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風が吹いた。
風が吹いた。 世界をなぎ倒す といったほどのものでもない。 ただの風だ。 でも、それはベランダから見える水道道路のおおきな木をゆらした。 木々はみな一様に、もさもさした天然パーマのような髪を自在に、もこもこと動かしている。 (かれらは同族なのだ) それは夕立だった。 はじめての夏日に降った夕立だ。 大粒の雨がぱらぱらと、 降っては止んで、降っては止んだ。 熱した大気はもののみごとに冷やされたのだ。 (40歳にもなろうというのに、自分がまだこんなことに感動できることを誇りに思う) 数十日もたてば、ぼくは父になる。 本当だ。もののたとえなんかじゃない。父になる。 いまの自分のままで、いられるだろうか。 いまの自分とは、異なるものになるのだろうか。 ぼくのむすめになるはずの、つばき。 彼女にはブラックピンク以外のことを、 トレンド以外のことを、芸術以外のことを つたえよう 自然のことを、 芸術が自然のかがみでしかないことを つたえよう さっきっから、かみなりが鳴っている。 ごろごろと。煙のような雨雲が垂れ込んだ、くうかんをごろごろと響く。 ぼくが生きていると実感するのは、こんなとき。 ぼくが自然のパーツでしかないことは、喜びだ。 雨雲が垂れ込んだとしても世界はひろい。 それは部屋のはなしなんかじゃない。 さっきっから、踏切が鳴っている。 カンカンと。ひだりてにはマンションと雑居ビルの崖。そのすきまをカンカンと響く。 そのむこうには電波塔。雨にけぶった住宅地。 ぼくはそのグレーの屋根を 橙色の屋根を うつくしいと思う。 それは自然のはなしなんかじゃない。 夕立はつよくなる。 とても。 屋根なしにはもうそこには立てない。
風が吹いた。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1477.6
お気に入り数: 3
投票数 : 0
ポイント数 : 11
作成日時 2020-06-07
コメント日時 2020-07-05
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 5 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 0 |
総合ポイント | 11 | 5 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 2.5 | 2.5 |
可読性 | 1.5 | 1.5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.5 | 0.5 |
総合 | 5.5 | 5.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
子はかすがい、父になるっていうことは自分を抜け出せないくらい地面に突き立てるってことなんだろうな。これって、また、ひとに何かを教えなくちゃいけないってこと、は、人生のうちの他の何よりも絶対的にそうなんですね、しるしとしては "芸術" なんですね。いや、知らんけど。 こいつ、なかなか不良でさ、そのなかで "自然" のしるしを持ち出してきやがる。アントナン・アルトーが「演劇はもはやひとつの芸術ではない。あるいはそれは無用な芸術である。」って言ってるんだけどそれをやってんだ。観念しやがれ、おまえは "芸術" のなかでしか生きられない。 そして、負ける。 アラジン さん、ありがとう。僕が本当に求めているのはこのような詩ですよ。
子供の誕生を思い、街中で自然を思う。とても共感しつつ読ませていただきました。
0読めば読む程、一回目よりは二回目、詩が構成されて居ると思いました。三回目も読めばよりよく伝わると思いました。
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