噴煙が立ち昇り、
リリシズムが唾棄されるその時、
礫に葬られるのは、
素性を隠した、色彩の喪。
病棟を出入りする難民は、
USBケーブルの切れ目に血漿を落とし、
管を抜いては安楽死を選んだ。
ネットもテレビも暗には、
「アレ」を蹂躙して捨てたいらしい。
精神の屍を埋葬もせず、
労働者への対価も出さず、
泉の場所へ街娼が配送されると、
オッペンハイマーの名前でさえ、
ポップカルチャーの片腕となる。
虚実を道連れにして、
街路を行く盲者。
火傷に貼りつけた深閑は、
彼が手に入れた、
彼を決して自由にはしない、
わずかばかりの真実、
または事実と呼ばれるもの。
読むべき本だと言っては、
頭に叩き込みたかった書物も、
悲観論者とリアリストによって、
今では焚書されている。
うごめく邪気でさえも、
何れは炎の底。
勤務前にアクエリアスを用意し、
母がYouTubeで作った料理にも手を伸ばす。
疎ましい父でさえも、
書いていれば、何てことはない。
彼もまた、被害者の一人。
嫌な匂いがする。
腐臭にも近い匂い。
内面の解剖。
内側へ向かうのは、
テロリストの顔をしたエゴだ。
慟哭とともに歩くのは、
市街地に倒れ伏す寸前の、
愛の亡霊。
案内人になるべきは彼であったのに。
皮膚は焼け焦げている。
気づくには遅く、
残るのは深夜にタイピングする音と、
消え消えの声で呼ぶ、
薔薇の、名前。
作品データ
コメント数 : 2
P V 数 : 1519.1
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2022-03-02
コメント日時 2022-03-22
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/23 17時25分03秒現在
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初めてこの詩を読んだときの印象は、ピカソのゲルニカみたいだと思いました。 単に戦争を連想したと言っているのではないです。ゲルニカの絵はパーツ パーツのそれぞれのインパクトが強く、一部分だけを見ても 迫力があります。この詩も 鮮烈な表現が多くて唖然といたしました。言葉をなくすって、ヤツでした。 そうはいっても、なにかコメントを書きたいと思いました。わたしには、無理です。 では、詩では どうだろう。 詩であるなら、もしかしたら支離滅裂になってしまったとしても るるさんの詩だから、しょうがないと 思ってくださるかもしれないです。 という訳で お返事の代わりに詩を書きましたので、よろしくです。 ******************* 「それでも土が、開眼する」 現在ではウクライナに属している地方で生まれたパウル・ツェランが 活字にしようとしたのも 誰でもないものの薔薇だったという そして今、 かの地の中心地を死守しようとする普段着の人々 過去のことではないが未来のことでもなく、いま 活字にしようとする人々によって 自らの腑に落ちることばを 自らの内面を解剖し 生々しく鼓動する感情のひとつひとつの匂いを嗅ぐ アクエリアス どうぞ 清浄をください こころの血も分析しつくした血漿に 健やかに酸素を運ぶヘモグロビンを泳がせてください 原爆の生みの父親オッペンハイマーは、 後悔していたのだと かの人に伝えてください リトルボーイとよばれた爆弾の弟だかを かの人が 産み落とさないよう 誰か、誰か 伝えてください そこのお父さん そこのあなた、なにか喋ってください そこのお母さんも YouTube先生も 嗚呼、誰か だれのものでもない薔薇の名前を呼ぶ声がする
1るるさん、コメントありがとうございます。この「風は、失明した」は僕の作品の中でも稀に見る出来映えだと思っていたのですが、笑えることにコメントが一切付かずスルーされており、残念な気持ちでいました。そこを拾い上げてくれたのがるるさんであり、とても嬉しく思います。また返詩も素晴らしく広島出身である、るるさんの心情が大きく投影されていると思います。るるさんの返詩においてはウクライナという国名が出ており、明らかにロシアのウクライナ侵攻からインスパイアされ、戦争の惨禍について、そして原爆について語っておられます。「そこのお母さんも YouTube先生も…」以降は見事ですね。「薔薇の名前」は、僕においては個人的に連想する人物の名前をイメージしていましたが、薔薇の名前とは実際にはもっと大きく敷衍して、だれのものでもないのかもしれません。ピカソのゲルニカ! 恐れ多い。僕はピカソよりも同郷のサルバドール・ダリのシンパなのですが、ゲルニカを一時でも連想していただけたならそれに勝る幸せはないです。自分で言うのも申し訳ないですが、仰る通りこの詩には際立つ表現も多く、特に一連目の「素性を隠した、色彩の喪」などはとても気に入っていて自分でも新しい境地、表現に踏み込めたなと思っています。もっと解説したいのはやまやまですが僕は草原の峡谷にこもり、また今一度目を見開いた風が吹き込んでくるのを待ちたいと思います。
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