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シンプル
なんだか自分っていうものが、どんどんシンプルになっている気がする。 いままでは、アイデンティティってやつを考える折には、とかく過去を参照、もといまさぐるのが常だった。そうして軽く自分史をこしらえるように、自分のそれまでの人生をドラマチックにイメージしたり、あるいはじいんと感じ入ろうと努めてた。そうして暗から明への転換点に自分を位置づけ、光ある未来への途上に凛と立って空想を終えるのだった。 いまは、それこそもう一瞬でいい。昨日スーパーで買い物をした折、5千円札を入れ千円札3枚を取り忘れていて、店員の女の子に「すいません、お金取り忘れてます(笑)」と手渡された。「あっ、すいませ〜ん」と、僕は気恥ずかしげに苦笑したのだけど、すると彼女は「ふふふ」と目を覗き込むように再び笑ってくれた(すごく可愛いかった)。 僕は気恥ずかしげな苦笑によってたしかに、彼女のあの可憐さ120%の笑顔を引き出したのだ。アイデンティティに、それ以上の何がいるというのだろう?僕の過去なんて彼女は知らない。独自の感性も拘りのある信条だって知らない。だけど彼女は笑ってくれた。ならその、反射的に気恥ずかしげに苦笑した自分こそが、一見表面的で取るに足らないような自分こそが、むしろ僕っていう人間の核なんだ。 そんな風に思うのはあるいは、最近(スーパーの女の子とはまた別の)素敵な女の子と知り合えたからかもしれない。彼女にだって、僕は「深い話」なんてしてない。他愛ない話ばかりだ。じゃあ彼女との関係は浅いのかといえば、その実かつてない深みを感じてる。 とはいえ、ただ薔薇色ってわけじゃない。1人アパートにいると、やはり色々な心配事―はたして彼女と付き合えるのだろうか?―が浮かんでくるし、それらがひいてはアイデンティティの悩みに繋がりかねない予感も抱いてる。だからこそ僕はまた、つとにシンプルであろうともしている。 彼女にしろスーパーの女の子にしろ、自分に好意的な働きかけをしてくれる人がいるのなら、それこそそんなシーンを何十回とリフレインさせればいいのだと思う。自分というのは、そんな人たちとのあいだの快い化学反応以上のものではないのだろう。 そうはいっても四六時中リフレインの海に浸るわけにはいかず、煩悶や空虚は隙を見つけてはこの胸に滑り込もうとしてくる。だから僕はこうして文章を書いているのだと思う。その前はナンプレをしゃかりきに解いていた。この後は、みっちり部屋の掃除でもしようと思う。
シンプル ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 409.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-04-01
コメント日時 2024-04-05
項目 | 全期間(2024/12/26現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
アイデンティティは社会の盾かもしれません。 この詩ではそれほど、無理に自分を装わなくとも過ごせる平和な環境だと、捉えられます。 しかし時に、受け身的なアイデンティティは、詩にあるように相手のアイデンティティが流れるのを許すため、上手いようにダシにされる場合もありますね。最終連、無意識にその予防が貼られていく感じがします。 お金忘れてるぞボケ!! ってストレス発散で言ってくるオジサンのアイデンティティを120%引き出してしまう可能性もある、ということです。運がいいなぁ、と読んでて思いました。
1なるほど、考えさせられました。自分なりのとはいえ漠然と、アイデンティティというものについてのある種普遍的なスタンスを提示できたかのような気でいましたが、それはしかし、僕を取り巻く平和な世界を暗に前提にしたもの(でしかない)かもしれない。具体的には、現に好意的に反応してくれた女の子の存在がまさにそうですよね。 僕は単純なんでしょう(笑)、不快な対応をする相手に出くわすとその日一日気分が悪い日もあり、逆も然りです。熊倉ミハイさんのおっしゃるように、自然体≒受け身ゆえにダシにされてるのかも(汗) 快い関係性をなるだけ多くの人と作り出していけるように、臨機応変な積極性みたいなものも身につけていければと思います。 それこそが自己実現と言えば、少し単純にすぎるかもしれませんが。
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