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2063
香炉から漏れだす白いけむり。僕は新聞の重ねを結んだものを運ぶ。僕は隣の家から竹を貰った。蟹が泡を吐き出す。白桐の箪笥が歩いていってしまった。ちょっと追っていって、あじさいに手をかけ、あじさいに捕まった。 ガランとした部屋、香炉のけむりが黒く濁りはじめた。比してセンテンスの余白さえ、人間を騙していると思われた。言葉も罪を犯している。僕はその事実に白い顔となった。病人に完成された健康思想、俳人は奇人であるという常識、唐突「手をつながないでくれない?」、あの山の左側は川ではなかったか、僕はまだ眠い、まだ香りの中にいるからだ。誰か、地震から卵パックを守ってくれたことを察する。部屋にまとめた荷物にはゲンメツが詰まっている。雨がやむのを待つ。 日本擁護したし安い歯医者も安い歯医者の飼育係も。名古屋に来たロシア人は、雨のなか芋を洗っていた。台風はしっかり五つ瓦を落としていった。 鼠は一匹しかいないしもう見えなくなった。やっと僕しかいない。周囲に言葉が少ない。発つ。土から離れやさしい言葉をとりにゆく。僕は飛行士として信頼に足らないだろうが、ルイ=フェルディナン・セリーヌを背中に乗せている。黒い夜の中に、チュニジアの星が瞬いている。ランチは裸で、僕ときみは、トリコロールの旗を取りっこする。 2062年の正月に、神に祈ったよ、いい詩が書きたいってさ。ひどく訊かれる、猫が好きなのかい?空港にペンギンが着いて歩いてゆく、ペンギンについてゆくゴルフバックたち。猫が好きなんだよ。うん、うん。会った男は僕の国の文字が読めない。僕は彼のテストに受かった。銃は持っていないだろうね、というテストだった。ジャンボジェット機をじっと見つめる。 きみはあの日、ギターが盗まれたことを心配してくれたね。荒らされた仏壇、その花は直した。僕は立川談志のテープを聴いている。がらんとした客室。ディズニーランドで怒り出した思い出に捕らわれて生きて、結果友人を失った。そろそろ山の手の前衛画家の絵の具もつきて、丸められるころだろう。居酒屋「かや」に行ってもいいよ、あのディランがとても小さな音で流れているね。果物屋は「うちは金物屋ではありません」と言った。蒲田駅前の特設会場では、そのAの音の基準値を412から409に落としたアレンジのベンチャーズが演奏されている。僕は中心樹のかげの猫。尻つけてその場を粘るバックパッカー、夏、夏、夏、尻をついている女の子「中原中也の詩集ね、ブックオフで売ってしまったの」、涼しさや金魚に蕗の青ひとつ。明解さのない本日、ヴァージンな天皇陛下なら万歳、ころがる石のように苔のむすまで、は矛盾をはらんでいるが、メモする。ふと鼻先を濡らす雨、川は今日も東京だった。メモする。蓮池の中に落とそうボリスヴィアン、白いショックたち、風、風、風、なぜか持っている東照宮の朱印、蓮の花ひらけひらきひらく、悲惨家族の肺さえも運命に対して開かれている。僕はまた、ケンタッキーフライドチキンの二階で、コツコツ言葉をルーズリーフに書き落としている。この店は安心できるようだった。ぱさり、まだ印字されていない言葉たち、または切られた蛇足の山。浴衣の乙女たちが駆け抜ける、風車のように言うのだ、「京ものや、京は東だっ」 鶴は白い浜でそっと頸を伸ばし、ランボーの文庫本の頁をのぞいて、しっとり、この世は枯葉の中へ埋まったみたいだ。その地へ漏れる星のひかり。散乱するラインマーカー、懸命にひろう僕。そしてまた猫。その達観、また失った、なにを?僕のらっかん。夜という字はひかりに似てるって、猫の哀しみに、会ったことがない産婆に、その店の飴のような灯りと、底に落ちる雑誌たちに、こぼれた牛乳の香のなかに、僕のエネルギーに、市を叩くキリストに、想像力により勝手に呼ばれている先祖たちに。ふと「ふざけるな。耳をつかんでいるんじゃねえぞ」、吊り下げられたアップライトピアノ、「注文なんてしなけりゃよかった」、爆音。EとAしか使わないロックミュージック、汗、汗、汗、ドライアイスの演出、ライオンか熊かわからないやつがギターで弾くペンタトニックスケール、おれの身体には水と電気がっ。ジャンプ。演奏が終わって、スピーカーから流れてくるゴッドファーザーのテーマ。「アイヌ語でポアル、は元気だよっていうんだ」「暗い詩を書いている奴と人生でいい言葉を成した奴。どっちも嫌いさ、ひとごとみたいで」その脚のピンクパンツが好きだよ、なぜってピンクパンツを履いているきみが好きだから。慌てたい連中ばっかりだ。結局、空クジばかりで困ることがない。だって当りがないことは面白いから。「きみのことを想っているのはアイディアしか持ってないからなんだ」、すーっと伸ばしてみたチューイングガム、7曲しか持ち歌がないロックバンド、ノッてくれたたったひとりの青年、腕をぐるぐるまわす運動、「これはリストカットに我慢する曲です、違った、リストカットに反対する曲です」、ため息しかない街で居酒屋チェーンが浮いている。ジーンズに、稲垣足稲をさしこんで、エレクトリックギターを鳴らすまで緊張しかない。先に演奏しているギタリストの腕はやせてゆく。そんじゃそこらの馬鹿じゃないね、支給人がそっとケーキを運んできた。 月の言葉を翻訳できる少女、きみの膝を叩けるよ、ベイビープリーズドントゴー、彼女は行かないでくれた、観てってよ。おもしろいよ。「わたしのエアロスミス様よりいい感じ?」うん、メロンの方が大分高い、バナナいっぱいで、メロンと釣り合う。レザーシャープを穿いてもみたき沈丁花。折られた花、烏瓜り、烏瓜りから、声出し訓練、声だし訓練、就職したら病院へ、病院いったら、揉めている方、揉めあうふたりじゃ奢る方、川瀬へいったら腕をくむほう。いつもいいのは希望あるほう。詩人と歌人じゃやっぱり詩人。歌を詠むなら小鳥がうまい。夜、夜、夜、僕らは季節と解散した。
2063 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 791.2
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2023-04-01
コメント日時 2023-05-06
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
センテンスの積み重ねだけど 言葉一つ一つが良く磨かれている印象、鮮明と言うか。 めちゃくちゃ読ませると言う訳ではないが配置の妙と言うか 研鑽を重ねている文学の徒みたいな。 俳句の影響でしょうか? 俺的には良いと思いました。 海軍 少将
1吸収様 お読みくださりありがとうございます。 お褒めの言葉、ありがとうございます。 俳句は、自由律俳句を修辞を習得するために毎日書いております。 べつの環境、現代詩フォーラムでは これは詩ではない、という評があり なるほど、なるほど、最低でもこれは「テキスト」「散文」だと考え ビーレビューに投稿しました。 「文学」というとそう呼称されることを目標としていますが また何か書けましたらお読みください。宜しくお願いします。 ありがとう。
0全部最後まで読み切らせてしまう リズム感がフリージャズみたいで 気持ちが良かった 「暗い詩を書いている奴と人生でいい言葉を成した奴。どっちも嫌いさ、ひとごとみたいで」 いくつもあるけど 特にこのパンチラインは鳥肌たった なんか嫉妬してしまう作品でした 素晴らしいサンクス
1坂本様 お褒めの言葉ありがとうございます。 そうですね、私はアコースティック・ギターを弾きますが この作品の念頭にはピアノ。過分に音楽的なものへの意識がありました。 フリーになるにしても、定型のフォームがきっちりしていないと フリーになることは出来ないと思っており まあ結構、情報量があるのですが、まだ試行錯誤の余地がありますね。 ピアノ、硬質なイメージが強いので、次書くとしたらばふっくらとした ものを書きたいです。 こちらこそサンクスです。
0この作品評するに、まずテキストとして長過ぎる也。且つ、近未来小説風を装いながら 若者の青春、是、変わらないよね、と言ったメッセージを伝えたいが為に、語るに、語る、その様、 俳諧の肯定的意味ではなく、単に滑稽也。この作者はうるさい赤子であって、泣き止むのをとめて くれる何某か、是に、甘えている也。作者は猛省すべき、候。
0ジョージ・オーウェルの「1984」を模したタイトルでしょうか。 >近未来小説風を装いながら 確かに40年後の世界というよりは今のこの時代、もしくはその少し前の時代を描いたもののように思われます。 音楽でいうところのグルーヴ感といいますか、最初から最後までとことん言葉をずらしていますね。 読んでいてもどこへも行き着くところのない話が次から次へと煙のように立ち現れては消えていく。 香炉の煙はそれに寄せたものでしょうか。 時々韻を踏んだり、同じ言葉を繰り返したりすることで読者を飽きさせない演出もある。 何だかよく分からないけれど、何かの本で見かけたフレーズのようでもある。 そういう意味では田中宏輔さんの「詩の日めくり」の全て自分の頭の中の本版の、その引用のようにも思われ何とも不思議な詩作品だと思います。
1コメント、丁寧にお読みくださりたいへん感謝しております。 その、自分の作品について何か語ること、これはセルフ・ツッコミとしてコメント したのこともあり、まあ最近よく聞く、その後は読者に託す、解釈も託す、として >近未来小説を装いながら 過分に、このテキスト 19世紀、20世紀の文学の、勿論それがすべてではないとしつつ 私の周辺にあるものは、これ、盛り込みました。 過分に、それはポップミュージック的な、ロックミュージック的な 編集手法でもって、のぞんだけれども、それは「詩ではない」という一点の評をもって 私は、私の表現は「負けた」、と考えております。 詳しくこれは、紅茶猫様だけに限らず、のち、このログを認めた方に向けても 書いておくべきことですが その人間性の豊かさを、自然の豊かさを、心の豊かさを詠う文学の系譜と 実際、それに漏れてしまう人間の業の深さをも詠う文学の系譜がある、として 今、私は時代の要請に従って、後者を極力、排する方向へ向かっていると考えています。 それは陰謀論とか何か画策があってではなくて 例えば、煙草の喫煙マナーについてこれはたいへん厳しくなっているのと 同じ様に、人類全体のエゴー、煩悩の方向性として 「こっちの方がいいよね」と、無意識、向かっているのであって その先にどんなことが待っているか、お知りになりたいのであれば それはジョージ・オーウェル、ハックスリーを一読なさってみてはと思うのです。いや ですが、時代の先読みしてしまうと、それはスリル、が無くなりますけれども。 「文学というのはそもそもこれ、毒であり、書き手であるのならば その毒が自身に回っていることに自覚的であってもいいのではないのでしょうか」 これは吉本隆明氏の言に寄りますが 例えばこれはアニメになりますと、宮崎駿さんなどは自覚的であり その要はアニメというものは害のあるものであります、それでも作ります と「風立ちぬ」で主人公にバンバン、煙草を吸わせるわけです。 そういう表現をされること自体、やはりアニメは「負けつつ進む」気概があります。 すんまへん、やはり過分にディストピア文学に染まった自分がおりまして 且つ、自分が主観的であることを考えましても、何か恥ずかしいのですが やはり私は気概がなく、詩を失った、のです。 いや、その分、俳句という文学の型は強いと思いますよ~(^_-)-☆ キー:散文詩 シュルレアリスム ビート派 言葉遊び 俳諧 押韻 デベイズマン セリーヌ 編集技法 ロックミュージック ナンセンス ネットへの即時性アップ
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