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鉄で出来たアパートの小さな部屋
目を覚ましたおれは椅子に座ったまま縛り付けられていた 目の前に立つ男は謎を解けと言った 謎ってなんですか? これだ。男はハンマーを振り上げて振り下ろす 肘掛けの上に固定されたおれの右手の甲は叩き潰された おまえの次はおまえの息子に同じことをする 気づくとおれは自分の部屋のベッドの上で身を起こしていた ひどい夢を見たと思った 額の汗をぬぐおうと持ち上げた右手はどす黒く膨れ上がっていた 心底嫌な気分になる 病院へ行き、治療を受ける 医師にハンマーの夢を話す 医師は身をかがめるとデスクの下からハンマーを取り出して、これでしょう? と言った おれは自由な左手で医師の胸倉を掴んだ 男の看護師がおれを背後から羽交い絞めにして医師から引き離す 医師は首にかけていた聴診器を外すとイヤピースを左右ともおれの耳に嵌める 音を拾う集音盤に向かってわっ!、と叫んだ。鼓膜が裂けるような痛みにおれは戦意を失う ふらつく足取りで病院から出てみると、街中を歩く中年の男たちは皆、どこかしら怪我をしているようだった ギプスで固めた右手を吊った男を見つけ、あなたにも息子がいるのか? と尋ねようと踏み出したとき、おれはトラックに轢き殺された 医師に痛めつけられた鼓膜ではクラクションが聞こえなかったらしい おれは死んだが、去りはしなかった おれの息子は成長して、娘の次に息子が生まれた おれの息子もハンマーの夢を見るときが来た 息子はあの椅子に縛り付けられていた 謎を解け 男がハンマーを振り上げて振り下ろす ハンマーは息子の右手を粉砕する代わりに、その上に重ねられたおれの右手を覆った厚いギプスを叩き割った おれは次元を縮約していた息子の身体から脱符号化され、息子の身体を縛ったロープをすり抜けて椅子から立ち上がる おれは生きていた時は無力だったが、いまはそうではない すべての痛みは過ぎた おれは死んだときに砕けたままだった右手で男の顔面にパンチを叩き込む 男はおれの脳天にハンマーを振り下ろす 頭骨の割れ目から押し出された脳漿がどろりと垂れる おれが脳で考えていたのは生きていた時だけだ いまから思えばおれは未熟な父親だった 頭頂に半ばめり込んだハンマーを左手で掴んで男から取り上げる 男をハンマーで滅多打ちにする 謎などない 時間は循環する、問いが答えだ 殴り疲れたおれはハンマーを放り出し、顔が原型をとどめていない男に吐き捨てる これだ。ばかやろう 右手が使えないおれは息子のロープをほどくことはできない 後は自分で目覚めるしかない 一度目は助けた。次は自分でがんばれ おれは死んだ父親としては甘い方に違いない
鉄で出来たアパートの小さな部屋 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1673.5
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-16
コメント日時 2023-10-28
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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エンタメ | 0 | 0 |
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総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
面白かったです。面白かったのですが、一度読むとそれと引き換えに疲れてしまうのが僕の弱点だと思いました。多分、一文に詰め込まれた情報が多すぎて、頭の処理が追いつかないのだと思います。一読した時、息子の身体に父親の意識が乗り移ったのだと思いましたが、よく読むと息子の身体から父親の身体が分裂(?)をしていたのだと思いました。これは小さな発見ですが、循環というのが、この詩の大きく言いたかったことなのかもしれないと思います(余計なお世話ですが、循環という表題でも良かったのではと思います)。終盤の狂気と、最後に父親が思ったことは、書かれ方こそ違いますが本当は同じ、そこには暖かさを感じました。
11.5Aさん、こんにちは。Aはアンペアだろうか。急速充電。チョコレートの文体はそういう印象。ゼッケンです。いや、1.5オングストロームの線もある(ホントはAの上にまるがつくけど)。タンパク質結晶構造解析。大学の物理学教室前の廊下には「走るな。結晶成長中」って張り紙が出てた。じわじわ成長する結晶の繊細さ。Polar bear ice、狼からはどっちかというとそういう繊細さや緻密さの横顔が窺われるなと思いました。もちろん、ただのAでもいいんだけど。 >終盤の狂気と、最後に父親が思ったことは、書かれ方こそ違いますが本当は同じ、そこには暖かさを感じました。 ただの狂った親父だと思われなくて良かったです。本人は一生懸命だけど空回りしちゃうんですよね。
1こんばんは、ゼッケンさん。 >Aはアンペアだろうか。 ご名答です。2A(アンペア)だと出来過ぎだと思って、半分になるイメージで0.5A減じました(1Aはちょっと弱すぎる気がして)。しかし、そこから僕の作品にまで流れるように言及して下さって、2度目の驚きは隠し通すことができませんでした。 >ただの狂った親父だと思われなくて良かったです。本人は一生懸命だけど空回りしちゃうんですよね。 しっかりとテーマを感じられるように物語が作られていますので、読めば読むほどよくできた作品だと驚かされ(感心させられ)ます。これで(驚きの)3度目の正直だと思いましたが、使い方が大きく間違っているかもしれません。それも愛だと思いました。
1めちゃくちゃ面白い。。。 こんなコメントですみませんが、テンプレテーティックな味がしなくて、新しい味がして、面白いです。あと前にリアリティだよと教えていただいた方がいて、いちばんは、痛みに戦意を失うというところにリアリティを感じました。ふつう物語ではたいてい、生きる意志が勝ったほうが勝利するから たとえば紅の豚では、ドッグファイトをして、機関砲がカーチスを機体ごとばらばらにしたりはしないし、ピストルは当たっても良いところに当たる。そして最後はまるで月曜の朝に立ち上がるかのように、パンチで勝負が決まる。全然にわかなんだけど、機関砲は、その後、ひょっとしたらスカイ・クロラまで使われてないかもしれない。。。 恐縮ですが、ライトコメントです。ありがとうございました
0>めちゃくちゃ面白い。。。 うそぉ、いすきさんに褒められてるじゃん、私。えー? にわかには信じないよ、ゼッケンです。いすきさん、こんにちは。えー? にわかには信じられないなー。「おいおいお前らウソだろまじぃ?!」を書かれたいすきさんですよね? ちょ、ファンです。「クッソー、俺は信じないもんね!」の破壊力、この一文をあの場所に置けるセンスに憧れを感じてます。というか、そういう部分だけの話じゃなくて、構成力? なんていうのこれ? 語彙が哀れな私を許して欲しいのですが、読んだとき、頭抱えましたもん、センスあるやつには勝てねぇ、って。勝てねぇっていうのもおこがましいのですが。センスって2回言ってるし。同じ言葉しか繰り返せないからもう言わないけど、昔からこういうのを書ける人を尊敬してて、軽さの強さを表現できるのってやっぱりもうセンス(3回目)なんだな、と思います。
0映画のsawっぽいですね。 不合理、不条理のうちに迫られる選択。 構成が複雑にならないようにしている節もありつつ、男とおれの関係がseesaw(立場逆転)する。 肉体から解放されて自由を得た「おれ」が右手で男の顔面にパンチを叩き込む 何を言ってるのかわかりません。 >一度目は助けた。次は自分でがんばれ 次もあるの?saw2? 時間は循環するというより業は継続する、的な? 何を言ってるのかわかりません。とても負けた気がする。
0エルクさん。まずお礼。「妖精の距離」を探して瀧口修三に出会えました。ありがとうございました。 次。んで、これ↓ >何を言ってるのかわかりません。とても負けた気がする。 ぬはははは、瀧口修三が読めてゼッケンが読めんとは、深読みの習性もはなはだしいわ! ただの説明不足を飛躍と勘違いしているふしがある度し難い素人であるゼッケンを何だと思ったのか。サリンジャー式”都会の歩き方”を瀧口修三の視線で描写する離れ業をやってのける文学変態が「負けた気がする」などと簡単に敗北を口にするとは、諦めたらそこで試合終了ですよ、出る前に負けること考える馬鹿がいるかよ、と安西先生と猪木の両方に怒られろ。なんのひねりもないパルプフィクションだから。比喩も寓意も無し。純度100%のご都合主義です。とにかくなんか殴っとこうとするのは、修理と称してテレビを叩いてた昭和世代の習性です。滅びろ。
0ある種ホラー小説的な方面での面白さがすごくありますね。序盤なんかはかなりゾッとします。文章も硬質で無駄なく派手すぎず、かといって説明不足にもなってなくて、すごく質実な印象を受ける作品でした。じっとりねっとり描いてるわけじゃないのに汗ばむ感じが生々しいというか……。短い中での展開の速さが面白くてぐいぐい引き込まれました。
0>ホラー小説的な方面での面白さ >じっとりねっとり描いてるわけじゃないのに汗ばむ感じが生々しい >短い中での展開の速さが面白くてぐいぐい引き込まれました。 褒められたくて書いてます。ゼッケンです。もっと言って。橙色さん、こんにちは。コメントの最初に「ホラー小説的な方面」と限定されてはいますが、いい所を次々に挙げてもらってうれしい。そして長所と短所は表裏一体。 ・ホラー小説的な方面での面白さ→詩ではない。 ・じっとりねっとり描いてるわけじゃないのに汗ばむ感じが生々しい→パンチラインもない。 ・短い中での展開の速さが面白くてぐいぐい引き込まれました→その後、何も残らない。 イエーイ! なんつて。ごめん、橙色さんの好意的なコメントに言いがかりをつけたいわけではないんです。気後れしている自分を糊塗するためにむしろはしゃいでいるイタイおじさんことゼッケンです。だってね、このコメント欄、1.5Aさん、いすきさん、エルクさん、と来て、橙色さんでしょ。ビーレビ黙示録の4騎士そろいぶみじゃん。みなさん、コメントはすごく謙遜されたやさしさに溢れていらっしゃいますが、この人たちの書いている作品を並べて読んでごらんなさい。全員が独自の才気と狂気の圧が尋常じゃない。それぞれがすでに象徴性を持っている書き手ばかりでしょ。こわいじゃん。と同時にありがたくもあった。この作品は果報者です。
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