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深海の夢
深海魚は深く深く潜りたがる 背筋の伸びるような冴えた酸素 あたたかなハイドロゲンに包まれ 盲いた目の奥で四億年昔の夢を見る 真っ直ぐに夜とあけぼのが訪れて なだらかな湾曲がゆれた 平たい浅瀬の夢を ああ、あの汲々とした硬き愛し子は とうにしなびて埋もれてしまった 水温がまた下がる あのあわれなパースエイダーのせいで 兄は白けた灰になってしまった 水温がまた下がる 酸素が溶け出していく水面 形作られる足に恐怖しながら ゆっくりとこうべを垂れた あの白波には恋人が沈んでゆく 惹かれ合い求め合うからさびしいのだ 閉じることもできないまぶた ならばいっそ沈んでしまいたい 夢さえ見ない夢、齢四十六億の一端へ 昇りゆくあぶくに別れを告げ ゆっくりと分解される幼子を追い そうして深く深く潜りたがった 遥か先に待っているのは きっと宇宙一孤独な抱擁 傍らには涸れた兄弟たちが眠る すっかり肉も骨も捨て去り タールのような姿になってひとり ひと沈みごとに強まる愛に身を委ねていれば 一億五千万と二百も先の恋人のことなど きっともう二度と思い出すことはない 心地のいい微睡み 茫漠たるしじま ここには永遠に夜明けが来ない はらはらと降り積もる生の残骸を見上げ やわらかなえらは今日も這いつくばる 深い水底でたゆたう鼓動 濡れた眼窩に夢を浮かべながら
深海の夢 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1013.2
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 12
作成日時 2020-07-21
コメント日時 2020-07-21
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 12 | 12 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.5 | 2.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0.5 | 0.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 6 | 6 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
深く深く潜りたがる深海魚。 死を連想させる描写の層でありながらも、この深海魚は死ぬのではなく、ただ一匹生き長らえながら、夢さえ見ない夢を見る。 一貫した重たい幻想的な世界観が暗い海を捉え、その重たさが寂しいが、心地よい作品でした。 大切なもの達は、全て死んでいったという設定も、この深海魚の静謐な孤独を際立たせるもので、考えられているなあと思いました。
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