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自分の魅力
「よるは いちばんいい 匂いがするね」のラストは、泣ける。毛布に、あるいは闇に包まれることで、愛への飢えをいっときでも忘れることができるからか。「眠ってしまって よるだけは こえようよ」―似たような言葉を、何度自分に言い聞かせてきたことだろう。 この世界に神がいるのなら、彼(彼女?)はなぜ、人が「あい」を手にする道程を、かくも困難なものにしたのだろう? 職場を辞めた後、そこそこ仲の良かった女の子に、僕が辞めたことについて誰か何か言ってなかった?と訊いた。"だーれもなんも言ってねーや"と返ってきた。ぶっきらぼうな彼女に訊いた僕が馬鹿だったと、自嘲した。でも訊いたのが彼女じゃなかったとしても、自分がほとんど誰からも顧みられていないという事実に変わりはなかったろう。 最後の日の帰り際に握手してくれた50手前の人との付き合いは、ほんの短いあいだだったけれど、よくドラクエの音楽の話で盛り上がって、楽しかったな。"○○さん、できますよ、北九州で、きっと彼女できますよ!"―そう明るく言ってくれた40半ばの女性は、年下の僕にいつも恭しく接してくれて、嬉しかったな。 50人中、2人。ずっと惨めで仕方なかったからこそ、彼らには本当に感謝してる。職場を辞めてから心がにわかに軽くなったのは、明日の日々しか見えないからだろう。紛い物の関係や冷たい関係に絡み取られるようにして、鉛のように現在が重くなっていたのだと、情けないことに辞めてから気づいた。 「なぜあいが かんたんに ひきつけ あう ゆめの くりすますが ないの」という語り手の言葉を、僕は天に向かって叫びたい。年に1回、たったの1回でさえ、神は僕らに"あいの道しるべ"を示してくださらないのか。 50人中、2人。たったの、2人。それだけの魅力の自分を、しかし否定したって仕方がない。せめて、自分で自分をいたわってあげなくては、溢れ出す哀しみを堰き止めることなどできないから。
自分の魅力 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 471.3
お気に入り数: 1
投票数 : 0
作成日時 2024-01-26
コメント日時 2024-01-26