そして、草花が置かれた
そして、というのも
この言葉以前に何かがあったからなのだが
私たちはいつもそして、の続きにいる
妻を、娶ったのだ
そして、草花が置かれた
若い若い、女の妻
そして、草花が置かれた
妻が笑ったのだ
そして、草花が置かれた
綺麗な綺麗な、女の妻
妻が笑ったのだ、私の、大切な女の妻
妻が愛したのだ、つまるところ、私なのだ
私は妻のペニスを摘んで、花を嗅ぐように口付けた
芳うのだ、かぐわう、芳しいということの、動詞系なのだ
なんだ、なのだ
それは私たちの未来だったのだ
つまるところ妻は妊娠していて、女の妻で、とても強かったのだ
強い人だった、のだ。妻は
妻は、女の妻は、柔らかい尻をこちらに向けて、柔らかい腰をこちらに向けて、妻の肛門に、妻の湿した歯列に、私は愛を誓ったのだ(月並みだ。月が浪立つのは、これで二度目だった)
私たちは腐った月から生まれてきて、女の妻は私の兄だったのだ
私は妻の腐肉で育って、それは胡蝶蘭だったのだ、風鈴草だったのだ、銀河鉄道の夜みたいに
星巡りの歌を歌うぼくらだったのだ
ぼくらは、私たちだったのだ
妻はとても美しいのだ
美しい妻は女の妻で、その少しばかし盛り上がった胸板は、乳房と言えない乳房で
私の妻は大切にしたのだ、すなわち、私だったのだ
そして、草花が置かれた
草花は秋の色だったのだ
コスモス、金木犀、廻る、廻る、衛星のソネットで
妻は喜んだのだ
妻の指先には私の送ったマニキュアが色づいていて
それはコスモスの香りがしたのだ
かぐわう、芳しいという動詞で
私たちの確かさがあって
ぼくらだったのだ
ぼくらは生まれる前、兄弟で、姉弟で
ぼくらだったのだ
それがぼくらだったのだ
私たちは、ぼくらだった、千年とかそういうリズムの果てで
私たちは萩原朔太郎だったのだ
彼は、リップを拭った
そして、草花が置かれた
まだだったのだ、妻は臨月を迎えたのだ
そして、草花が置かれた
そして、というからにはその言葉以前に何かがあったということなのだが
そして、妻は臨月を迎えたのだ
私たちのそしての前は
ヘンゼルでありあるいはチルチルであり
トリビュートが我慢できなかった讃歌たちの
小さな魔女の祈りだったのだ
そして、草花が置かれた
私たちが繰り返した、そして、の少し前が
いつも0ページ目にあることをその本は知らない
そして、の幕間に
そして、の以前に
私たちは兄弟であり姉弟であり母子であり、そして、私は父が嫌いだった
私はハイヒールが好きだった
女の妻は、ハイヒールよりスニーカーが似合った
ハイヒールが大事だった
父の肺胞が、ハイヒールを苦しかった
嘲笑った、痣笑う頃を、少年と呼んで
恋しかった、私たちは姉弟で兄弟で、私たちはテオドルスでフィンセントだった
マフィンが置かれている、小さな赤いテーブルで
小さな赤い静物画、明滅が、私たちのなんだっていうのだ
私は父が嫌いだった
私は父に恐怖していた
ハイヒールを否定する肺胞の収縮で、そして妻は女だった
そして、の後に来るのは、そして、の前に来るものたちの集積で、だから私は
そして草花が置かれた
妻が分娩台で苦しんでいた
妻の肛門が、妻の腰骨が、ぐらぐらと振動して
妻の苦しみに私は狼狽した
医師は皆純粋に務ていた
父が怯えていた
背中を丸くして怯えていた
私は、父が嫌いだった
私は父に恐怖していた
ハイヒールを否定する肺胞の収縮が
怒鳴り声の予兆として焼きついた脳髄が
私は父に恐怖していた
私はいつも父に気を遣っていた
私はいつか父を殺そうとしていた
私は父の悪霊に怯えていて、私はもうとっくにぼくではなくなっていたのに
ぼくらは兄弟で、姉弟で母子で、そして私は父が嫌いだった
父の王冠は、妻の右足の踵に似ていた
妻の右腕の小指に似ていた
妻の右耳の軟骨に似ていた
私はそっと父の王冠を外して
ごめんなさいと謝ってみた
父の体はずっと小さくて
そして私は思い出した
妻はとても強かったのだ
そして私は、草花を置いた
妻は笑っていた
そして、草花が置かれた
妻は愛しかった
そして、草花が置かれた
妻は大切にした
そして、草花が置かれた
草花の香りが、妻の髪の毛に似ていた
芳しく、かぐわう、という動詞系の
妻の髪の毛を三つ編みにして
妻は、泣いていた
笑っていた、女の妻は、泣き笑って
私たちは、兄弟であり、姉弟であり、母子であり、父子だった
愛しかった
産声が聞こえた
妻は、女の妻だった
妻の首筋に、ピアスに、私はそっと口付けて
私はきっと何も苦しみを知らなかった
妻の首筋に顔を埋め
私は、きっと何も苦しまなかった
父は少しだけ丸くなった背中で
こちらこそ、と苦笑した
父はもう見えなかった
真っ白な髪の母が、私に笑っていた
医師たちは、散逸して、病室は真っ白な母の髪に似ていた
そして、草花が置かれた
私は妻の手を取って、そして、草花が置かれた
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 1220.6
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2022-10-28
コメント日時 2022-11-13
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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総合ポイント | 0 | 0 |
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2024/11/21 21時03分12秒現在
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この作品が投稿されて、初読では、正直混乱してしまいましたが、何故か引き込まれてしまい、仕事が一区切りついては、読む、ということを繰り返していました。 今、とある企画書を作り審査に出したところ、いわゆる5W1Hを明確に書くよう、主催者側から修正するように言われました。 >そして、というのも >この言葉以前に何かがあったからなのだが 普通はそうですよね。人に分かりやすく説明するときは、普通そうです。 >私たちはいつもそして、の続きにいる 「私」と「妻」の関係を表しているのが >そして、草花が置かれた であり、この文章がタイトルでもあり、作品にもランダムにちりばめられている。 企画書作成で脳が煮詰まっていたときに、この作品を見ていると、論理的思考から解放されてとてもリフレッシュしました。 >女の妻 普通妻は女よね、と思うけど、今は日本の一部でも同性婚が認められていることもあるから、このように書いてあるのか、他の意味があるのかとても興味がわきました。 作品の中で良い香りのする花の名前がでてきます。私の妻は誰なのか、妻は私だったり、私の兄だったり、ここ辺りが少し混乱しながらも、私がシャクヤクとボタンの区別がつかないように、似たような花がそれぞれ別の名前で生息していることなどを思い出しました。 >そして、草花が置かれた それは、妻の喜び、妊娠したときの喜び、ずっとずっと昔から2人は一緒だったという私たちの確かさを証明するものを例えているのかと感じました。 >そして、私は父が嫌いだった ここにインパクトを感じました。そして、ハイヒールが何を表しているのか。しかしなぜか女の妻は、ハイヒールよりスニーカーが似合っている。ハイヒールにこだわる理由とはなにか。「私」は本当はゲイだったのか。色々と思いを巡らせました。そうすればわざわざ「女の妻」と書いているところも納得できます。 幼い頃父に恐怖していたことを今でもトラウマに思っている「私」にも、今は大切に思える女の妻がいること。そして、その妻はスニーカーが似合う強いつまだということ。そのことが、父への「私」の恐怖を少しずつ中和させて、 >私はそっと父の王冠を外して >ごめんなさいと謝ってみた この行動に移せたのだと思いました。 >そして私は、草花を置いた ここだけ、「私」が草花を置いています。「私」の大きな心の変化を感じました。 女だけど強い妻を心から愛している「私」の安堵感を「草花が置かれる」度に感じます。 >そして は、「私」の辛い過去からの続きで、これからも「そして、草花が置かれた」は、2人の関係が続いていく度に何度も続くのだと思います。 とてもいい作品だと思います。ありがとうございました。
0心情の変化などを丁寧に読んでいただきありがとうございます。特に作品を作る上で、ジェンダーやセクシュアリティの要素は意図的に組み込んだので、その点を汲み取っていただけたのがすごく嬉しいです。
1これ橙色さんだったんですね。なんかすごすぎてコメントできんわと、言葉がでなかった。
0「そして、草花がおかれた」ということばがこの詩の象徴となっている気がしますがこの夫妻はお互いの立場を「夫妻」という文字には留めずいろんな関係性を築いているのが凄いと思いました。
0悔しいけれど、惨敗だ。
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