夜通し呑んだ夜明け五時。この部屋に唯一つの小窓から、藍色の空が見える。
朝に追われ、夜に連れて行かれる星空は、母親に手を引いていく子供のようだ。「もう帰る時間よ」と言われているのかもしれない。
そんな空をボケっと眺めていた。
夜通し呑んだ頭では、俺も幼くなってしまう。家賃のことだとか、月曜の朝の憂鬱だとか、そういう全部が馬鹿げて見えて。雀のチュンチュン鳴く声が、夜を乗り越えた俺への祝福にきこえたり。
カーテンのない小窓からは、遠く街並みが見える。丘の上に建つこの部屋から、街が見える。
朝靄に霞むあの国道の街灯たちは、仕事を終えてもうすぐ眠りに落ちていく。
あの巨大な工場からは、夜勤明けを告げるサイレンが鳴り響く。そして工夫達も眠りに落ちていくだろう。
夜明けの空が、光のような何かを宿す。
呑み続けた頭の中は、言葉が生まれては生まれ、洪水のような言葉の濁流。決壊してしまうその前に、俺はペンを握り込み縷縷綴る。
長い夢の後のような倦怠感。俺のこの夜を夢だと思い込ませるつもりか。
だけども俺は、起きていた。
独りの部屋は独りじゃなく、ネットの世界へ飛び込めば、夜ふかし仲間で溢れている。
体は独り、心は共に。そんな夜だった。
飽きもせず、目覚めの一杯にとまた紅茶にウィスキーを注いで俺は雀の声をきく。
ジョギングする人がいても、始発が走り始めても、今だけはまだ夜なのさ。
この部屋だけは、夜なのさ。
作品データ
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作成日時 2020-08-04
コメント日時 2020-08-08
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2024/11/23 17時24分13秒現在
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全体的に良くかけて居ると思ったのですが一箇所だけ、3行目終りから4行目にかけての「母親に手を引いていく子供」は「母親に手を引かれて行く子供」だと思いました。
1誤植に気づいていませんでした。 ありがとうございます(笑) 本当にお恥ずかしい……。
0情景が浮かびます。男の美学を感じます。単純に格好良いと思える詩です。読後、普段なよなよしている自分が、チャールズ・ブロンソンになりました。 下手な感想ですが、思いきった強烈な男の匂いの演出がたまらないです。
1夜通し呑んだ頭では、俺も幼くなってしまう。 こちらの部分で一気に世界感に引き込まれました。 詩を書くということに対してひたすら純粋な子供の心のようなものといった感じでしょうか。 童心というものでしょうか。何かに熱中していくことが感じ取れました。
1タイトルが朝の詩であるのに対して、「この部屋だけは夜なのさ」でまとまっているのは面白いと思います。 たった一つの窓からのぞく朝の風景といまだに夜に浸る「俺」の対立が、夜通し飲んだことで日常から切り離された様子を強調しているように感じました。
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