春の山を街から眺めれば枯れ木のなかに斑に桜が見える。ソメイヨシノ達が狂ったように咲き乱れ始めるといつも不気味なものだと思う。春を祝ってくれる他の桜を蹂躙してクローン達は街の人間に春の訪れを告げる。
初夏の山を街から眺めれば新緑が見える。これまでの、そしてこれからの人生で不幸なことなんて有りはしない心地にさせてくれる。新たな命を育んでいる彼らに気が付かず五月病というパンデミックが街を賑わわせる。
盛夏の山を街から眺めれば暴力的な深緑が見える。春の芽吹きから数えて、ものの数ヶ月で若葉は成熟して淀みを携え風に揺られている。あんまり長い時間眺めていると黒く見えてくる。街の人間はただ俯いて汗をかく。
初冬の山を街から眺めれば紅葉のなかに斑に枯れ木が見える。からっ風に吹かれ、地に着いた時点で、枯れ葉は落ち葉と呼ばれる。紅葉狩りを済ませた人間達に目を背けられ、勝手に命の終わりを暗示させられ、一本、また一本と裸にされていく落葉樹たち。
真冬の山を街から眺めれば斑に常緑樹が見える。陽に照らされ薄紫を含んだ灰色が次の若葉を生む力を蓄えているなか、場違いに色づく彼らを見て子供らは言う。どうして冬なのに葉っぱがついているのと。そのわけを街の人間は知らない。
早春の山を街から眺めれば枯れ木のなかに斑に梅が見える。寒風のなか白い花を咲かせ、やがて訪れる桜の季節の前に新たな命が生まれていることを知らせてくれる。
漸進的に変わる季節を、街の人間は四季と呼ぶ。
作品データ
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作成日時 2023-02-04
コメント日時 2023-02-05
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 21時04分31秒現在
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自然が自然のままに存在するものに名前をつけ、区別化してしまうわたしたち人間の身勝手さを感じました。自然の美しさと強さに対する敬意を感じる詩だと思います。
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