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冬、息絶える
生命維持装置の空回るローターは 青臭く、また、緩やかに生温かい 宗教上の理由で太陽を殺したこの惑星の僻地には 輪郭のぼやけた月が一日中浮かんでいて 不気味なほど手入れの行き届いた無菌室の 別段硬くもなければ柔らか過ぎない 殺菌処理されたスチールベッドの上で まだ柔らかい君の背骨に触れてみる 滞りなく貫き、挿入される指先が 透明なみどり色に濡れて 冷たい、と感じるのは僕も同じで 足元で絡まりあう二匹の蛇は 互いを(互いに)捕食しあって(やがて)間抜けな頭一つ(計二つ)になって(そうして)最後の一口(と一口)によって完全に(不完全に)消滅する 神話を話すような発音が乳白色の壁に、床に 反響して散らばる (塵や埃みたいに、)宇宙だ 燃え盛る鳥籠から鳥の声はもう聞こえない だから、僕も君ももう全部忘れてしまいたくなる 活字中毒症の君の前の彼氏の話とか 彼の脳に染み付いて離れない文字列の中に 君の君が焼き付いていないか気になって ふと、指の第一関節を折り曲げる 骨と骨との間に空気が入る快活な音が 不気味に響いて爪先がピンと糸を張る 恒星周辺をまわる星の運行線上 その真下に当たる雪の砂漠に影が降る 必然的に唾液は粘度を増して舌に絡み 身体は熱り脈拍は上がり呼吸は荒く、弾み この部屋の酸素濃度は下がって そうして、やがて火は消える 綺麗に折りたたまれたフェイスタオルの真っ白が 永遠の存在を身を以て否定しているように見えて 僕は二元論的思考をやめざるを得なくなり いつのまにか抜け殻を纏った君が なんら変わらないいつもの君が 隣に立っているだけで 僕は手首に付いたシーツの跡が少しだけ気になったフリをして、やめる 手を繋ぐ おぼろに春の窓辺には(この部屋に窓などないのだが)誰も死なない約束の文字が (内部結露の白紙に)指文字で(書かれた跡が)微かに残って オートロックの扉が閉まる音が 銀色のトレイに響いて その上で息も絶え絶えの冬が目を閉じて 一瞬開いて、また、閉じて 途絶える
冬、息絶える ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1521.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 19
作成日時 2020-01-02
コメント日時 2020-01-08
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 4 | 4 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 7 | 7 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 19 | 19 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.7 | 0 |
前衛性 | 1.3 | 1 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0.7 | 0 |
技巧 | 2.3 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.3 | 0 |
総合 | 6.3 | 5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
これはすごいと思いました。 頭が悪いもので、ちゃんとした感想書けなくて済みません。
0とても感動したので長文ですがコメント失礼します >生命維持装置の空回るローターは >青臭く、また、緩やかに生温かい 生々しい表現だけれども、初めに生命維持装置とあることが、それをあまり感じないと読むか、逆にエロスを増幅させているのかわかりませんが、好きな表現です。 >宗教上の理由で太陽を殺したこの惑星の僻地には >輪郭のぼやけた月が一日中浮かんでいて 太陽が殺されたという過激な表現のあとに、輪郭のぼやけた月。そもそも太陽が無くなったのなら、月も見えなくなるのでは?なんてことはどうでもよくなるくらい、とても幻想的なイメージを思い浮かべました。未来の話?地球以外の星の話?神話?と色々と想像が膨らみます >まだ柔らかい君の背骨に触れてみる この表現がこの詩の中で一番好きです >互いを(互いに)捕食しあって(やがて)間抜けな頭一つ(計二つ)になって(そうして)最後の一口(と一口)によって完全に(不完全に)消滅する ( )内を読まなかった場合、片方だけ残ったイメージ。( )内を読むと、ああ、二匹(二人?)とも消滅したんだ、しかも不完全にという表現に安心感をおぼえました。 >ふと、指の第一関節を折り曲げる 前後の表現より、激しい嫉妬のようなものを感じますが、「ふと」というのがさりげなさを演出している気がします。 >必然的に唾液は粘度を増して舌に絡み >身体は熱り脈拍は上がり呼吸は荒く、弾み >この部屋の酸素濃度は下がって >そうして、やがて火は消える この世界は冬に包まれて、さらに影を落として気温はぐんぐん下がっている。部屋の中の湿度が下がってきている。唾液の粘度が増す。それに対して、身体からは熱を発している。しかし、酸素濃度が下がり火が消えるという展開になるとは思いませんでした。まさにタイトルの通り「冬、息絶える」瞬間の1つ目。とても面白いです。 >綺麗に折りたたまれたフェイスタオルの真っ白が >永遠の存在を身を以て否定しているように見えて この部分でふと、亡くなった知人の部屋のタオルを思い出しました。知人は亡くなる何日か前から、既に自分でタオルを使うことはなかった。体を拭いてもらうために置いてあったけど、本人に直接使ってもらえないタオルは、どこか寂しげにみえたこと。 >オートロックの扉が閉まる音が 銀色のトレイに響いて それまでの情緒的な表現から突然入ってくる、ガチャッ、カチャカチャというような無機質な音、しかし、決してそれまでの雰囲気を邪魔せず、線香花火の最後のような、静かに冬が息絶える感じを味わうことができました。
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