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feelin' bad blues
田園のなかでブリッジミュートを鳴らしつづけていた男がふいにうごきをとめ、 河べに立ち、永遠ともおもえる時のなかで鳥を眺めている かれが悲しみの澱みたいにおれには見える それはこの十年ものあいだ眠っていたおれのなかの慈愛みたいなものなのか ともかくおれは早めに切りあげて河をあがった 石を探すにはこの河べはよろしくない だれか水切りをする音、 そして最後の暗殺 どれをとってもなにを見ても変わらないおれのなかの澱 その澱を沈めてくれるひとをおれは求めつづける この静寂、そして感傷 惨めったらしいこのおれを救抜するひとを おれはいまも求めている 杭がいっぽん河床へかげを落とすなか、 疾走する光りと、 失踪した人間とが語り合う ほんとうに大切な時間 やがてなにも見えなくなるまでにどれだけのおもいをたずさえていけるか そっと帽子を脱いだ老人がおれの道標にでもなったかのようで、 おれはなんとなく微苦笑して、そのままかれのあとを追う なんとあたらしい燻蒸、なんとあざやかな苦み それでもいつしかかれとははぐれ、 なにもない三叉路にたどり着く 木は枯れ、水もなく、 たったひとつの空にさえ鳥もない どうしたものか、 おれはつまづいて、 そのまま身うごきがとれず、 なにかを掴もうと手を伸ばす、 そのときだった、おれはおれの手を握って、 やがておれとともに澱のさらに奥へ、 心の内奥へ、北のなかの北へ、 足もともふたしかなまま歩きだして、 黒い犬と混ざりあい、 四つ足で国道を駈け抜けて、 森のなかへと入っていったんだよ、 さらにちがう澱までね。
feelin' bad blues ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 813.6
お気に入り数: 1
投票数 : 4
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-05
コメント日時 2023-10-09
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは。 求めているものが見つからない、そもそも何を求めているのかはっきりとはわからない。 壁に突き当たって先に進めず立ち往生している、でもその壁が一体何なのかはっきりとは見えない。 この詩を読んでそんな印象を受けました。 そして、 河床へかげを落とす杭。 そっと帽子を脱いだ老人。 枯れた木。 それらは立ち尽くしている作者自身の姿を表しているようにも思えます。 自分の手を自分で握って、澱のさらに奥深く、また別の澱にまで己自身を連れてゆく。 何か本物だと思えるものを求めて、心の中を深く内向してゆくさまを表しているように感じました。それは 「疾走する光りと、 失踪した人間とが語り合う ほんとうに大切な時間」 というところが、このような詩を書く時を表しているように思えるからかもしれません。
1非常にブルースですね。感傷と苦み。言葉の文字になっているのが非常に美しく、 消えて行くでもなく残る感じがします(何となくの印象ですが)。 心の真実を詩に残して、何とはない思いが、たくさんの音になって、語り掛けてきます。 それで、感じるのは印象。絵画のような印象。詩を読むことの体験として、甘い味わいもあります。 救抜とか、辞書に載っていないような単語も生かされていて、感心します。 北へ行くこと、生きている時の記録。一つの意志が、きちんと持たれていることに感心します。 僕も、時には立ち止まってこんな思いをすることで、世界とのつながりの回路を増やせるんじゃないかと思いました。読んで、生きるための勇気のようなものを持てるように思いました。 きちんと生きている情景がここにあるので。
1正直、いま詩を書いていてただわたしが描きたいのは情景そのものなんです。場面設定と人物と傍白さえあればどうにでもなるはずとおもいながら書いてます。ただ主張や思想といったもの、あるいは共感といったものには否定的で、情景の塊りが届けばいいとおもっています。
0上のコメント、m.tasakiさんのまちがいでした。すみません。
0ありがとうございます。詩でロードムービーがやれたらなとおもって書いてます。Feelin' Bad Bluesはもともと『38w』という詩につけられた仮題でしたが、今回の詩に合うおもいつけました。RY COODERのギターは好きで聴きます。じぶんはスライドギターをやらないのですが、いつか挑戦したいです。この作品は来年にリリースする最後の詩集『夜の雷光』に収録します。
2ありがとうございます。詩の字面を行分けに拘らずに絵画化したいわけです。そうおもって書いています。極少人のための手紙(田村隆一)になっているのなら幸いです。
1いつもハードボイルドな印象のあなたですが、救いを誰かに夢想するくだりにへー、と思いました。でも自分を選ぶ。それが黒い犬。いくのはどこなのかな、地獄だとどうだろう。天国は居心地が悪いかな、それとも世界の反射で存在は皆在るのかな、そんな風に感じました。変な感想ですみません。ひらがなに漢字を開くのは妥当なのか、成功する場合もあるけど計算ずくにみえて姑息に見える時もあるから、やるのは私は微妙だなぁ、と思っています。ひらがなでしゃべりたいときってありますけども。こどもっぽっくなりたいときや、正直でありたいとき、など、など。どうでしょう。
1Bluesには個人的に警戒しています。 要はデルタ・ブルースの聞き過ぎで、こころがスカスカになってしまいました。 まずさを感じるブルースということですが、男にも、老人にもそして混ざりあうから この黒い犬にも、自分自身を見いだしたとしたら、これは演劇的且つ シュルレアリスムにも通じていそうな作品だな、と思いました。 ともかく、この作品はいつかそれは具合の悪かった私を、確かに見出せる!
1わたしはハードボイルドではないです。心の弱い人間です。地獄志願をしております。ひらがなはより口語的になるとおもって遣っています。
0まだまだブルースには半可通なわたしなので、デルタとシカゴのちがいも覚束ないありさまです。そうですが、心がスカスカですか。混ざり合うというは一種の比喩で、じぶんの文体を発見する切っ掛けが他者との混合だったりするということです。わたしもいま酒が切れて気分がよろしくない。
1北の北へと言うとこの詩のニュアンスから敗北の北なのかもしれないと思いました。「かれ」とは何か。道標の老人か。なにもない三叉路とは何か。謎解き的な観点や、どんな解釈を望んでいるのだろうかと言う側面から読むと二読三読したくなる詩だと思いました。
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