仏壇の前棚に遺髪収まればなきひとのぬけがら絡まれる
戒名を捨てきし夜の浜辺にていさりびの沖へ灯れるを、見む
国花桜花勲章に殉じき蹴球選手と、観客
歓声は悲鳴のごとく焼夷弾降りし油の ねばつきにけり
火炎瓶投擲されて冬ざれの寒々し、血霰散りての忽ち
溶接機冬の底にてストーヴに温まるもあらず冷えてゆくなり
口角泡を噴く 粟立てる蜀黍の粒悉く潰し苛立ちぬ
雑詠のつかのまひかりかりがねの一羽ありけり、またも死にそびれ
草臥れた背広のをとこにライターの灯は瞬けり。地下駅を燻り
珈琲店分店にて同じモカ・コーヒーを頼みぬ、くりかへし
多様性はじめからありき殊更に論ふ自由競争主義は
夏枯れて向日葵の黒造影機磔のごと腐さる骸
存在の終点窮れる平和 命の遣り取りさへゲーム
ヒトゲノム老病に克を収むればつくづく健康といふ病
舌禍忌中の家に響き遺産相続係争の今 をろかにも
薬篭棚古物商取引番号に差すあかねゆふづつ黄昏の馭者
市販薬薬害問題もちあがり遂に迫れる偽碧十字
華美虚飾燦然教会カタコンベさへ美術、永続の欺瞞
分銅の別ちがたかる渦巻状星雲総質量は包紙のなか
酢漿草の花附きにけるはや老齢の古色蒼然たる野焼爾後
雑事熟しつつ今生一切雑談 緋のつばめ麦畠を渡りゑずの樹へ
放逐の過去をつれだち殺生坊クロードモネの桟橋に立ち止る
外套の襟窄めてを耐へるべし冬颪の野まで下りきて
塞栓 鬱血梗塞の冬柚子の皮肌に縋りて近き死と相対す
食卓の冬、渦巻ける薬液壜、鉱玉、蒸留器 レメディオスバロ借題
約款の死、定款の死、印鑑の死、拇指は血と朱肉に塗れ
アンドロメダ紐状銀河の枢軸に細長き瞳さびて黒体放射
地球揺籃嬰児の文明滅び拓きそして地球と共に滅びゆく森羅
本懐は拠って絶命ゆるしつる春闌けて人為絶ゑゆきぬらし
切傷の白き断面血塗れの恍惚境に興ずいのちありけり
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 723.2
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2022-12-01
コメント日時 2022-12-04
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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技巧 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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閲覧指数:723.2
2024/11/23 18時54分16秒現在
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詠むわたしたちに孤独が伝わってくる。そうでなければ短歌ではないと改めて思わせてくれる作品。
0おわっ、吃驚。 ありがとやした。
0定型詩に似ている。
0ありがとうございます。 実はここずっと一年、短歌をつくっているのですが、本作は一日分の詠草をのっけたものです。
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