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もうここらが峠だ
外でボールを追いかける事よりも、一体これはなんなのだろうと百人一首の歌留多を手にとって遊んでいたのが三歳の記憶。 人生に於ける、幼少期の少しの差が、そののち、次々と積み重なって、今こうして、郊外の、裏道の、更に分け入った所でひっそり暮らしている。 その暮らしは私にとって不思議な感慨、というか感覚を呼び起こさせる。 まるで白黒で映し出された都会の曇り空のようであったし、そのビル群の手前側を忙しく左から右へ流れてゆく、黒い群衆の姿でもあった。 それを映す、このカメラには水滴がポトポトと当たると、ついにぼやけてしまい、カメラの何かを映し出すという機能を損なってしまう。 その、ぼやかし、の向こうでは、落雷による白光がいくども、いくども、繰り返されている。 カットが切り替わり、そこにはハタハタと黒い旗が一枚風に吹かれていた。 ──こりゃあ、かつて詩人の見た旗か? イメージの終着駅だ。ただ曇り空が広がっている都会で、集会があって不気味ですらある。象徴としての、黒い旗だ。 その夢想に検討をつけて、すべてを了解したように納得して立ち上がると、ズボンのポケットの中に六百円が入っている。 加熱式煙草のパックにすれば、四百円に、加えてコーヒーも買えるが、或いは紙巻にすれば、六百円すべてなくなる。 ええい、ままよ、とさっと、薄手の薄緑のシャツを着ると、自宅を出て、自宅とコンビニとを結ぶ狭い道を歩いていった。 青空で、小鳥が威勢良く飛んで、木にぶつかって、二十羽の雀は、道に落ちるし、大変に愉快な春であった。 ──こんにちは 途端、私はすれ違いの女に、首元をナイフで刺されてしまった。 私はびっくりして、シュウシュウ音を立て、体が蒸発して、それからフワッと天に昇っていってしまった。 そもそも、私は薄緑のシャツの胸ポケットに、私自身を入れていたので、私が蒸発して、天へ昇ってゆく様子をしっかりと目にとどめることができた。 しかし、私は恐怖心でいっぱいになり、人が死んだのなら、お星様になるのですよ、なんてことを思い出したのは、その晩、夜にひっかかって動けなくなってからだ。 今、つかれてしまい力なく、つめたい夜の中を、たまに目を見開いて、光ったりする。 そこにはハタハタと黒い旗が一枚風に吹かれている。
もうここらが峠だ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 297.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-04-01
コメント日時 2024-04-01
項目 | 全期間(2024/12/26現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
その晩、夜にひっかかって動けなくなってからだ。 ぼくもなにかに引っかかって動けなくなるときがあります。
1動けなくなる 分かる気がします
1こういうものがサラッと出てくる事自体が詩人としての心がもう染み付いてると思うのですよ。この詩確実に作者の心が迷いが、答えとして載っているんですね、ですから御自分で読み解いて、峠を越えたほうがいいと思いますよ。周りや今の置かれている環境など気にせずに、今もっと高いところをみたほうがいい、その場で目を凝らして、よいと思うものを探すのではなく。自ら興味惹かれる方へ歩いたほうがいいと思います。
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