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2018年12月分選評【フル】 stereotype2085からの鼓舞「汝、冒険せよ」
どうもみなさん、あけましておめでとうございます。最近何かとお騒がせなstereotype2085です。さて先月分2018年最終月の選評ですが、私が主軸に置いたのは選評文にある通り「冒険」です。詩という分野で、現代詩という分野でどれだけ冒険し、鮮度のある刺激をもたらすことが出来るか、あるいは出来たかを主軸にして今回の選評は行っております。中には冒険という範疇には収まらず、単に私個人の趣味として選んだ作品もありますが、その点はご容赦を。それでは行ってみよう。ヒアウィゴー。 大賞 「秘法(第一巻)」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2740 ishimuratoshi58さん 大賞候補はishimuratoshi58さんの「秘法(第一巻)」に決定です。正直この詩は何を訴えたいのか、やりたいのか初めは分からなかった。コメ欄にも書いたように「『光あれ』と二度と云つてはならない」以外胸に刺さる、惑乱させられるような一節はなかったかもしれない。しかし全体を見て欲しい。とにかく美しいのだ。字面が、フレーズが、構図が。すべてにおいて抽象化された絵画のような美しさを放っている。筆者本人も「かけてしまった」作品であり、何かを志向し訴えようとした作品でないのを明らかにしている。だがしかしこの美しさだ。まさに大きく冒険した末のこの結果である。ピカソは晩年自らの絵画についてこう述べている。「あなたは女性を抱こうとする時、何かを考えて抱くのだろうか。ただただ抱きたいという気持ちで抱くのではなかろうか。私の絵画もそういうものだ」と述べている。この作品はまさに書きたい作品として、書かれるべくして書かれた作品だったのであろう。ビーレビュー投稿四作目にして安定した実力。流石であり、素晴らしかった。よって大賞候補に決定。 優良 「1bit、12月、ツイート詩、#、」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2812 5or6(ゴロちゃん。)さん。 この作品は一言で言って子供達、幼き者たち、いまだ未来を知らぬ者たちへの愛で溢れている。そのメッセージ、投げかける言葉はすべてにおいて優しく、温かい眼差しで彼らを見送るかのようだ。まるで一つの冒険を終えた一つ上の世代が一つ下の世代に困難や悲しみは数多くあるだろうけど、それでも行きなさいと諭しているかのようだ。温かい家庭愛にも似たものを感じる。これでのっぺりとしたタイトルだったら、人の胸を刺す力は弱かっただろう。だがこのタイトルと中身とのアンビバレンスさ。中々良い。素晴らしいと思う。よって優良に決定。 優良 「わたしは死ねばいい」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2803 みうらさん。 まずこのタイトルである。インパクトが尋常じゃない。極々個人的な理由、経緯であるが、私はこの詩を投稿する前三浦氏が、彼の心が「荒れる」であろう経験、体験をしたのを知っていた。大丈夫か三浦氏と思っていたところにこの作品である。驚いたし、自分というブランドを立てて勝負していると思った。最近の彼の作品はいつもギリギリを行っている。死線の境い目で物事を見て、書いているようなそんなスリリングな要素がある。そういう状況、境遇にわが身を置くのも一つの冒険だ。そんな彼の詩的遍歴、変遷の一つとして私はこの詩を観た。「無自覚なれば獣/自覚すれば人間たち」。そんな三浦氏自身を含む私たちにも向けられたメッセージ。「未練無ければ/死ねばいい」。なかなかのものだったと思う。よって優良に決定。 優良 「証明写真」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2807 なかたつさん。 証明写真。何とも無機質で人間味や人間性が失われる、奪われるかのようなタイトルである。内容の方も話者が、証明写真を撮るごとに両親の期待に添えられず、一つの落第に近い存在として情報処理されていく過程が一部描かれている。「自己PRや志望動機」が「証明写真以上に僕を証明していたはずなのに、あなたがたは、一切表情を変えませんでした」と来るのはは何とも切ないし、胸を裂く。この詩のやろうとしていたこと、試みようとしていたことを端的に表す最も印象的なフレーズだとも思う。私たちは冒険から離れ、いずれ生活を取らなければならない日が来るかもしれない。だがその日においてでさえも自らが冒険していた日々の感度をもって自己分析し、現象を見るというのも悪くないのではないだろうか。あなたの証明写真が証明したものは過去のどんなあなたですか? そんな問いかけを投げかけたくなるようなこの一作に、優良を。 推薦 「ヨンシー」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2816 エイクピアさん。 この詩の中核にあるのは嫉妬というフレーズだが、それが何とも印象深い形で使われている。「嫉妬しそうな私の油断」「嫉妬しそうなのは母」。嫉妬という感情が親子の関係を壊し、あるいは揺るがすものにまで発展している様が描かれていると個人的には思う。「星々の間を縫って皺は損害であるような」という表現は老いたる母を表す一節としてかなり際どく冒険しているのではないかと思う。よって推薦に決定。 推薦 「風骨」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2748 白犬さん。 白犬さんの既定路線の中にある一作だとは思うが、よくまとまっている。変に気をてらった表現や唐突に英語のフレーズが飛んでくるということもない。「まだ見ぬ君に会いたい/まだ見ぬ私に会いたい」で始まる最終節は、特段目新しいものではないが、胸に刺さる。これが俗に言う「エモイ」というものではないか。冒険という意味では若干違うかもしれないが、私の胸にストンと落ちた。これは趣味による、あくまで趣味による選別でもある。その点はご容赦を。よって推薦に決定。あと白犬さん、これからはコメントへの変レスだけでもいいのでチャレンジしてほしい。新しい冒険はあなたを別次元へ誘うだろうから。 推薦 「四百万回の殴打」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2705 galapaさん。 この詩もタイトルである。雨が降っている。雨への描写が執拗にある。それが四百万回の殴打だとも言う。中々に斬新な表現ではないか。雨は残酷だ。常に降って欲しい時に降るわけでもない。降ると困る時に降ったりする。それでも雨は滋養だ。そんな雨に殴打される話者。なかなかによろしいのではないでしょうか。よって推薦に決定。 「泳ぐ器」 https://www.breview.org/keijiban/?id=2796 なゆた創さん。 さて2018年最終月、12月分の選考。推薦枠に最後に転がり込んだのは、なゆた創さんの「泳ぐ器」であった。この作品、コメ欄でも言及されているように、祖父と異人をつなげることに、どれたけの快感を得ることが出来るかという点がポイントの一つになってくるだろうが、私はこの詩は好きである。祖父や父の面影はいつも理解しがたく、承服しがたく、望郷の彼方へと去っていくものだ。それは異人として、異形の存在としてそうだからだ。全体としての強力なインパクトはなかったかもしれない。だが望郷の念から詩情をもよおすには充分だった。よって推薦に決定。 ということで長いこと書いてきたフル選評であるが、「汝、冒険せよ」と銘打ったものの、たどり着いたのは冒険しなくとも良い作品は良い。冒険している要素があればより一層作品は輝き、新鮮になるという極々ありきたりな答えだった。答えはいつもあなたの中、灯台もと暗し、幸せの青い鳥はいつもあなたの傍にという奴である。 さて新元号も近づいた今年、2019年あなたはどんな年にしたいですか? どんな一年を送りたいですか? 七つの海を超えて冒険するのもよし、すぐそばにいる家族に愛情を注ぎ、居場所を見つけるもよし。すべて答えはあなたの中にある。あなたなりの冒険を、幸せを見つけて欲しい。ではこれにて選評は以上です。それではまた。近いうちにお会い出来るでしょう。私は大切な人にLINEでも打たなきゃ。それではご機嫌よう。また会う日まで。
2018年12月分選評【フル】 stereotype2085からの鼓舞「汝、冒険せよ」 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1165.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
作成日時 2019-01-13
コメント日時 2019-01-17
拙作に過分のご評価を頂き、有難うございました。自分は何であれ「賞」の対象になるような作品をかいている詩書きではない――と思って参りましたので、候補に挙げて下さったことを嬉しく思う(人間が幼稚に出来ています故、褒められることは好きです)反面、意外にも感じております。仰る通り、普段の自分がかかないものをかいてしまったことが、自分では予想し得ぬ反響を生んだのでしょうか。 このところ周期性のスランプ中で詩をかくことは愚か読むことさえ全く気が進まない状態で、詩書きらしいことを何ひとつしていないのですが、これを励みにまた活動に復帰出来ればと思います。その意味でも重ねて感謝を申し上げます。
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