死の舞踏(アレクサンドル・ブローク) - B-REVIEW
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死の舞踏(アレクサンドル・ブローク)    

ブロークは現実に限りなく近い、どこかグロテスクで残酷な世界を描く詩人です。この「死の舞踏」(原題「Пляски смерти」)には五篇の詩が編まれています。表題通りどれも死に関するものですが、進展がない人々の生活を嘆かわしく描いている一面もあります。ブロークが創り出す世界の静寂と恐怖をご堪能ください。 死の舞踏 アレクサンドル・ブローク 一 人々のなかで生命と熱意を装うのは 死人にとって いかなる疲労だろう。 だが必然なのだ 社会に摺りついて 職のために骨が鳴る音を隠すことは。 生者は眠る。死人は柩から起き上がって 銀行に 裁判所に 議院に赴く。 夜が白々しいほど 憤慨は黒光りし 羽毛は歓声の如く軋む。 死人は一日中 報告書の作成に励んでいる。 公務は終わった。するとご覧── 議員に卑猥なアネクドートを 彼は囁いている……それも尻を振りながら。 もう晩。小雨は泥で叩きつける 通行人を 家屋を その他の芥を…… ところが死人のことは──また違う乱脈へと タクシーが運ぶ 軋轢を轟かせ。 無数の柱と人を収めた大広間へと 死人は急ぐ 美麗な夜会服を纏って。 彼には従順な笑みが贈られる 妻──痴女と 夫──阿呆によって。 彼は役人の暇に疲れ果てたが カタカタ鳴る骨は 音楽で搔き消される…… 同僚たちと彼は固い握手を交わす── 生きている 彼は生きていると思われたいのだ。 柱のそばで 女友だちと目が合った。 彼女も彼と同様 死んでいる。 彼らの名目上 社交である会話の裏で 本音を君は耳にする。 「疲れた友よ ここは私にとって奇妙だ」── 「疲れた友よ 墓地は寒いわ」── 「もう零時か」──「ええ ですが貴方はワルツにNNを 誘わなかったかしら。彼女は貴方に恋をしている……」 すぐそこで──NNは熱愛の眼差しで探している 彼を 彼を──血に潜めた緊張とともに…… 華やかな乙女の顔には 空虚な 生きた愛情の感激…… 彼は彼女に耳打ちしている 無意味な文を 生者にとっては魅惑的な言葉を。 眺めている 肩が赤らむ様子を 肩にうなだれた頭を…… そして 公的な憤怒からなる尖鋭な毒を 超越した険悪さで 彼は浪費している…… 「なんと明晰な彼だろう どれほど彼は君を愛しているのか」 彼女の耳には──聞き慣れない奇怪な響き それは骨と骨がぶつかり合う音。 二 夜 街路 街灯 薬屋 無意味で仄かな光。 あと世紀の四半期暮らそうが── 全てこのまま。活路はない。 死ぬ──また振り出しに戻り 万事が昔のように反復される。 夜 水路にはまだ凍らぬ波紋 薬屋 街路 街灯。 三 空っぽな通り。唯一の火が窓のなかに。 ユダヤ人の薬剤師は夢でうめく。 Venena*と書かれた戸棚の前では 畑で屈むときのように膝を折って 目まで外套を被った骸骨が 何か探している 黒い口の歯をむき出して…… 見つけた……が 誤って硝子の音を立てた そっと髑髏を回した……薬剤師は鴨の声を上げ 上体を起こした──寝返りを打っただけだ…… この頃──来客は神秘な薬瓶を 外套のなかから 二人の鼻がない女性に突き出している。 通りで 白っぽい街灯の下で。 (Venena*はラテン語で毒) 四 古い 古い夢。闇から 街灯は走る──どこへ。 そこは──漆黒の水のみ。 そこは──喪失 永遠に。 影は隅から辷り出し それに他のが辷り寄った。 外套は開けていて 胸は白く 夜会服の襟章には緋色。 二番目の影──細身の胸甲騎兵 それとも教会式からの花嫁。 兜と羽根。顔はない。 死人のような静止。 門では呼び鈴が轟き 鈍く錠が鳴る。 敷居をまたぐ 売春婦と男娼が…… 凍てついた風が咆哮し 虚ろで 静かで 暗い。 上では窓が灯っている。 どうでもいい。 鉛の如く黒い水。 なかには喪失 永遠に。 三番目の霊。君はどこへ 君か 影から影へと辷るのは。 五 またしても富豪は怒って喜ぶ。 またしても貧乏人は辱められる。 石からなる巨体の屋上から 白い月は見ている 静けさを差し立て 傾斜の陰影を落とす 岩壁と 屋根の暗黒の。 全ては無駄だっただろう 法秩序を保つための ツァーリがいなければ。 ただ宮殿は探さないでくれ 親切な面も 黄金の冠も。 彼は──遠い荒野から 奇しい街灯の光のなかで 出現する。 首を手拭いで絡め 穴が空いた帽子のつばの下で 笑っている。



死の舞踏(アレクサンドル・ブローク) ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 1
P V 数 : 618.2
お気に入り数: 2
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2024-01-27
コメント日時 2024-01-28
#現代詩 #ビーレビ杯不参加 #縦書き
項目全期間(2025/04/12現在)投稿後10日間
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2025/04/12 06時14分25秒現在
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    作品に書かれた推薦文

死の舞踏(アレクサンドル・ブローク) コメントセクション

コメント数(1)
鷹枕可
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(2024-01-28)

否、素晴らしい試みです。 肝心の翻訳‐作へ素人なりの感想を記述させて頂きますなら。 制度の只中に生活をするものたち「銀行員」や、「裁判員」「議員」等を鮮やかに死者へと顛倒せしめ、体制への諷刺どころではない――徹底的に冷徹な視座を以て――「文化的」生活への冷笑が記述されており。 「詩」とは此処まで凄まじい反現実的現実を叙述し得るものである、と「思い出させて」下さり、目が洗われる心境でございます。 「不在のツァーリ(皇帝)」への希求的心情等、夙に心に刺さり。 しかもその姿は恰も「農奴」か「案山子」を彷彿とせしめるがごとく記述をされていらっしゃいます。 深読みを致しましても素晴らしく、修辞の綺羅燦然たる退廃‐美も、復。相俟りまして、思わず恍惚と致してしまいました。 此の水準を指標と致します事には、眩暈を覚えざるを得ませんが。其処迄達しなければ、プロフェッショナルとは言い難いのでございましょう。 勉強をさせて頂きました次第でございます。

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