わたしにとって、桜とは空から降ってくるもので、それは天気の一種であります
ビニール傘の薄い膜が、わたしを花びらから護っています
なぜならわたしは弱く溺れており
水溜りを撫でる北風が、わたしの姿を(あるいは、誰かを?)
際限なく細切れにして
際限なく傷ついてゆくとき
かつて、空へとなびいた黒髪や(今はもうなびかない)
水溜りを犬のように蹴って、こちらを振り向いたひと(あるいは、扉を?)
使うとなくなってしまう言葉を使ってそれらを書き留めてゆきます
次の日は、一匹の翅虫が降りました
きっと地に留まるための翅だったのでしょう
かわいそうに
天気によってひとが傷つくことを
知っていたのでしょうか
また会えるのでしょうか
ゆっくり話す人になりたいと思います
ゆっくり笑う人になりたいと思います
(春風が吹いている)
作品データ
コメント数 : 17
P V 数 : 2702.4
お気に入り数: 3
投票数 : 0
ポイント数 : 38
作成日時 2020-03-30
コメント日時 2020-04-13
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 13 | 13 |
前衛性 | 3 | 3 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 8 | 8 |
音韻 | 4 | 4 |
構成 | 7 | 7 |
総合ポイント | 38 | 38 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2.6 | 1 |
前衛性 | 0.6 | 0 |
可読性 | 0.6 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1.6 | 1 |
音韻 | 0.8 | 0 |
構成 | 1.4 | 1 |
総合 | 7.6 | 4 |
閲覧指数:2702.4
2024/11/23 18時41分43秒現在
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すばらしい、の一語。ほかに言葉がない。
1はじめまして。 春の雨の表現と “使うとなくなってしまう言葉を使ってそれらを書き溜めてゆきます” というフレーズが素敵だと思います。
0「決意」という言葉が持つ堅さとは裏腹な、柔らかくて丸い最後ですね。桜の花びらに傷ついてしまうくらい繊細な方の優しい詩に出会えて、とても嬉しくなりました。 電気の周りを舞う羽虫の大群を掃除機で吸いまくる私には、到底書けそうもない優しさです。←
0>>石村利勝さん ありがとうございます
0>>フィフティーさん 空から落ちてくる桜が天気の一種だという着想は、自分が言語学者になって、未知の言語を話す部族のところにフィールドワークに行く妄想をしていたときに、その部族が話す言葉では、空から落ちてくるという意味の接尾語が名詞につくことで天気を意味するようになる(例:光-空から落ちてくる=晴れ、水-空から落ちてくる=雨、等。ただし僕の頭の中でこの世界は200年前から小氷期に入っており、『雪』だけは200年以内に隣の部族から入ってきた外来語で、この法則に従わない という論文を書くという妄想をしていました)というアイデアを得て、これは詩にも使えそうだなと思い、とっておいたものです。 “使うとなくなってしまう言葉を使ってそれらを書き溜めてゆきます” は、以前Twitterで「言葉は使ってもなくならないんだから、もっとありがとうとか口に出していこう」的なツイートを見て、逆に言葉が使うたびになくなっていったらめっちゃ面白いなと思い、これも詩に使えそうだなと思い、とっておいたものです。
0>>フィフティーさん 隣の部族→北の部族
0ぼくも羽虫の大群が電気の周りを飛び交っていたら掃除機で全部吸ってしまうと思います。ぼくは優しくも繊細でもないですし、他より多少偏執的なだけの人間にすぎないです
0返(物語)詩です。 「桜観測所」 桜観測所では、ネムネムおじいさんが、世界中の桜を見守っています。 ネムネムおじいさんは、春風望遠鏡を通して、全ての桜の木を見ているのです。 ネムネムおじいさんの足下をトタターと走り回ってる男の子は、パチクリくん。 ネムネムおじいさんの助手として、一緒に桜の木を見守っています。 パチクリくんは、春風望遠鏡を覗くより走り回ってる方が多いのですが。 たった今、今年、世界で初めての桜の蕾がほころびはじめました。 ネムネムおじいさんは、春風望遠鏡の焦点をそこに絞り、じっと見つめました。 桜の蕾が、今にも咲き、花へとなろうとしています。 ネムネムおじいさんは、パチクリくんを膝の上にのせ、パチクリくんと一緒に、その開花を見守りました。 パチクリくんは、桜を応援するようにふうふう息を送ります。 ネムネムおじいさんは、パチクリくんの口を手で優しく押さえて言います。 「ゆっくり、あの蕾の咲きたいようにさせてあげなさい」 パチクリくんはこくこく頷くと、息を送るのもやめ、ネムネムおじいさんと一緒に蕾の開花を見守ります。 桜の蕾は、震えながら、今、桜の花びらに開花しました。 その花をさきがけとして、次から次へと、桜が開花していきます。 世界中の桜が咲きました。 桜の花の季節です。 ネムネムおじいさんは指差しました。 「あっちの桜の下にはたくさん人がいるね、こっちの桜は山奥で静かに咲いているね。人が見ていても、いなくても、ちゃあんと咲くんだねぇ」 パチクリくんは目をまるまるにして、春風望遠鏡を覗きました。 ネムネムおじいさんは、パチクリくんの頭をくしゃくしゃ撫で、聞きました。 「どの桜がいい?」 あれかな?、これかな? 右に、左に、首を傾げて、でもなかなか決められませんでした。 なぜって、どの桜もとてもすてきだからです。 ネムネムおじいさんは、言い方を変えました。 「どの桜が好きだい?」 パチクリくんは、たくさんの桜をつぶさに見て、一つに決めました。 緑あふれる家の庭にある、小さな桜の木。 ネムネムおじいさんは、確認しました。 「本当にあの桜にするんだね?」 パチクリくんはこくこく頷き、ネムネムおじいさんの方を見ました。 その目があんまりにもまんまるだったので、ネムネムおじいさんはにっこり微笑みました。 ネムネムおじいさんがにっこり微笑むので、パチクリくんもにっこり笑いました。 ネムネムおじいさんとパチクリくんは、桜の花びらが最後の一片まで散りきるのを一緒に見守りました。 さあ、葉桜の季節です。 * 返歌です。 君は今、入学式にいるのかなずっと見てるよ桜観測 * 散っても散っても咲く、 桜のように生きることを願って。
0かわいい、かわいい詩です。最近のそとばさんの作風はかわいい方向に向かっているような気がします。共感覚的で、詩句にはその感覚、雰囲気に身を委ねたような物も多いのですが、全体として統制が取れていて良いと思います。最後の(春風が吹いている)は少し陳腐かなとも思いましたが、それでも上手く読ませ切るだけの言葉の流れ、暖かさがあります。
0僕の車を停めている駐車場は、裏手に桜並木がありまして。この季節には花開くこと、車の屋根に差し掛ける傘の如くでありますから、花吹雪の文字が実感できるほどには、我が車は桜を浴びております。出掛けるには先ず花を払うのがひと仕事でありまして。花弁やら萼からが車体に張り付き、必ずしも愉快な仕事ではないのだけど、それで駐車位置を換えようという気にはなれず。黄砂を齎し花を散らすというより樹を揺する春風は優しくはなく、できれば乱暴はしないで欲しいものですが。これを止める力など僕にはなく、風々吹くなと呟くばかり。ビニール傘はお勧めできかねます、あれは余りに安価で職人の仕事を奪い、余りに透けて見えるので恥知らずにも、つい傘をさしたまま天を仰いで仕舞うのです。
0綺麗です。なんだか、泣きたくなってしまう詩だなあ。
0返詩ありがとうございます。
0詩がかわいいというのは多義的な感覚だと思うし、夢うつつさんが具体的にどういった意味でそう言っているのかは、私にはわかりませんが、うれしいです。私は、かわいいと言われることがとても好きです。かっこいいよりも好きです。
0桜吹雪のなかにいると、傷ついたような、早死にしたいような気持ちになってしまいますね。凡庸と言えば凡庸ですが、たまには凡庸なものを書いてもいいかと思い、この詩を書きました。 ぼくはビニール傘が好きです。透明なので。
0そう感じていただけたならうれしいです
0第一行目が一番の好みです。言葉のつながりがスムーズすぎないので、その隙間に自分の想像いっぱい詰め込めるというか。 「詩は読者が作るもの」とはよく言ったものです。
0詩の冒頭はなるべく強くしたいので、温めておいたとっておきのアイデアを使うことが多いです。(空から落ちてくる桜が天気の一種だという着想を得た過程はフィフティーさんへの返信に書いてあります) 行間の多い詩だという意識はあまりなかったので意外です。
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