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春は来たる
疲れ果てて上を向いたら風が吹いた。風は細かな砂を連れて私の頬を引っ叩いて、私は涙目をぎゅっとつむり顔を背けて咳き込んだ。縛ったゴミ袋が倒れた。散々だ。ああ、散々だ。 風が止んだので横を向いたまま、そろそろと目を開けた。避けきれなかった砂つぶが目を痛めつけている。ぼろぼろと涙が頬を転がる。視界がクリアになるまでに、何度か瞬きをした。 桜の花。 涙に濡れた頬に、柔らかな風が吹いた。なにかがこちらにふりかかる。砂ではない。もっと柔らかくて優しいもの。桜。桜の、はなびら。 思わず立ち上がった。背けた視線の先を吸い込むように、真っ白で、ほのかにピンクの桜の花が、やっとこちらに気付いたかと、私の視線を抱擁する、している、ような、気がした。 涙を流しながら、咳き込みながら、それでも思わず立ち上がった。 廃墟と瓦礫の中に咲く花を、ただ見ることしかできない私の後ろ。やたらご機嫌なおじさまが自転車に乗って通り過ぎた。 やたらご機嫌なおじさまの口笛がやたらに上手くて、なんだか笑えてきた。 春を告げるだってさ。ああ、もう春は来ていた。気付かなかった。だってあんまり悲しいことばっかりだったから。 ちょっとお行儀悪いけど、袖の先で涙を拭った。足に倒れてきたゴミ袋をしゃんと持ち上げた。せめて春に別れを告げる頃には、にっこり笑って手を振りたい。
春は来たる ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 496.1
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-04-04
コメント日時 2024-04-14
項目 | 全期間(2024/12/26現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
これ、なんというかもうめちゃくちゃ大好きです。最初にそれだけ。 桜の花、の行開けがすごく効果的で、一瞬息を張り詰め、全てが解けていくような詩の緩急が美しい。美しいっていうとありきたり且つ抽象的ですけど、読み終わってもまだ胸が高鳴っているような、そんな感覚があります。 それから、とにかく読んでいて心地いい。すごく映像を鮮明に想起できる作品なんですけど、同時に映像だけじゃない、文字列そのものの良さ、言葉そのものの柔らかさがあって…… 特筆すべき、と感じるのはリズムですよね。スルスル読めるのはもちろん、読んでるうちにどんどんノってくる。「桜。桜の、はなびら。」のような繰り返しや、「私の視線を抱擁する、している、ような、気がした。」のような言い直しなんかは、読み手の中での時間を巧みにコントロールし、作品世界に同調させてくれるんですけど、それによって感情の高まりが何倍にもなってくる。やっぱり詩において、口ずさむときの音ってすごく重要なんだなと感じました。 美しい情景の詩なんですけど、それでいてやっぱり感情の詩なんですよね。 疲れてる時、苦しい時に、本当に読みたいような、そんな光の方向に向かう作品だな、と。
1廃墟と瓦礫の中に咲く花だけで、語り手が泣くのはわかるのだけれど、読み手のわたしはそれだけでは何かとイメージできないので、泣くにも泣けなかったのです。 。
0清涼感がありますね。まさしく春風を感じる作品です。
0砂と花か、、、辛いときは誰でもあるかもしれませんが心一つで変わることもあると思います
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