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花散らし
群青、灰の空模様 街は騒、霧に光線飛び散って 透明宇宙の暗がりに ゼンマイ仕掛けのまいまいが 溺れ死ぬ瞬間の愛のような、稲妻 息巻いてはいななき 薙いで、流殴、流殴 ((((サイレン! サイレン!)))) 遠くで、はたまた、近くで がなり鳴り響く地の底に吹き溜まる 未熟児の蝉、餓死した蛙 窒息の蛇、首のない猫 雨晒しの亡霊たちが大橋の下 一斉に首を吊る幻覚、肉、糞 保育園には迎えを待つ子ども等が 牛頭馬頭、空虚なお遊戯の儀 目抜通りを行く人の歩幅の広いこと広いこと コンビニ傘の透明度が訴える 寝言戯言ぼろ儲け税金贅肉ワイドショー 「レジ袋、3円ですがお付けしますか?」 僕等、あられもなく被弾する 悲しみに 憂いに 不条理な冒涜に 打ちひしがれて、びしょ濡れの孤独 一つまたひとつぶら下げたまま枯れて舞え 人影まばらな都会のナンバー 1時間55mmの雨が叩き斬る 八分咲きの花の沈黙に耳を貸すな うるさい暗渠に流れる色は 水子の霊の仄かな喃語 * 雨に濡れ弱る蝶 羽を痛めて口をすぼめる 冷えた体を震わせて クワズイモの葉の下で 息を吸い、吐き 狂い咲く生の終わりを垣間見る 凍てつく春雷、凍てつく白波 泥濘に折れた足を埋めて * 水に溶ける色で描く 写実の街はどこか嘘っぽく 薄ら寒い切長の目で 一瞥しては、ほくそ笑む 曇りガラスに吹き遊ぶ 光は骨、縦に細くしなやかに尖る 眼に映る透明が、鼻腔をくすぐる無臭が 毛髪に絡まり、まつげを揺らす 心をひっきりなしに搔きむしり 責め立てる 春の雨は青く冷たい 筆を濡らす、銀泥に触れる そこからは無心で画布を汚す 語り部なき物語を聴くように 繰り返し繰り返し、反芻する 変わる変わる色彩は重たいものから沈みゆく ゆえに、軽いものだけがここに こうして、絶え間なく注がれる雫は 降る、というより 落ちる、といった方が適切で 折れ曲がる光の行く末を見るまでは 何度も筆を濡らし、色を捨てては拾い 鳥の羽を編むように、火を灯しては薪をくべる * 願いましては──(濡れた犬の匂い)──寝相の悪い──(グッピーのエサの匂い)──ありとあらゆる──(幼虫マットの匂い)──光に解いたシーグラスの──(濡れた制服の匂い)──吐かなくてもいい嘘──(歯医者の匂い)──咎──(ソーダの匂い)──憂鬱と苦痛──(古い本の匂い)──償うように絵に描いた──(森の匂い)──無言の殺気──(放課後の学校の匂い)──ずっと長い間忘れていた──(芝を刈った後の匂い)──青の詩集の最後のページ * 長時間束縛されて鬱血しきった四肢を ミシン目に沿って切り落とすように愛してみせて ランドセルまで合羽を被せた 色とりどりの児童の行進 迫害、博愛 百害あって一利なし 暴言と酩酊の隙間に指す光 吹き込む風の無邪気さ 悪人も善人も等しく死の轡を嵌められ 母なる神の乳を吸い眠りにつく 静かなる子守唄は首の縊痕 けたたましく鳴るintroduction 礫は、冷たい詩と化して 万物の御心に降り注ぐ 凍て返れ、春嵐! 澱み萎えてなお泣き喚き 叫び、祈りのその境界に立つ 禍青き牆壁に風穴を穿て * 泥濘に縺れる足を引きずり 濡れた肩越しに光を携える 夕間暮れ、58号線はおよそ2.5kmの渋滞 テールライトの赤色は長い一本の血の管で その中にいくつもの思惑が流れて家路に着く 群青と灰色を混ぜ合わせたような空に 縫針みたいな雨が降りしきる 落下し、ガラス片が飛び散る sick sick sick 神と致す季節のハレーション sick sick sick 雨垂れに鼓動が宿る 傘立てには霊障の小夜曲 点と線が連なり 意味を成すことだけがすべてと思うなかれ 精と卵の裂傷、立ち昇る煙の中に光る目が動く 手を触れず、抗わず、この身を任せ ひとつの絵になるまで待つ 月が、今、繭を蹴破る
花散らし ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1177.5
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 2
作成日時 2020-08-15
コメント日時 2020-08-15
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 2 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
全体を一通り見て、人物の思い、ないし行為を直接的に分かりやすく書いてあるのは、 >意味を成すことだけがすべてと思うなかれ の行と、 >手を触れず、抗わず、この身を任せ >ひとつの絵になるまで待つ の行であると見て取れました。 私はこういう箇所が好きです。でも、この詩の他の記述、表現も好きです。 作者さんはきっと詩作能力の高い方なのだと推察できました。長い詩ですが、どの部分を見ても楽しいです。それから、この詩を舞台の上で朗読したら良いだろうなと思いました。 意味内容で読ませる詩ではないと思いました。が、言葉である限り、作中の個々の言葉は意味を持っているはずですし、そのために読者の頭の中に感覚とか印象とか映像が生まれるのだと思いました。この詩は、詩にしかできないことをやり遂げていると思いました。純粋に言葉によって読者を揺さぶります。 豊富な語彙と創造力を持っていて、それによって次々と効果的な言葉がリズミカルにきめ細かく繰り出されています。 すばらしいとしか言いようがありません。
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