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夢の償い
ねえ、聞いてよ 僕の夢で猫が家出した話さ きみが一緒になって探してくれたあの話だよ その話が見つからなくて 今日は選挙の日だから投票に行く 台風が近づいて ざあざあ、と 降りしきる雨の中 16年前に卒業した母校へと向かう 1500回は歩いたであろう通学路に従って 歩みを進める てくてく、と (そうだ、あそこは、ながのの家だ、で、あれはまえかわの家、あまがいの家だ、今でも住んでいるかどうかは知らない、どうでもいい) 授業を受ける権利がないから 教室には用がない 校舎の脇道を歩いて(てくてく、と) 傘を閉じて、体育館に入る ぱらぱら、と 人が並んでいる 予定どおりに票を投じて 傘を開く前で 「あ、ここ、よく夢で出てくるんだ。あ、ここもだ」 と会話する、親に連れられた娘 (そうだよ、俺だってな、よく夢で出てくるんだよ、この小学校の校庭がさ!) (登場人物は小学生の顔をしたクラスメイト。校庭でクラス対抗のサッカー大会が開かれている。俺は習っていなかったけれど、キック力が認められてフォワードを務めた。けれど、負けたんだ。キック力だけがあって褒められたけど、俺は知らなかった。オフサイドを知らなかった。だから、何の力にもなれなかった。クラスメイトは市の選抜に選ばれるぐらいうまいやつがいたけど、負けたんだ。俺がオフサイドのルールを知らなかったから。誰か、俺に、オフサイドの、ルールを、教えて、くれよ、なあ!) 変わらぬ家々に かつての同級生はいまだに住み続けているのだろうか 俺は 私立の中学に通ってから 地元の知り合いが全くいなくなった だから あそこにやましたとか、あおきとかがいまだに住んでいるかを知らない でも、あれは、やましたの家だったし、あおきの家だった 間違いじゃない これは夢じゃない、夢じゃない ざあざあ、と、てくてく、と、もはや川と化した道を歩く、足が、重い、水に濡れたから、重い、水に濡れたから、重いんだ、決して、夢のせいじゃない、これは、夢じゃない 選挙がある度に 母校へかえる 束の間 小学生にかえる あの時のように 石けりや靴飛ばしをした 通学路がいまだにある その風景が ざあざあ、と、てくてく、と そして いまだに、ぱらぱら、と どこかから舞い降りてくる いや、舞い上がっていく 俺の夢が 「ねえ、聞いてよ 「僕の夢で猫が家出した話さ 「きみが一緒になって探してくれたあの話だよ その話の続きを書こうと思ったのに 地元に残ることを選んだ俺は 今夜 働きにいかなくてはいけないのだ (これは、たぶん、ながのの票だ、まえかわの票だ、いや、やましたの票だろうか、票をかき分けて、かき分けて、何を探しているんだ、これは夢じゃない、そう言えば、俺が仲良かったフィリピン人の子どもの彼は、投票権があるのだろうか、この前、自治会名簿で名前を見かけたな、いまだにあそこに住んでいるんだな、当時のまま住んでいるんだな、休みの日に、一緒に公園で、ちょっとしたいたずらをして、きみは、夜な夜なその公園に行って、公園をテーマパークに仕立て上げたんだ、これは俺ときみだけの秘密だよな、公園に散りばめた10個ぐらいのクイズを解くと、最後には絶望が待っているというテーマパークに仕立てあげたんだよな、きみはすごいよ、これは、夢じゃない、票を、かき分けて、かき分けて、ざあざあ、になった票を、ぱらぱら、にして、てくてく、と、もくもく、と、俺は票を集めていく仕事を、しなくてはいけないのだ、それが、地元に残ることを選んだ、俺の、せめてもの、償いなんだ、オフサイドを、知らなかった、せめてもの、償いなんだ)
夢の償い ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1267.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-10-22
コメント日時 2017-11-08
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
二行目の「話」と、三行目の「話」・・・音の話と、文字の話、と言えばいいのか・・・この不思議なずれが引きこんでいく、夢と現実のあわい。 〈キック力だけがあって褒められたけど、俺は知らなかった。オフサイドを知らなかった。だから、何の力にもなれなかった。〉 〈私立の中学に通ってから 地元の知り合いが全くいなくなった〉 〈地元に残ることを選んだ俺〉 ・・・私自身は埼玉の片田舎で(通学路から秩父連山が見え、通学途上に白鷺が飛んでいるようなところでした)私学といえば、全寮制の学校しかない。数年に一度、私学に進学する子がいるかどうか、というくらいの地域だったので、東京にお嫁に来て・・・小学校に子供が行き始めたら、私学への進学率が8割程度だったので驚きました。 私が住んでいたような場所で(つまり、めったに私学に進学しない地域で)私学へと「ぬけだしていく」ことは・・・いわばエリートコースに乗ることであり、あいつは俺たちとは違うんだ、という目で見られることにもなるのだろうなあ、と思いながら読みました(そういう地域ではなかったかもしれませんが。) 逆に、公立の中学、高校を経て、やがて「都会」に「出ていく」人が多い中で、地元に残る、という選択をすることもまた、あいつは変っているね、という目で見られることになるのかもしれません。 能力を認められて、その場で期待に応えようとして、うまくいかなかった、という過去の記憶と、眠りの中で再現的に見る「夢」と・・・そういうときにうまくいけばいいな、という期待、希望としての「夢」。 話の二重性もそうですが、「夢」の二重性。償い、という言葉の重さと、夢の軽さ、曖昧さというのか、希薄さが釣り合うのだろうか、という疑問を持ちつつ、そのズレ(他者が感じる、どうってことなさ、と、語り手にとっての、大事さの度合いというのか、温度差のようなもの)が、この作品の中では重要なのだと思いました。ぱらぱら、という言葉の二重性もまた。 足が、重い・・・の、突出した一行。歩みの心理的な重さと、水に濡れたからだ、と何度も自身に言い聞かせる(しかし心は納得していないから、しつこく言い重ねることになる)部分、詩形的にも音の流れとしても、想いを畳みかけていく、重ねていく強さがあって、アクセントになっていますね。まるかっこの中の、溢れる思いを抑え込みつつ、抑えきれずに語る、ような語り口の部分も。
0「ざあざあ」や「てくてく」などの擬音が現実の音から次第に話者の心象風景の様子に変わっていく。票、と顕された断片が舞い上がり、降り積もり、ひとつの夢をかたち作っていく。 >その話の続きを書こうと思ったのに >その話が見つからない のは >地元に残ることを選んだ 俺の償いだと語るのは何故か >授業を受ける権利がない >オフサイドのルールを知らなかった など断片的に語られる過去にあるような出来事に(子供ながらに)罪を感じ、わだかまりを残したまま大人になってしまったからだろう。 >仕事を、しなくてはいけないのだ とは夢のなかで贖罪をし続けなくてはならないことであり、票という許しをみんなから掻き集める行為のことなのだろう。ねえ、聞いてよと語られ始める物語には読者も票集めを手伝う夢の担い手として登場する。けれどここで問題になってくるのが描写の丁寧さだろう。16年前や1500回など具体的な数字が読者の作中への没入を拒否してしまいかねないと。読者をスムースに感情移入させることができれば、作者だけではなく読者も夢の担い手としてこの世界観を完成させることができるようになるのではないかなと。
0なかたつさんはやはりネット詩人のなかでも頭一つ抜けているなと思いますねやはり。 私も先日の選挙で母校の中学校に行ってきました。 地縁は手放しに良いものとは言えないぐらいどろりとした面があるもので、かといって断ち切ろうとすればそれなりの傷は負ってしまう。とどのつまり地縁を感じて(負って)しまったが最後良し悪しは別として呪縛のようについてまわることでしょう。 『詩と思想』2017年11月号、ビーレビのことも取り上げられている最新号でni_ka氏が「学校の校庭などにも砂が無」いぐらいに都心部の出身だと知りました。アナクロなしがらみとは正反対に乾燥しているあの作風はそういったことも関係している、そして、やりたいやりたくないは別として私にはできないものだなって思いました。選挙行った私の中学校は当然のよう砂の校庭ですし、なんなら小学校には銀杏が雄雌どちらもありました。銀杏って現存する植物で最も古代のすがたのままなものらしいです。そりゃあ他の植物は被子植物、そこまで至らずとも裸子植物なのに一種だけ未だに雌雄なんですから。陸地のシーラカンスみたいなもんですよ。でも、そんな非効率な銀杏はロックだなと思います。 地縁をそのままありのまま書くのでなく、夢であったり選挙であったりオフサイドであったり、所々フックのある要素を盛り込まれているから最後まで飽きが来なかったです。
0(一回長文で書いたのですが、消えたので、思い出しながら箇条書きで書かせていただきます、申し訳ございません) まりもさん ・私学に通うという意味が、地方によって異なることを再認識しました。 ・「夢」にも二重性があるという指摘。ただ、僕は夢の材料として「現実」があるということを思っています。 ・まるかっこ語りは、多用しているので、はまっているのかもしれないですが、使い過ぎに気を付けます。 エルクさん ・読者が票集めの手伝いをする担い手という指摘はなるほどです。 ・ただ、「罪」を共有していない以上、票集めによって、その手伝いができるのかということで、読者が「世界観を完成させる」のが不可能なのかもしれません。 ・数字に関しては、あくまでも私性を担保するために必要であり、かつ、代替可能な数字として読者は読者なりに数字を置き換えできるかもしれません。 花緒さん ・アクチュアリティ、その時の僕にしか書けないものを書こうとしているので、そういう効果があったのだと思います。 ・前進したというより、書き方自体は30分一本勝負で書き続けていたので、たまたまはまっただけかもしれません。 祝儀敷さん ・ネット詩への帰属意識は全くないですが、賛辞をいただきありがとうございます。 ・小学校に通うという経験は誰しもがしていますが、そこで見ているもの、経験したものは違うので、絶対に共有できる部分とできない部分があるのだと思います。 ・選挙ぐらいしか、僕には母校に帰るきっかけがなく、それがたまたまいい契機になりました。
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