冬、川、光の漂流
風は失われてゆく時代の時にすすり泣いている
白い嵐のもとで
ぼくは氷の湖に横たわると
噴水の氷流に草鞋の紐をかけた
冷たい風があなたの蒼い姿を浮かび上がらせる
水精の凍った透明な姿に触れると
あなたの白い裸身の沐浴を思い出した
薄霧にけぶる谷間は木立と空を運んで
薄い氷の下でハヤの背びれの
銀色の微かなきらめきと揺れる透明な光が
予兆となって現れてくる
胸を揺らす神秘の息がぼくの頬に触れ
透明な時間が楡の枝葉の中で囁いていた
かろやかなあなたの緑色の服が
空虚な静寂に輝かしい時を
過ぎ去るには惜しい熱い吐息をもたらし
休息した太陽、空中に静止した鳥
白い雲の金色の靄の下をあなたは駆け
蒼い心は喘ぎその時を待ちわびていた
ふたりの濡れた息は
緑色の微風となってさざめいている
岸辺に鳴る樹々の先に打ち寄せる水際で
雨の降る時は過ぎてゆき
光と風の陰るなかで蒼い肢体の欲望が
白い胸の鼓動とともに聴こえていた
熱い夏、緑と白砂の浜辺でのあなたとの愛のささやき
あなたの見つめる眼があこがれと歓喜の夜が
闇の中の白い慄きを生み出していた
あなたはぼくを抱きしめ、僕の肩にはその歯跡が残っている
水の透明さの中に燃える瞳のなかで
強い欲望の痛みを感じていた
秋、あなたの空色の眼が染まりそうな紺碧を映し出し
そこに何を見ようとしたのだろうか
冬、白い風が吹き、あなたの心を凍らせた
輝く肢体、それは欺いた美、快感の嵐
消えてゆく形象でしかなかったのだろうか
おそらくは愛情のベールが剥がされる時は眠っていたのだ
春の足音のなかで薔薇色の風が吹くと煙る光の宮殿にある
金色の間がきみを攫ってゆき回廊への扉は閉じられた
わたしは優しさを持たないの、でもあなたをわたしの小姓にしてあげる
最後に、あなたの肩につかまらせてもらうわ
だから許して
緑の風は眠り白い風が心を冷やし科の木は樹氷となった
あなたを濡らしていた光の驟雨は降ることはなく
緑と碧の時は去り、もはや帰ることはないだろう
けれども、あなたを愛することはできる
冬の光に目覚めたぼくは、凍りついた湖に降りた
そして、美しい記憶の氷像を刻み続ける
かつて透明な水のなかで泳いでいた
白いうなじをぼくは愛する
あなたは光を浴びて一つの色、形となり、冷たさに輝くから
ぼくは氷像に触れると艶やかな唇と
優美な胸を水を湛えた瞳を思い出すから
今、樹氷は湿った雪に打たれ
氷像は光を浴びて時とともに嫋やかに姿を変える
紺碧は消え、時間は瞬間を無くす
ぼくはシヴァの像を見つめ零下三十度の白い突風に叫ぶ
岸辺にとまれ、愛する人よ
真の美しい疲労の中でぼくは冷たい氷像を愛撫し続ける
いつの日か氷上をあなたと歩くために
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 641.2
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-03
コメント日時 2023-10-06
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
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技巧 | 0 | 0 |
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2024/11/22 00時05分45秒現在
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こんにちは。 まず、冬の回想から入っていますけれど、すぐに「白い」裸体のイメージ飛躍によって それはきっと夏を思い起こしています。 その初連、「白い嵐」と書かれていますけれども、日本に於て、嵐が来るのは 秋が多いので、まあ例外もありますけれど、ここで異国なのではないか?と 思わされる。反対、イメージとして異国を想起できないと この初連で読者はつまづいてしまうのではないのかな、と。 その読んで、私の読解が正しければ内容はなかなか過激なのですけれども なかなかそこまで判然としていないのは、要は具体的ではないのは 意図的な記述でしょう。 いきなり、白い裸体の沐浴、なのですけれど、エロティックなのですけれど そのあとも、バンバン「白い」の語が挿入されてゆきます。 冬(夏の回想)→夏→秋→冬、そして春 ですね。構成の妙があります。 その、夏の回想シーンで、なにやらそれは法悦のようなものを期待しています。 話者は。そうして蒼い肢体、なのですけれど。 日本の詩では青いとなると萩原朔太郎とかかな?その、病的なイメージがある一方 その、Twitterで色々な画などをみるのですけれど、のちにシヴァが登場するのですけれど その神様というのは、体が青く描かれているわけです。 夏→秋→冬 と巡る過程で、あなた、はその病気でしょう、段々 弱っていってしまってゆくわけですね。 冬で あなたの心を凍らせた というのは決定的な一語でしょう。 そうして、春、ですね。ここからの展開が興味深い。 あなたをわたしの小姓にしてあげる これは深読みすれば、遺言になると思うのですけれど わたしは神様になって、あなたは私のために尽くす存在になる ってことだと読んだのです。 寧ろ、あなた、が神になることでそれに使えるものとして私がそれを存在の根拠にする。 まあ、しかしこう分析して読んでも 岸辺にとまれ、愛するひとよ、の絶唱を何と言おうといった印象で 結構な衝撃をもって読みました。 一応、読解を試みましたが、全然違っていたのならば、それはお目汚しです。すみません。 一票。
0こんにちは。 私の作品は異国的なところがありますが、日本的なものを排除するということではなく、概ね、私の個性(感性)からくるものだと思い返しています。 そこのところが共感(表現において)しないと、合う、合わないという問題が出てきますね。 私の詩は、反発も大きいところがありますが、そこの理屈以前のところがあるのだと思います。 冬は心を凍らせるわけですが、春はそれを溶かすことを期待してしまいます。 ただ、そこが決定的な別れであることが、この詩のポイントで、そして冬に戻り回想をするというのが、この作品の構想でした。 「あなたをわたしの小姓にしてあげる」は、もう恋人としては見ていないという意味で、冷たく突き放すよりも衝撃は大きいと思います。 冬の湖で、別れた恋人の氷像を創るという発想はなかなか浮かばないもので、想像力の発露として、一定の成功を収めたのではないかと考えています。
1うん。 そうですね。 その、個性、感性にバシッと嵌まると、するする入っていける世界が 展開された、読者の私はそう思いました。 ですので、この、watertime様のキーみたいなものがわかれば 何か、以前の作品も、再読して楽しめそうだと、いろいろ当たって読んでいるのですけれど。 私自身も深読み、いいえ、それは作者として隠しておきたいことも あるでしょうけれど この作は、その読みに関して盆暗である、私にも開け、かつ、かなり深かった という意味で、成功していると思われます。個人的な意見ですみませんが。 そう、そこ言及していなかったですね。氷像。ここまで来ると何か それはロングスケールの映画になりそうですね。 昔ですね「ハナミズキ」という一青窈の楽曲、たったあれだけの歌詞をですね 引き延ばして、一作、映画をつくってるんですね。日本って国は。 ですからこの詩をですね、どこかの映画会社がポンと買ってくれればいいわけです。 すいません、話し大きくて。しかし夢は大きくですから。 別れた恋人の氷像をつくる、画としては難しくても そのストーリーラインとして、映画化はこれは可能なのではないでしょうか。
1こんばんは。 作品を創る上での秘密は、私に限らず多くの人にあるのだろうと思います。 ただ、それは長い時間の積み重ねによるものであり、無意識の中に組み込まれていますから、作者自身も説明はなかなか難しいかもしれませんね。 私としては、読書と書いてみることにより、自然と備わってくるところのような気がします。 もちろん、その人独特の素質もあるかとは思いますが、なによりもいろいろの本を多読したことが、私にとっての秘密だと思います。 田中恭平 new様の仰る、私の拙作から映画化とは壮大な話しで、大変恐縮です。 でも、それが実現したら大変なことで、相当嬉しく感じるのは間違いありません。 この詩をストーリーラインとするのは考えていませんでしたが、まずは、私的に小説の素材として考えてみようかなと思います。 創作のヒントをお与えくださり、有難うございました。
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