いななき生きるをまるごと置き去りにして
地平線への伸長こそが腕だった
はるかな方角へ漂う伸長は
どこまでも追い風だった
進み向かっていた
少なくとも
向かうべき場所を宿していた
肌を撫でる乾燥が想起させた渇望は
肌の湿度そのものである
ことを
しかと
悟った
あの昼の
十二時間の邂逅もまた
まさに腕の
たった一度の
オルタナティブな
伸長だった
はじめて伸ばした伸長は
次の瞬間を求めただけの
それだけの腕でした
サテン生地を染め尽す体液から吹き上がる
上昇気流の根本に置き去りにされた
息の底に沈殿する舌に
ねっとりと囚われたまま
全視界を掌でさえぎって
膨張し続ける宇宙のあの速度を
ハッブル定数と呼ぶそうです
あの日に浮上した
定数の速度ではしる
匿名の喧騒の全集合はきっと
あの今にも落ちて来そうな邂逅達の
補集合なのですね
邂逅達を補うためだけにある
残りの全てなのですね
一回りの十二時間は
恒星の速度で
まあるい惑星ごと
彼方に追い越され
柔らかな肉体だけが残っている
はるかへの腕こそが腕だった
いななき生きるを
丸ごと置き去りにして
身体感覚こそ
しかと残っている
腕一本で確かめた
全身の残像が進む先の
決心した方角に
伸長するこそ腕だった
直線性に導かれ
全身を振り上げ
全身を振り抜く
往来する速度に
先行する視線が
傾斜する自重を従者とした
遠方の身体接続のみを携えた無言のもとで
夜半に渦上にさんざめくイデアの模写たる
未踏峰への無断侵入が半透明のベール越しに見えていた
彼方へうっすら伸びる腕は腕だった
遥か後方
水滴が
は
じ
け
た
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 2100.1
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 3
作成日時 2021-06-30
コメント日時 2021-07-07
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 3 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
閲覧指数:2100.1
2024/11/23 19時02分05秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
作品を拝見させて頂きました。 はじめて伸ばした伸長は 次の瞬間を求めただけの それだけの腕でした 腕を伸ばすという行為を詳細に描写されていて、とても素敵だなと思いました。 最終行の、はじける、という部分も好きです。 良い作品をありがとうございました。
1きょこちさん、コメントありがとうございます。 はじめまして。 身体描写を比喩として用いてそれで語る、ということを実験的にやり続けています。 まだ詩的な達成は得られていませんが、良い作品というご評価をいただけて嬉しく思います。
0実は前作がとても気になってビーレビに投稿されている作品一通りお読みしました。全体的に感じたのは、言葉のリズムの心地よさで、それをどうして心地よく感じるかってうまく言葉にできないんですけど、例えば、聴いている音楽の趣味が実は似ているとか、実は読んできたものがだいぶ被るとか、そいういったことにあるのかもしれなくて、それは別に共通点を探したいということではなくて、ただ単に、言葉のリズムや響きの心地よさの好みって、もしかしたら普遍的では決してあり得ないのかもしれないな、ということを感じたのでした。 それでも、やはり言葉のそれぞれの響きと重さに心を配っているこのような作品は、意味を考えることもなく何回も読んでしまいます。 なので、気になった点が単に個人的な好みの問題なのか、それとも、もう少し普遍的な(つまある程度拡張可能な範囲において)種類の問題なのかはちょっと確信を持ちかねるんですが、個人的には >>たった一度の >>オルタナティブな >>伸長だった の「オルタナティブ」は全然、気にならなくて、すごくしっくりくる一方で >>膨張し続ける宇宙のあの速度を >>ハッブル定数と呼ぶそうです のハッブル定数や「全集合」「補集合」といった数学用語、それから >>夜半に渦上にさんざめくイデアの模写たる >>未踏峰への無断侵入が半透明のベール越しに見えていた といった部分で、言葉が悪目立ちしてしまって、一瞬、注意が言葉の響きや流れにではなく、詩句の意味に気をとられてしまう、というところがあります。 それは、例えばピアノの演奏に心を委ねている最中に、ピアニストの特定の癖が気になってせっかくの音楽が台無しになってしまう、という瞬間に似ている気がしたのでした。
0手帖の投稿欄に掲載された試しはありませんが、この作品が掲載され得るのであれば確かに手帖だろうなと自分でも感じます。 私はテクニックがある。それは分かっているんです。でもただテクニカルなだけ。それも分かっているんです。 芸術人はよく「テクニックはあるよね、テクニックは」と言います。これは褒め言葉ではありえません。 >> 貴方は上手いようだけど、それ以上がまだないね。上手い人は、早く、上手いの先へ行かないとね。でもなかなかいけないよね。その葛藤の形跡がこの作品にはないね。だから、退屈なのかな。 このコメント、「はい知っています、だからこそどうすればいいか分からなくなっています」って感じでした。 ただまだまだ諦めません。いつか先へ行く道を示してやりますので、見ていてください。 渇望だけではなくその下にある葛藤、そしてそれ以前の感情の萌芽までも書ききってやりますので、楽しみにしていてください。 とても有り難いコメントでした。ビーレビをまた好きになりました。
1survofさん、コメントありがとうございます。 また、投稿作品に目を通していただきとても嬉しく思います。 全ての作品を朗読向けに作っている訳ではないのですが、朗読作品も作っていることからそこあたりがリズム感として出ているのかも知れません。 ただ、それは普遍的ではないだろうとは自分でも感じます。 挙げていただいた部分、ハッとさせられました。 「オルタナティブ」の部分は完全に音が先だったのです。意味は後付けですね。 口から出てきた言葉を文字として落としました。 最後まで悩んだ部分で正直こんなことしていいのか迷っていました。 結果、良い部分となったのは僥倖です。 それ以外の挙げていただいた部分は 意味合いや音を複合的に考えて、若干手癖で書いたとも言える部分です。 特に >>夜半に渦上にさんざめくイデアの模写たる >>未踏峰への無断侵入が半透明のベール越しに見えていた はもう私の手癖ですね。ほぼ無意識で書いています。 意味先という訳ではないのですが、真実に必要だと検討して書いた部分ではないと感じます。 cold fish さんのコメントと合わせて考えますと、この作品は テクニカルではあるが隙がないほど練り込まれている訳でもなく かと言って書かねばならないほどの切迫感が伝わる訳でもない、そんなところでしょうか。 確かにそうだなと納得させられます。 ありがとうございました。
1