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S君
向精神薬で悪い夢をみていたような気がする。私の認知能力はじっさい物凄く下がっていたのだ。夜の、快調にのって月まで上昇し、あとは、わっと下降してゆく。あしさきがいい気持ちだ。私は道を左に曲がった。この浅い春の夜に、上下、灰色のスウェットを着てチャウチャウの散歩をしている女の子。女の子の顔は白い。を、抜けて、そうだ、私は幽体の、春の幽霊であった事に気づいて、落ちてきた星空を見つめた。信号機が赤だ。そこら物質が、信号機も、月も、しろい草も、枯れた水仙の花も、ここに膨張して、ついに炸裂して、その液体でもって、私が構成される。ああ、ひかり。ひかりも忘れずに。コンビニエンスストアに入る前に、ネルシャツからポンポン、とマックロクロスケを追い払って、ペットボトルのジュースを買う。として、このジュースを飲んでも喉は乾かないみたいだ。それにしてもいがらっぽい。煙草はとうにやめていたのに、煙草は、ショートホープは、思っている以上のダメージを喉に与えていたようだ。しかしそれもいつかの夢になる。私には言葉、センテンスを書く、という魔法を、再獲得したから。それは認知機能の改善によってもたらされた。でも余り、眠る事に重要性を見いだせなくなった、と川を眺めている/眺めていた。私は私のポケットに入ったまま、その私はひたすら前進した。汗をかけば白いハンカチがあった。白いハンカチは妻がポケットに突っ込んでくれたものだろう?じゃなきゃ知らないぜ。スマートフォンも置いてきたが、今、私は私の眼の解析度を信じられる。筋のない物語だって?といつかS君が言っていたことを思う。そうだよ、芥川龍之介の遺作かな。S君は、僕は設定が好きだからね、とキャンパスノートを丹念めくる、図書室。私たちは陸上部をドロップ・アウトしていた。しかし文芸部は三人、人がいなければ設立はままらなかった。・・・それに教頭先生が、作文にペンネームを使うなっていうんだよ、僕はラノベが書きたいんだけど・・・とS君は言った。結局、卒業アルバムで私は陸上部の写真に写り込むことになった。S君は科学部の写真に納まっていたけれど、その写真できみはキャンパスノートを持って写っていたっけ?さまざまな夢、まざまざとうつつ。その境界が、ほぐされ、今、わからなくなりそうになっている。眠っている者と起きている者がいるからだ。だってまだ土曜日の午前1時なんだぜ。いや、金曜日の午後、25時といっていい。S君、おかしいだろ、私は未だ物を書いているんだよ。只、書いてゆけ──、きみから教わった。きみがラノベ作家になっている今を強く願うよ。祈り。川に、映る、白い、月が、揺れて。そして私は走るんだ。グロッキーになるまで走るんだ。なんで走るのかはわからない。陸上部だったからだろうか?ピンクのユニフォームを着てさ、てんでなってないし、体つきをこれから取り戻そうというのだろうか?教えてくれ、教えてくれ、走る。走る。走る。ふと、もっと走れよ、と、電信柱の影から声が聞こえたような気がした。そして、今、夢の側にいるのか、うつつの側にいるのかわからなくなって、止まった。ジュースを飲んだ。道を猫が横切った。私なんかよりもっと早い。でも、競争なんてしていないぜ、僕ら。そうだろ、S君。でもきみの事を思い出す。ご免、ラノベは趣味じゃなかったんだ。でもきみから今でもファイトをもらってる。ハンカチで鼻を噛んだ。枯れていた水仙がまた咲いた。ほんとうでも嘘でもどっちでも良かった。そしてS君のことを忘れる、夢か、うつつか、帰路に着く。
S君 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 391.0
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-03-02
コメント日時 2024-04-20
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
×>いや、金曜日の午後、25時といっていい。 〇>いや、金曜日の、25時といっていい。
1僕たちの見る夢(眠る時の)っていうのは、過去の記憶を集めて組み合わせた「作り話」がほとんどですよね。この詩の面白さは、「僕」からS君に向けての想いのゆらぎにあると思います。 S君は陸上部からドロップアウトしてまでやりたいことを追いかけたのに対し、「僕」は陸上部に戻っていった。それなのに、書くことを続けているのは「僕」の方で、S君がどうなったのかの音沙汰はない。 筋書きのあるものを好んでいたのに、S君は、ナンセンスな夢物語に埋没して眠ってしまったのだろうか? しかし、そうとも言い切れない。「僕」も当然今、同じようにS君に想いを馳せられている可能性もある。だから、電柱の陰から、あの速い猫からS君を想起して、夢の中に入っているのは「僕」の方じゃないかとも思ってしまう。 けれど、夢かうつつか、実際は「どっちでも良かった」。とりあえずそんなことは関係なしに走り続ける。 そんな夢とうつつが混じり合うトンネルの中に、私たちもいるなぁと。世間のありきたりな二項対立的世界観を面白く、くるっと翻す詩だと思いました。
1こんばんは~。 ああ、本当に要点だけかいつまんで、まとめて下さってありがとうございます!! その、詩、というのはまず、真実を書く/虚を書く、っていう事があって 更にそこに夢の事を書き込むと、醒めているとき/そうじゃないとき、ってなっちゃうんですよね。 もう、ここまで来るとわけわからんから、「どっちでも良かった」っていうのは つい、創作に対して出てしまった本音かも知れないですね。 じっさい、そう、夢は作り物だと思いますし、僕は、夜、走ってますし S君の逸話も嘘じゃないんですよ。 ただそれを詩として展開したときに、それは夢のように編集されたものになるから 嘘ちゃうん?とかわけわからなくなって そういった中で、大切な、S君と私の、振幅というのかな、きっと互い今でもあって。 そういうものを感じ取ってもらえたらありがたいですね。ありがとうございます!!
1抗うつ剤のことですね。
0良い意味で、一人暮らしで散らかった感じのする部屋に友達を呼び込んで夜中しゃべって朝になっているみたいな作品だと思いました。書き方をところどころ変えながら、読ませる(飽きさせない)工夫がしてあって読んでいて面白いなと感じました。それがこの作品の個性であり、読みにくさでもあるかと思います。散らかった感じと書きましたが、散らかってしまったように見せる書き方をされていますが、それは住人(この作品)にとっては散らかっていない、合理的な散らかり方ではなかったように感じました。
1美しく、楽しく、懐かしさがしみ込んでいる夜、恐らく、故郷の街。僕自身の夜と、同期させて 読んでいました。詩人は、純粋であるべきだと、思いますね。
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