いかないで、ずつと此処にゐて
わたしは泣いて縋つた
そつちに冬なんかないのに
いいや冬はあるさ、かならず
越冬隊長はもう確信をしてゐた
それに冬を越へるのが我われの使命だ
冬を越へたつて何があるつて言ふのよ
其れを私は確かめたいのさ
空つ風の吹き上げる砂塵に捲かれて
たうたう越冬隊は見へなくなつた
―我われは冬に近付いてゐる、私は感じる
何か月かして届いた手紙には真つ赤の椛が挿んであつた
―もう直きだ、冬の峠まで後僅かだ
また何か月か経つて届いた手紙はすつかり凍て付いてゐた
―落伍者の幾人かを出したが、我われの士気は高い
はたくと白い結晶がさらさら落ちた
此んな常夏の楽園に暮らしてゐたつて越冬隊を志す者は多い
案内所の前には何時だつて列が出来てゐた
じつと待つてさへゐれば此処にだつて冬は来るのに
せつかちな子たちね
屹度楽園にも欠けたるものや足らざるものがあつて
其れじしんが、或いは其れを蔽ひ隠してゐるものが
冬、と呼ばれてゐるのだらう
だとしたらグランマはしあわせな儘死んだのだ
さうわたしは思ふ
それからまた何か月か何年か、随分な時が過ぎて
もう越冬隊長の顔も思ひ出せなくなつた頃
届いた手紙は宛先も差出人の名前もなくつて
桜色の雲英がひとひら―
作品データ
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作成日時 2022-05-31
コメント日時 2022-06-17
#現代詩
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2024/11/23 17時02分24秒現在
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長いものなら幻想小説というジャンルになるのでしょうか、コンセプトがきれいです。南極やヒマラヤではなく、冬、としているから時間軸が跳躍するように感じさせる効果があるのかもしれません。
1「越冬隊」って空間を移動してるくせに時間を移動してるみたいな言葉だよな。 と思ったままに詠んでみました。 お褒め戴きとても嬉しいです。ありがとうございました。
0越冬隊と言えば南極とかでしょうか。具体的に、ずまりと核心部分を出さずに、描写が巧みに旋回して居る様にも見えました。文語ですしね、歴史的仮名遣いだろうか。最後のオチ?みたいなところにも、刮目しました。
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