森の女がまぼろし、潮騒を聞くのは秘密だ - B-REVIEW
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森の女がまぼろし、潮騒を聞くのは秘密だ    

峠の一軒家の窓をカラリ、とあけると 霧が吹き抜けては漂う広々とした庭があります 左手に白い木枠で支えられた藤棚から 薄紫の花が吹きこぼれるがごとく、滴って咲いています その曲がりくねった藤の木の幹はどこかの地に繋がっていて それを登って子供が辿り着くことがあります その子供を噴水、と秘かに呼び、 迎え入れるために私は時折、朝の紅茶を飲みながら眺めます 女主人の私は右手の鈴なりの永遠のリンゴの木から 純金のピカピカと輝くリンゴを一つもぎ それをネグリジェの裾で磨きながら 子供にひとつ分け与える喜びを思いつつ、 ごそごそとティースプーンを掻き回しぶつぶつと数を数えます それは思い出を値踏みするためです あの木は私の心臓の血を吸って生きている木なのです おなかのなかで戦争がある、と聞いたことはありませんか この物語をあなたの心に届けるにはもう少し情熱が必要です 遥か昔にあの人と夕日を眺めた時間がその情熱の源なのです 倉庫の米俵のように飢えを餓えを贖える羽を持つものは天使になれるそうです ああ、嵐が来そうだ 向こうの森の川が氾濫しないか、 女主人は目を細めてぼんやりと考えています



森の女がまぼろし、潮騒を聞くのは秘密だ ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 8
P V 数 : 836.3
お気に入り数: 0
投票数   : 3
ポイント数 : 0

作成日時 2023-10-04
コメント日時 2023-11-15
#現代詩 #縦書き
項目全期間(2025/04/12現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
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閲覧指数:836.3
2025/04/12 04時22分11秒現在
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    作品に書かれた推薦文

森の女がまぼろし、潮騒を聞くのは秘密だ コメントセクション

コメント数(8)
m.tasaki
作品へ
(2023-10-05)

こんにちは。 寂しげでありながら、何となく怖い感じのする詩ですね。 峠の一軒家、霧が吹き抜ける庭、噴水と秘かに呼ばれる子供、心臓の血を吸う藤の木、おなかのなかの戦争。 それらは孤独さのメタファーのように見えますが、それ以外の何かを表しているようにも思えます。 中ほどの 「ごそごそとティースプーンを掻き回しぶつぶつと数を数えます  それは思い出を値踏みするためです」 というところが、内向する心情をうまく表していますね。その後に示されたメタファーにスムーズに繋がってゆくように感じられます。 でも、その値踏みがまだ済んでいないのでしょうか。 「この物語をあなたの心に届けるにはもう少し情熱が必要です」 と書かれていて、その前の2行が何か長い物語の予告編みたいな形になっているようにも思えます。 大切な人と過ごした時間が情熱の源。そんな心の糧を与えてくれるような者こそ天使となれる。 そのことがこの詩の核となっている、そんな気がしました。ただ、その後の嵐の予感が何だか気になります。

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田中恭平 new
田中恭平 new
作品へ
(2023-10-06)

ふむふむ、とその細かく書き込まれた描写を丹念追っていったのですね。 ここら辺手抜かりがない、としまして、その、詩という詩によった 記述でもないのですけれど、心がこもっています。 だからどうするのだろうか、と思っていたひょうしに、  おなかのなかで戦争がある、と聞いたことはありませんか と、ふっと挿入されるのですよね。 そのこの物語は語り得ない、旨、語ることで反対 えっ、おなかのなかの戦争って何?って思わされる素晴らしい構造になっています。 安易に解釈すると、やはり子供を産む、女性性の在り方。 やっぱり子供を産むって女性への負担が半端が無いそうなので、そうなのかなと。 ただそれをここで僕が語って、なにとやら。がくっ。一票。

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湖湖
湖湖
m.tasaki さんへ
(2023-10-06)

色々と読み込んでくださって、絵本のように書き始めて物語を熾す、そのとばぐちを書いてみました。人に物語るって愛情や信念が無いと出来ない気がします。でもそこに至るには情熱が必要で、その情熱はどこから来たか、そんなことを思いました。いつも味わっていただいて幸いです。作品を説明するのは野暮かなぁ、と思うんですよ。

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湖湖
湖湖
田中恭平 newさんへ
(2023-10-06)

いつもコメントをありがとうございます。TASAKIさんにも書いたのですけど、自作を説明ってあまりしたくないんですよね。読み手の想像力の幅をせばめるだろうし、でも、おなかのなかの戦争は葛藤でもあるし、闘いに象徴される色々な物、善と悪や、ね、当事者意識とか、そんなたとえとして、喩えは多くを孕むからいいのかな、と思っています。

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黒髪
作品へ
(2023-10-06)

女主人の周りの風景と心の中を描いていると思いました。 誇り高く、毅然とした女主人は、ドイツの詩人、アネッテ・フォン・ドロステ=ヒュルスホフ の詩と共通した精神があると思います。『塔にて』を貼っておきますね。 https://note.com/yojiroo/n/ne60be071c283

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湖湖
湖湖
黒髪さんへ
(2023-10-07)

黒髪さん、知らない詩人でした。教えて下さってありがとう。ずいぶん古い作品の中の女の不自由と自由を願う心の在り方に切なくなりました。身につまされます。ただ、あなたのような方がこの詩を教えてくれる現代に感謝します。

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エイクピア
作品へ
(2023-11-10)

「あの木は私の心臓の血を吸って生きている木なのです」 こんな詩行にはどきっとするのですが、おなかのなかで戦争があると言うフレーズからは内臓の事であろうかと思いました。臓器ではなくて、おなか全般のことかもしれないのですが、ああ、嵐が来そうだと。何か来る予感が詩なのかもしれません。

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湖湖
湖湖
エイクピアさんへ
(2023-11-15)

何か来る予感が詩、それも良いですね。詩が善として機能すると感じています。有り難うございます。

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投稿作品数: 2