とある大木の、枝の上の巣の中に、羽の無い鳥が生まれた
鳥は羽ばたく事なく、巣の中で暮らした
空を見上げ、兄弟達の飛ぶ姿を、すっかり見慣れた様子で眺めていた
こんな事を後何度すればいいのだろうか
そして鳥は立ち上がった
草原に立った鳥は地平線を眺め、空からじゃ見られない景色を見たいと言った
母と別れ旅に立ち、遠ざかる故郷に、不安も後悔も残さなかった
歩いても足跡の残らぬ所を歩いた
人の行き交う所で煙を吸った
何度も奪われ、壊されもしたが、失ったまま生まれた悲しみに勝るものは無かった
歩き疲れた鳥は川のそばで休んでいた
思えば遠くまで来たものだ
水面に歪んだ自分の姿を見た
傷の痛みを癒してくれる冷たい風が心地良かった
鳥は魚と出会った
傷つき打ち上げられ、泳げそうに無かった
「私は、何の為に生まれたのだろう。川に戻ってしまえば為す術無く流されてしまう。いっそこのまま死んでしまいたい」
鳥は知っている
失った者の傷の深さを
同時に知っている
失った者の強さを
「泳げなくたって、流れに任せて、どこへでも行けばいい。流れが無いなら、深い水の底に沈めば良い。なぜ自由になれるはずの海の広さに怯えている?その絶望は傷のせいじゃ無い」
鳥は約束した
どこかの海でまた出会ったら
その時は今よりずっと笑っていよう
初めての仲間と別れ、また旅に出た
深い谷底で、太陽の力を得ずに生きるものを見た
砂漠の中心で、乾きながら生きるものを見た
白銀の世界で、温もりを寄せ合いながら生きるものを見た
生きるという事は、終わりを遠ざける為に、経験と技と知恵を振り絞り、必死に明日を迎える事
旅の中で、他と同じような生き方をしているものとは、一度も出会わなかった
そしてたどり着いた
原初の傷の場所
羽を失いながら生まれた巣
風に飛ばされず、雨に流されず、血と肉の始まりがそこにあった
世界を周りきった
たくさん乾いて、たくさん傷ついた
「何と幸せな生涯だったろうか」
鳥は巣の中で眠りについた
母と兄弟と共に、空を駆ける夢を見た
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 869.3
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-02-01
コメント日時 2023-02-02
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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2024/12/04 02時30分51秒現在
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鳥は巣立ちが早く、独り立ちも早いと言われていますが、それがこの詩の1連目の始まりでそれが叶わぬ不遇の鳥。童話を読んで居る様な気分にさせられました。しかし2連目を読むと、やはりこの文章は詩なのだと思いました。鳥は立ち上がったと言う一行。擬人化ではないと思うのですが、かなり人間的な意思を持った鳥が造形されて居ると思いました。3連目の喪失感の自覚。4連目、海援隊、武田鉄矢を想起させる思えば遠く来たもんだ。5連目で出て来る魚。魚を叱咤する自分に言い聞かせるように。6連目生きる者を目撃した衝撃が何行にもわたって言明されている。この鳥は哲学者ですね。そして最終連辿り着いたのは自分の原点。世界を望見した誇り。世界を睥睨した誇り。鳥の生涯。鳥の死。
0コメントありがとうございます。 この詩は文章としての力を持たせようとして、その結果詩っぽくならないのでは無いかという不安があったのですが、この文章は詩なのだというコメントをもらって、安心したのと同時に、とても嬉しかったです。
0「何と幸せな生涯だったろうか」 ぼくもそういいたい。
0一度深い悲しみを味わった鳥だからこそ言えた言葉だと思います。 何の悲しみも無い完璧な人生を送っている人には、絶対に言えない言葉です。
0久しぶりに詩を読んで泣きました。
0つつみさんの詩に泣かされた僕が、ついにつつみさんを泣かせる日が来るとは 嬉しい限りです
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