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フィラデルフィアの夜に 41
フィラデルフィアの夜に針金が戻ります。 しん、という音さえも消えた夜の一室。 針金が転がっていました。 机の上、まだ新品の一切の癖がついていない針金です。 それをゆっくり、両腕が拾い上げます。 両腕が動く。 手早く素早く動き、ひとつの作品を作り上げる。 それは花。 どこかで、道端で咲いている花。 机の上に咲く。 すると、花は誰かの手により解体されていきます。 精巧な花は瞬く間に一本の針金に戻りました。 それをゆっくり、両腕が拾い上げます。 両腕が動く。 手早く素早く動き、ひとつの作品を作り上げる。 それは虫。 この部屋にいてもおかしくない、実物大の大きな虫。 机の上に佇む。 すると、虫は誰かの手により解体されていきます。 精巧な花は瞬く間に一本の針金に戻りました。 それをゆっくり、両腕が拾い上げます。 両腕が動く。 手早く素早く動き、ひとつの作品を作り上げる。 それは人。 いないはずの存在。 作られた瞬間、毟り取る様に宙に浮き、解体される。 瞬く間に針金に戻され、その勢いのあまりに、針金が折れた。 手が、その自身から針金を伸ばす。 机の上、まだ新品の一切の癖がついていない針金です。 それがまた再び転がり、バラバラに千切れた針金は、音もなく机の下に落ちていく。 針金が人の両手の形を作り、それらが一人でに浮かび、机の上に転がってる針金を様々な形に作り上げていきます。 そうしてまた目の前、誰かがいるかの如く一本の針金に戻されていくのです。 そんな事、あってはならないと言いたげな、誰かの意思と手が遺されている様に。 音のない夜、針金と何かの二つの思いが存在する部屋。 毎夜毎夜、繰り返される創作と破壊。 部屋にはその二つの行為の残滓となる針金が積もっていきます。 この二つの行為に意味はあるのかないのか、問う声はありません。 針金の手が、人間の両手を作り上げました。 自身と寸分たがわないそれを。 それはまた解かれ解体され、一本の針金へと戻されていく。 夜、創造と破壊が繰り広げられていく。 誰も知らない、二つの意思だけが相対する時間。 わずかに光が入り込み、太陽が朝を告げると、針金が一本転がっているだけでした。 何も言わない、針金たちが部屋にいるだけでした。
フィラデルフィアの夜に 41 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 688.7
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2023-05-16
コメント日時 2023-05-17
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
フィラデルフィアの夜にシリーズをしっかり読むのは、実はこれが初めてです。怠惰さと、病気関係で、長い詩があまり読めなかったからだ、と言い訳させていただきます。 非常に良かったです。針金が花と虫、手を作り上げては壊していくという発想も、また(夏の?)夜の雰囲気も、想起させる技術も、文章の面白さもあります。一箇所、第二連の最後のところ、「精巧な花」は「精巧な虫」の間違いかもしれないなと思いました。僕は、父の仕事の関係で、ペンシルベニアのエリザベスタウンのアーミッシュの学校にしばらく(一週間ほど)いたことがあるのですが、そこでホームステイさせていただいていたアメリカ人の方が、夜な夜な地下室でろうそくを作っていたのですが、その雰囲気がまさに思い出されました。懐かしかったです。もうその方も亡くなってしまいましたが、本当に楽しかったのです。いいことが有ったなあという思い出とともに、フィラデルフィアシリーズの初感想とさせていただきます。
0昔なんとなく頭にあったものをフィラデルフィアシリーズに落としこみました。 針金で何かを作る人とそれを壊して元の針金にしてしまう人のパフォーマンスみたいな。 それを不気味さ不思議さなんかを足して形を整えたのがこの作品になります。 ループにするつもりはなかったのですが、この状況はそういえば延々と続いてもおかしくはないループになりえますね。 そう思うと悶々としてしまう。 それにしてもここまで分析してくれるとは思いませんでした。 もはやちょっとした小論文です。 ありがとうございます。
0>一箇所、第二連の最後のところ、「精巧な花」は「精巧な虫」の間違いかもしれないなと思いました。 あ! 確かに間違えてます! やってしまいました。 すいません。 >いいことが有ったなあという思い出とともに、フィラデルフィアシリーズの初感想とさせていただきます。 よい思い出を想起させる事ができたのは幸いです。
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