遠い
記憶を掘り起こしに
土臭さの残る
古い土地へ
ぼろぼろのビニール傘を杖とし
真新しいアスファルトの吹きこぼれを
溶岩を固めるようにつつく
これだけの身体が
これだけの場所を進んでいるということ
その地割れが
私に不思議な動脈を張る
大きな陸橋を渡り
自転車がすばやく横切る
するどい無風
曇天がぎりぎり降下してくると
私の貧しい過去が
にわかに救済を急いて
あの停留所だ、
あの公民館だ、
わずかな姿勢できみの安息地にメスを入れろ、
この夕刻の途切れるまえに、
さあ、与えられた背丈がそのままであるうちに、
傍らの手帳に
ちいさな比喩が置かれている
すべてがおそろしく足りない
私の透明な軌道だ
川縁に添えられた声はやがて
しわくちゃにされて
たえまない行歩だけがぼんやりと残る
作品データ
コメント数 : 1
P V 数 : 908.1
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-13
コメント日時 2023-10-17
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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閲覧指数:908.1
2024/11/21 23時52分06秒現在
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「恵方」からリアルタイムで読ませて頂いているのですが、僕の中では本作も含めて、まさに詩のお手本となる作品だと思っています。恐らくもっと直接的な言葉や表現で書けると思いますし、その方が伝えるには早いとも思いますが、そういったところを詩の言葉で包み隠しながら読み手に提示されている気がします。たえまない行歩だけがぼんやりと残る、などは小説の終りの一文、真新しいアスファルトの吹きこぼれを、には詩の揺れ動く姿が見え隠れします。僕が言うのも大変おこがましいのですが、詩と上手に遊ぶことができる方だと思いました。
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