというか詩は出来ると思うんです。谷川俊太郎はあまり好きでないし、つまらん作品もあるけど彼の幅広い動きには感化されてきた所があります。凝り固まったものを一回打ち壊してつぎ直したり組み替えたり、違うものをさがしてみる。そんな試行錯誤がいつもある気がしています。
0自分自身もいずれ砕かれ破られていきます。そのとき僕を知っているひとでなくても誰かが何かを思ってくれるなら、そのなかで新しい形が産まれたりするのかもしれません。
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