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ふたつの詩の距離が平等になるまで、タンゴのリズムでレゲエを踊れ
天使たちの戯れ どうしたものか、現実がむきだしにされた食卓で、 顔の見えない相手と朝食を摂っている 現実はどうもおもすぎる おれは虚構の度合いをもっと深めたい だってそれがおれ自身の生き方だからだ もっと深いところまでうそでありつづけたい ふと手にとった短篇小説を窓のむこうに落とした けっきょくおれにできるのは手放すか増やしつづけること きのう拾った猫はもういない この場が好かなかったみたいで 取り残された毛布はまだ温かいという事実 なにもかもためらいのなかでしか機能しない事実 人語を忘れてけものになりたい 過去を殺して生き直したい あるいはそういった願いすらも抹殺するなにかを おれは探してさ迷っているのか ああ、作業所の時間だ おれは詩を放擲する そして立ちあがる 見えない顔はじつはきみの姿で、 カソリック教会へと祈りにゆくんだ それをおれは止められない でも祈りが、天使たちの戯れでしかないという現実を おれは心のなかに書き留めて上着を着る じゃあ、おれはいくよ いつも通りの医者に通って、 それから1時間の作業だ 仔牛とともに眠る幻想のなかで おれはなにもかもを見抜いてしまう それは長い永訣のなかで砂糖菓子をわって、 片方を渡すようなさみしさだ おれが求めたきみがいない道の半ばで、 とても鋭いなにかががぼくの鼻をかすめたとき、 決まった動作を厭うあまり、おれは路上に伏せる そして集まって来たひとたちにむかって、 「おれに触るな!」と叫び、あたらしい眠りのなかで、 肩にかけられた手と手にむかって、 きみの幸運をただ祈ってみたかったんだよ。 なまえ (overwriting) あたらしい夢のなかで眼醒めることができたなら もうきみのことを懐いださなくともいられるかも知れない でも、ひとのない13番地に立つたびにきみを懐いだす いままで読んで来た悪党たちのなまえを算えるたび じぶんのなまえがわからないくなる どうしたものかきみとは まともに話すこともできなかった それまでの経験がまるでうそでしかなかったかのようにきみに牙を剥き、 そしてそれまであったほんのわずかな望みさえ手放してしまったんだから もはやもどり道のないところできみのなまえに疼きつづける、 きみのことばに疼きつづける、 きみがきみだけがほんとうの疵痕 あとはほんの失敗、ささやかな失態 なにも失ってなどいないふりをつづける憐れな男 3階の室まで連れ戻してくれる伝令をいまも待っている はじめっからまちがっていた人生の意味、そして解釈 憎しみだけがほんとうであとはあざけりだけだとおもっていたころ あれからもうひとまわりしていまだわたしはわたしを赦せない ふるい帽子に晩年と渾名して、貌を隠して過ごしたい なにもかも忘れて失踪者として死にたい ここまでやって来た虚無の所業、 表現も生活もまともじゃなかったんだ 行き倒れた道を、生き直したい そうおもうのもつかのま、 地下鉄が到着して、 そいつに乗り込むんだ 無名の一市民として、 そして列にならんで検品される 終わらない恐怖や、 過去への執着なんかと一緒くたにされ、 わたしはまたしてもきみのかげを追いかける わたしはきみを上書きしたい けれどもそれに似合った存在がいない いや知らないだけでどっかにいるはずだ でもそれに出会うのはとても怖ろしいことで、 とりあえずは長い悪友──アルコールを使って、 静かな眠りへと階を降りることにしよう、 きみにさよなら、 きみにありがとう。
ふたつの詩の距離が平等になるまで、タンゴのリズムでレゲエを踊れ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1292.7
お気に入り数: 1
投票数 : 4
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-10
コメント日時 2023-11-03
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
おお。静かな感動、味わいがこみあげてきます。 その先の一作目、ではこの作者特有のピュアネスの発露 加えて、ある種男からみてもとれる、チャーミングがあると思いました。 後半は、丁寧な、記述によって、それは手取り足取り、記述されているので 想像の余地、これは少ないのかな、と思いつつ 私のような、想像が苦手な読者にもそれはやさしくリードしてくれて親切。 後者の作品に於ては、追求していけば、それは「滋味深い」作品になると思いました。
1詩はむつかしい。短歌のように量産できない。あくまで降って来るのを待つことでしか表現できない。
1天使たちの戯れ、なまえ (overwriting)、まるでハンドルネームのようで、どこかの掲示板、返信相手の異なるレスが送信ボタンの時差で、偶然交わっているところを見た感覚でした。
1いまは来年にだす最後の詩集のために書いている。詩文学という現実と虚構の橋渡しをるづけながら、わたしはあらゆる虚無との戦いを強いられている。神というものを人類が再生産しつづけるかぎりに於いて、わたしはできうるかぎり真摯でありたいと願って来たし、これからもそうするだろう。しかし、詩文学の荒れ野にいつまでも拘っているわけにいかず、現実と集団への復帰をいま企てているところである。
0天使たちの戯れ 天使たちの戯れだけが祈りであるから、君の幸運を祈ることになる。虚構の上に生きること、 いや、虚構を生み出して現実を変えていくことが望みか。僕も作業所に通っています。 なまえ(overwriting) 失恋の悲しみというのは、なかなか癒えないもの。失恋のショックで自殺するというのも よくありそうな話。失くしたものにこだわっても、よほどのことがなければ戻ってこない。 むしろ、過去に決別をつける方が得策であるし、精神を守ることである。 新しい恋が始まるまで、生活をまともにすることに専念することで、同じくらいいい人が 見つかると思う。愚かさや勇気のなさを乗り越え、過去の不可能にこだわらない。 また繰り返すのではないかという恐れもあるが、それは、ショックから立ち直れていないから。 以上のように感想を持ちました。ちゃんと、さよならとありがとうを言っていて、偉いですね。
1けっこう行数があり、中田満帆さんの詩と言うこともあり、「ちゃんと読めるかな~」と思って読んだのですが、非常に楽しめて、うれしかったです。 >おれは虚構の度合いをもっと深めたい >だってそれがおれ自身の生き方だからだ というところ、「顔の見えない相手」といるのに、「おれ」のことを語っていることが引っかかりました。また、この詩では「おれ」という一人称が、おそらくは意識的に、非常に多く使われていると思います。そのまま読み進めると、この語り手は >ああ、作業所の時間だ と移動をはじめます。ここで私は、この語り手の作業所の場面に移るのだなという予測をしたのですが、それを裏切るように、 >見えない顔はじつはきみの姿で、 >カソリック教会へと祈りにゆくんだ と、「顔の見えない相手」の描写がはじまり、それが心地よく感じられました。ここで、「顔の見えない相手」が「見えない顔はじつはきみの姿で」と書き換えられている点と、「作業所」「カソリック教会」という場所の対比がある点から、「おれ」と「きみ」の対比が立ち上げってくると感じました。また、そこからも、「おれ」という一人称が多用されていることの意図が納得できてきました。 また、 >とりあえずは長い悪友──アルコールを使って、 という言い換えなど、いいな~と思う表現があって、 楽しく読めました。
0二つの詩が置かれ、タイトルの意味がちょっと分からなかったのですが、何か詩を捨てて「君の幸運」を求めているような。他人の幸福の中で詩が成立するような、そんな雰囲気を感じました。二本目の詩は「なまえ」。「眠り」へと降りて行く最後が印象的で、まともじゃなかった生活や表現を総括する眠りなのかもしれません。あたらしい夢はあたらしい詩の構築なのかもしれません。
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