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死んだ石榴の実
ご覧なさい、あの樹の下を。 石榴の実があるでしょう? 冷たい石畳の上に 無慈悲に叩きつけられて、 土気色の皮の中から 赤黒い粒を巻き散らかして、 ピクリとも動きやしない。 あれはね、生きていた頃は 可憐で純粋(ウブ)な花だったの。 世間のことなど、まるで知らず 自分勝手に生きていたの。 ある時は、好いている子にしつこくしては 無理矢理キスをせがんだわ。 ある時は、友達との約束を忘れても 誤りなんてしなかった。 ある時は、つまらない話を一方的にしては 相手を怒らせていたっけか。 他にも挙げればキリがないわね。 そのうち、周りの人間は、 次第にあれに寄り付かなくなっていったの。 忌み嫌っては蔑んで、中には虐める奴もいた。 それでもあれは、何故こうなったかはわからずじまい。それ程までにバカだったのよ。 花が枯れて実が熟すたびに 世界が徐々に分かりだしたのでしょうね。 自分の今までの行いが、 いかに人を傷つけることだったかを。 世間が求める人間のあり方から、 自分がどれだけ程遠かったかを。 そしてとうとう、思い知らされることになる。 "自分は生まれたときから愚かであったことを。" それからというもの、あれは苦しんでいった。 世界や人間に怯えるようになった。 嫌われたくなくて、虐められたくなくて、 必死に良い子でいようとしたの。 それでも報われることはなく、 騙され、良いように扱われて、 損な役回りばかりを押し付けられて、 努力ばかり強いられていって、 体ばかりが、劣等感で膨れていった。 そしてある夜、木からプツリと切れて あれは石畳へ落ちていった。 そして、グシャリと鈍い音を立てて、 みっともなく中身を巻散らして、 一人寂しく死んでいった……。 いいこと?これが、愚かな女の最期の姿よ! 人に好かれることも知らず、 嫌われては劣等感に苛まれ、 終わらない苦しみに疲弊しきった先には 誰にも看取られる事もなく、 悲しんでくれる人もいない、 孤独な死を迎える運命! 馬鹿馬鹿しいわ、可笑しくて仕様がない! 笑えてくるでしょう!笑いなさいよ! いっそのこと馬鹿にしてちょうだいよ! "ベシャ、グシャッ、バキッ……" あらあら、通りかかったガキ共が、 私のことを踏みつけていったわ。 私の死に様なんて所詮そんなものなのねぇ…。
死んだ石榴の実 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 690.3
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-01-20
コメント日時 2024-01-22
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
教訓として、みんなに死後に教えたその人は、きちんと役割を果たしたんですね。
1石榴の実、と申しますと如何致しましても象徴的に読んでしまいます癖がございますものですから。 鮮やかに実在、肉感、擬人的独白を、或る生涯の吐露を、新しく「石榴の実」に吹き込みになられた手腕に感銘を受けました次第でございます。 新しい、御詩のただ中に拠ってのみ成立し得る、なまなましい確かな描写力へ、喝采を。
1女の人の一生って、 チヤホヤされる期間に比べて あっとー的に、 婆ちゃんになってからの時間が長い だから若い時は 少しくらい、 クソ生意気でも 性悪女でも良いのかも知れない 悪いことって、 人によって 解釈に違いがあるだろうけど、 何もない人生よりも 騒々しい人生の方が楽しい どうせ死ぬときは 良い人も悪い人も等しく、 "ベシャ、グシャッ、バキッ……" ――だろ?
1柘榴って血肉のように見えますね。
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