別枠表示
トッカータ
あの暑い夏の夜に君は死んだ、といってもそんなに大きな間違いをおかしたことにはならないはずだ。 あるいは、死んだのは僕のほうかもしれないし、二人とも死んだということなのかもしれない、なんて、だれかの引用みたいだ、と君は言うだろうけど、本当のところは二人で死んだようなものだったのかもしれない、とも思うし「一緒に死のうね」っていったときの君が、本当はただ単に何かがうずいて仕方がなかったことくらいは分かっていたつもりだ。 あの暑い夏の夜は空気がなぜかとても薄くて僕はほとんど息をするのもやっとで、すがるように見上げた夜空に星はみっつしか見えなかったので、僕は泣くことにしたのを覚えてる。 あの時も、君のなかの僕が死んで僕はとても悲しかっただろうかと思い返すと、もうよく思い出せないでいるけど、ひとつだけはっきりと思い出すのは、僕は君ことを少しも「かわいい」なんて思っていなかったっていうことだけで、だから、君のなかの僕は、僕のなかの僕と君のなかの君よりも遠く隔たっていて、それでも、それは僕の中の君が、君のなかの君よりもずっと醜かったことの言い訳にはならないし、それでも僕が君の声を聞きながら夢をみたいとあれほど願ったことは、もうどうにも取り返しのつかないことだった。 本当に取り返しがつかないことだった。 僕と君はあの夏の夜に死んで、そして星になったのかもしれないね、って君はいうけど、それは僕が昨日夢にみたことかもしれなくて、僕の中の君の中の君は静かに頷きながら涙を流して、さようなら、の一言もいえないまま、ただただ、瞳を輝かせるだけで、君の中の僕の中の僕は今頃いったいどうなってしまったのだろう、とあの頃はよく考えたものだ。 少なくとも、僕は君の中の僕の中の君や、君の中の君の中の僕の中の君が、夢の中の夢のあの川沿いの桜並木の下で美しく出会っていたらどんなに良かっただろうにと、そんなセンチメンタルに浸って孤独なピアノを聴いていたら、風が吹いて、君は、あの暑い夏の夜に、やっぱり死んでしまったのかもしれなかった。 あるいは死んだのは君の中の僕の中の僕の中の君の中の君で、本当のところは僕の中の君の中の君の中の僕の中の僕と、君の中の君の中の僕の中の君の中の僕の中の君が、あの暑い夏の夜にみんな死んでしまったということなのかもしれないし、死んでしまったのは、やはり君の中の僕の中の僕の中の中の君の中の「僕と君」と、僕の中の君と、僕と、君と、君の中の「君と僕」だったのだ、としてもやはり、どうにも取り返しがつかないのは、まったく同じことだった。 だから、僕の中の君は、みんなひとりずつ、君の中の僕にさよならもいわずに、あの暑い夏の夜に、本当は「嫌い」のひとことを僕の中の君の中の僕の中の「君と僕」にそっと添えて、そして、君はまた死んでしまうのだろうか。
トッカータ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1247.2
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2021-07-05
コメント日時 2021-07-12
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
君と僕、という言葉の修辞に拘られていらっしゃるのは読み取れましたが、少し読むのが疲れました。どのように他者に見られているか、という問題が死を絡めているにも拘わらず、人間関係の齟齬を思わせる、その切なさに、詩的美貌を見る限りはこの世に花は有るのでしょう。ちょっと泣きたい。(笑)
1落ちる形態は内容なのかStyleなのかという。君と僕、その二つの絡みの様は、夏の夜の死がある情景だけを背景にされてるためなのか、主旋律として出ている。音楽と言語を組み合わせる一つの方法論としては味が出ている。けれども、作者の文脈、つまり作家survof氏の復帰二作目の作品がこれでよかったのだろうかと、物足りなさを言ってしまいたくなる。前回の復帰一作目ではこれは上等な現代詩だなあという印象ではあったけれども、何のために復帰されたのかという、そのテーマは隠されたまま。上等な現代詩、あるいは、方法論の新たな旅路だといったところでは、みうらは納得しない。いや、#あのね、みうらさん、この一年間煉獄でのたうち回ってたんですわ、ふふ#ぐらいの神業をみたいものだ。 ゆるさないから
1詩的美貌。いい言葉ですね。泣きたい時は泣いたらいいと思います。
1僕の中の君の中の君の中の僕の中の君の中の僕が、あの暑い夏の日に死んでしまったということなのだと思います。そして多分、君の中の僕の中の僕の中の君の中の僕の中の僕も、もう死んでしまったということなのでしょう。だから、ゆるしてほしいのです。
0気味の中の僕や僕の中の君、そういうののズレみたいなものがかなしくなりました。長かったけど読んでてきもちかったです。暑い夏の日のはなしだけど、ひんやりする感じがしました。
0