最初からいた家族続いて作成した家族友人その他コミュニティおよび仕事および趣味などすべてシームレスにつないでいっしょくたであるらしいわたしは聞いたとおりに話しているこの世のあらまし
教えびとここにはいず森林の伐採のさいちゅうであった父は作家でした小説を書いていましたでも作家でご飯を食べていたわけではありません文具メーカーの営業の仕事で暮らしていました書いている父にどうして小説家じゃないのと幼い私が尋ねると父は決まって作家っていうのはね職業じゃなくて生き方なんだよと応えていました
旅の途中なんですってオイラ応えた何してるのって訊かれたからファミレスの裏で残飯あさってたんだ野良猫みたいにだから咎めて言ったんだと思うウェイトレスさんは何してるのっ旅と彼女はクエスチョンマークなしで言った自分に確認してるみたいな言い方だった
高田馬場で降りて二十分くらい歩いたら早稲田大学だった冠みたいなのかぶってる時計塔写真とかで見て知ってたそのすぐ裏手にお姉さんの部屋はあったみすぼらしい建物だった狭い階段で早稲田大学出身なんですかとお尻に尋ねたらなわけないでしょって応えが笑いと一緒に降ってきてなんでだろな嬉しかった安心したんだ二階建ての二階には部屋が二つあって手前の部屋からは酸っぱいみたいな変な匂いがしてそこ通りすぎた奥の部屋がお姉さんの部屋だった
大公の聖母にはねほんとは背景があったのよえ十年くらい前にねエックス線で調べたらわかったらしいのその絵には実は具体的な背景があったんだって真っ黒な背景をもう一度よく見てみたそのブラックちょっと不自然じゃないそう言われてみればって思った黒すぎるなんだろう服の色との対比がどっか微妙にラファエロさんっぽくないかもなんか安心って言い切れないみたいなブラックがね二度塗りされてたの後世の誰かの手によってどうしてわからない隠蔽されたということだろうかこの母子の背景がいた場所が背景に何が描かれてたのかエックス線でもわからなかったんですかはっきりわからなかったみたいだから永久に謎のままため息ついちゃったそんなことってあるだろうか何が描かれてたのかとても気になる背景って大事なんですねってオイラ言ったらしい深く考えずにただ言ったんだだからリカさんの反応に驚いた背景が大事オイラくん今そう言ったのね背景が大事ってそうねそうよねいる場所って大事よねそうだなんでもっと早く気がつかなかったんだろう人物と同じくらい重要だよね背景ってそう言ってからリカさん固まっちゃった目のないオイラを見つめて動かないリカさんオイラなんか変なこと言っちゃっただろか絵のことなんて全然わからないのに余計なこと言っちゃったのかもしれないあほら給食とかでえっと好きなものとそれほどでもないのが出たとき先に好きなのから食べちゃう人と好きなのはあと回しにしとく人がいるじゃないですかってオイラ何言ってんだろあだからつまり人物画なんだからまずは人物を仕上げちゃってそのあと背景でもいいんじゃないですかねこうベツバラみたいな自分でも何言ってるのかわからないそしたらリカさんいきなりこっちを見たそんでオイラの肩を掴んだあごを引く感じでまるで牡牛みたいな姿勢になってオイラに言ったありがとわかった気がする少し考えてみる目が変なふうにきらきらしてたしかるべき場所に置かれたら瞳はまた違うふうに光るのかもしれないわねリカさんの言葉呪文にしか聞こえなかった
かえるのうたがーってオイラ弾きながら歌った愉快な気持ちだった帰宅したリカさんに歌って聴かせたでもリカさんの反応は薄かったそれからGとFを練習してFGCって流れる簡単な歌を勉強したリカさんが書いてくれた歌詞付きのコードとか見て頑張ったくたびれるとラファエロの画集を開いた小椅子の聖母と見つめ合った大公の聖母のバックの闇を睨んだそんでまたウクレレを弾いた左手の弦を押さえる指が痛くなったけどまあそのくらいどうってことなかった音楽と戯れるのは楽しかったそんでリカさんの休みの日になったリカさんはやっぱりヘッセを読んでた向かいでオイラはウクレレ弾いてただいぶ上手くなっててリカさんの紙に目標曲って書かれてたわれは海の子の練習に取り掛かってた最初のとこをまず覚えてそんで歌ったふざけて替え歌にしてみたオーイラだーれのこしーらないよー向かいでリカさん本に目をやったままでもくすりって笑ったお聴いてくれてたんだねって思ってオイラまた大声で歌い始めた夕方になって歌の全体を弾き語れるようになったそしたらリカさんぱたっと本を閉じて一緒に歌おっかって言ってオイラと一緒にわーれはうーみのこって歌った二番まで一緒にきっちり歌ったで歌い終わったらリカさん突然言った海見に行かない海かって思ったいいなオイラわりと泳ぐの得意なんだ昔溺れて悔しくてそれからひと夏学校のプールで特訓したからねじゃ来年の夏行きましょうってオイラ言ったリカさん首を体操するみたいに傾けたそんで言った行っちゃわないすぐにでもそろそろ寒くないですかそうねえうんそうねうーんまあそうよねえリカさん何かを迷ってるみたいだった何を考えているんだろうゴルトムントはねって今度はリカさん違うことを言ったあ読み終わりましたか頷いてからリカさん立ち上がって窓辺に行ったそんで外見て軽く伸びするみたいにしたあと背中で言ったたくさんの女の人の欠片ほらさまよいながら集めた秘密の欠片そういうのを活かしてねで聖なる母の像を彫りたいって思うのよあそうだそういえばそうゴルトムントは幼い頃にお母さんを亡くしてるのそうだっけたくさんの女の人の中にさがしてたのかもしれないわねお母さんをそうかでもね聖母の像は完成しないのそうでしたっけそうアグネスっていう女の人を好きになってねでもアグネスは偉い人の思い人だったのよだからゴルトムントは偉い人にね死刑を宣告されちゃうのああそうだった思い出したそれで聴聞僧がやって来るんだそしたらそれがナルチスだったんだそう修道院に残ったナルチスがゴルトムントを助けてで修道院に連れて帰るのそうでしたねそっかゴルトムントは最後に修道院に帰ったんだ違うわえ修道院がゴールじゃない旅の終着地点はねゴルトムントがたどり着いたのはどこでしたっけいえ教えてあげません自分で読んでごらんなさいもう一度できたらあなたがもう少し大人になったときにそう言ってリカさん振り向いた太陽の光を背中から浴びてリカさんなんだか女神さまみたいに見えたオイラ言ったもう大人ですよ明日から十月そんでもうあとひと月経ったらオイラ十六歳ですからね十一月生まれはい蠍座です盛大にお祝いしなきゃね何日なの十一日です半ばシルエットのリカさんがなんでだろう彫刻みたいに固まっちゃったもう一度言った十一月十一日ですよ一が四つ覚えやすいでしょ何年生まれ昭和五十五年です彫刻が崩れたいきなり手を握られたリカさんの顔が近くにある息がオイラのおでこに当たった昭和五十五年の十一月十一日に生まれたのねってリカさんオイラ頷いたなんだ何がいったいどうなってんだリカさんが見てるオイラの目を覗き込んでる行きましょうってリカさん静かに言ったどこへ決心したってリカさん美術の学校に行くための貯金全部崩すからえだからお願いついてきてなんですか急にどうしたんですか明日図書館に行って本を返してきては会社に挨拶に行くから背筋を伸ばしてリカさんを見たなんだかよくわからないけど何か大きなことが始まろうとしていたリカさんにくっついてオイラどっかに行くんだろうか悪い予感はなかったそれにって思った心は決まってるリカさんと一緒ならオイラどこにだって行ってやる
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 935.1
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-12-10
コメント日時 2020-12-11
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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音韻 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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閲覧指数:935.1
2024/11/23 19時21分55秒現在
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私たち世間一般の読者には語り手の意図をつかみあぐねる表現なばかりか日常には到底ありっこない出来事といいきれるのだけれど、たとえば先の『挿入』でもちいられた「記録」という言葉のありようをおもいかえせば、「シームレス」がどうして重要なのかもふくめて語り手のいわんとすることがわかる気がする。物語における自己同一性については、すでにベケットによってあるべきかたちが内側から否定されてしまったのだから、あるべき同一性が内側から否定されたところからのさらなる敷衍(時代をさかのぼってプルーストがすこしばかり触れているように考えるけれどどうでもいい)があってもいいようにおもう。そういえば疑似科学の域を出ないものでAB型の人が思考するさい絶え間ないダイアローグがくりひろげられているというようなのがあったように記憶しているがどうだったか。ところで私はどんな書き手だって義務やら伝統やら潮流やらから解放されるべきだとおもっていて、読み手にしても同様だ。これは伝統やらが大事なぶんだけひとしく大事なのだ。必要だとおもわれるなにもかもをわすれて本作をながめていると、どういうわけかこの支離滅裂なことばの連鎖が現実味をおびてくる。二日ほどまえの夢のなかで西落合のファミレスで夕食を摂った。なにかほかの夢をはさんで帰りは路面バスをつかって東中野の自宅にむかい、どこかの場所にいきついたのだけれど、私の記憶はほかの思考にじゃまされてしまった。現実の世界であっても旅行先などの記憶のたしかでない土地でやはりすっかりわすれているようにおもう。これはかなりベケットっぽいとおもった。そういえば地元の路面バスにはよく飛ばす運転手がいる。つり革や手すりに触れていてもまっすぐ立っていられないくらいのものすごい急発進と急停止をやってのけるのだ。『曲がり角』の曲がり鼻にはなにか人の気持ちを昂らせる作用でもあるのか。もしそうだとしたらいくつもの曲がり角を知っている私らはどんな物語を書きたくなるのだろう。わすれるという行為は私のような記憶力に難のある人間がうっかりしてしまうものと、もうひとつ別なかたちのものがあって、それは多分、目的を持ってわすれていたんじゃないかとおもう。人間の営みにはほんらい消極的でないかたちでの[忘れる]があったのを、舗装された路面で曲がり角をいくどかまがるさなか、読者はあのくだりをおもいだしつつ、想像するのではないか。
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0感想読み解いています。こんなに楽しいことはないですよ。ありがとうございます。
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